第9話:時空の絶対固定と、零司の接近
法則の統合訓練
廃墟研究施設の地下ラボ。刹那、リナ、風見の三人は、協会の『時空改変』に対抗するための究極の複合魔術、『時空の絶対固定』の訓練に没頭していた。
風見は、ホログラムで時間軸(縦軸)と空間軸(横軸)の交点を表示し、その理論を説明した。
「協会の『時空改変』は、この交点を『切り裂く』ことで、過去の特定座標の時間を移動させようとする。それに対抗するには、刹那の『時間収束』で縦軸を安定させ、私の『空間安定化』で横軸を固定する。その二つの力が完璧に同期した時、『時空の絶対固定』が完成し、いかなる時空の切断も無効化できる」
「二つの法則の統合は、次元の矛盾を生む。少しでも同期がズレれば、君の魔力回路が、時空の奔流に耐えられなくなるぞ、刹那」
冴子が、傍らで見守りながら、緊張した面持ちで警告した。
「大丈夫です、冴子さん。僕には、『一秒の破片』がある」
刹那は、『一秒の破片』から放出される固定された時間軸の魔力を、自身の『時間法則のノイズ』に注入した。そして、その魔力を、リナの『時空の扉』の起動魔力と同期させた。
訓練は過酷を極めた。刹那は、全神経を集中させ、「時間」を制御しながら、風見が構築する「空間」の波を読み取り、リナの「時空」のズレを瞬時に修正しなければならない。
「――『空間安定化、五度!』」
風見の指示に、刹那は即座に反応する。
「――『時間収束、位相角、三度調整!』」 刹那の魔力が、リナの時空座標の微細なズレを修正する。
その度、刹那の全身から冷や汗が噴き出した。時間と空間の法則を同時に操る負荷は、想像を絶するものだった。
時間監視網の収束
訓練が最高潮に達した、その時。
風見が、顔色を変えて叫んだ。
「刹那!零司の『自動時間干渉感知器』が、我々の座標に収束し始めている!」
「零司が、この隠れ家を特定したのか?」
「いや、彼の感知器は、君の『時間法則のノイズ』が、私の『空間安定化』と同期した『特異な魔力パターン』を検知したのだ!君の訓練が、彼の時間監視網に、逆探知された!」
刹那の『法則の守護』のための訓練が、零司の『法』の追跡を呼び寄せてしまった。
「零司の到着まで、五分。彼がこの地下の空間安定化を破るのに、三分かかる!」
「時間がない!『時空の絶対固定』を、実戦レベルで完成させるぞ!」
刹那は、覚悟を決めた。
絶対固定の完成
刹那は、魔力回路が悲鳴を上げるのを無視し、風見とリナの魔力を一点に集中させた。
「リナ!全力で『時空の扉』を開け!シドが使ったのと同じ、広域の『時空断層』を再現しろ!」
「わ、わかりました!」
リナが渾身の魔力を込めて『時空の扉』を開くと、『時空の狭間』の不安定なエネルギーが、地下ラボに流れ込んできた。それは、シドが放った魔術と同じ、空間と時間の両方を切り裂く奔流となった。
刹那は、目を閉じ、『一秒の破片』の絶対的な安定性を、自らの『時間法則』へと完全に融合させた。
「――『時空の絶対固定』!」
刹那の全身から放たれた魔力は、時空の奔流を受け止め、それを一点に固定した。時空の奔流は、まるでガラスの中に閉じ込められた氷のように、動きを完全に止め、無害な現象へと変換された。
ラボ全体が、一瞬、絶対的な静寂に包まれた。
「成功だ……!時間と空間の法則が、完璧に統合された!」
風見は、歓喜の声を上げた。
零司との再会、そして共闘の可能性
ドオオン!
訓練の成功と引き換えに、零司が地下ラボの入り口に、『広域空間断裂』を放ち、分厚い扉を破壊して姿を現した。
「九条刹那!君の『時間法則のノイズ』の根源は、やはりここだったか!」
零司は、冷たい瞳で刹那を睨みつける。彼の後ろには、重武装した監査チームが控えている。
しかし、零司は、刹那の傍らに立つリナを見て、わずかに警戒の色を強めた。さらに、彼の足元には、刹那の『時空の絶対固定』の残滓が、彼の『空間断裂』を無力化した証拠として残っていた。
「零司。僕たちは、『時の協会』を追っている。君の『法』が裁けなかった、時空を操る巨大な敵だ」
刹那は、一切動揺せず、クールに零司に告げた。
零司は、監査チームに指示を出さず、静かに言った。
「その言葉を信じるとでも思うか。君の存在そのものが、『法』への反逆だ」
その時、リナが、自身の端末を操作し、零司の目の前の空間に、ホログラムの警告を表示させた。
【警告:時の協会、協会員・コードネーム『調律者』が、新生魔法庁の『起源の魔力貯蔵庫』に侵入開始。残り時間:8分】
これは、リナが協会から盗み出した、内部の機密情報だった。零司の顔に、強い葛藤が浮かんだ。彼の『法』は、刹那の拘束を求めている。だが、『秩序の危機』は、目前に迫っていた。
「零司。君の『法』の優先順位は、『僕の拘束』か、それとも『世界の危機』か。選べ」
刹那は、零司に、究極の選択を突きつけた。
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