第5話:協会の刺客と、零司の冷徹な判断
時空の狭間での協議
九条刹那とリナは、再び『時空の狭間』へと逃げ込んだ。東京大学の研究棟で神崎零司の罠を破ったものの、目的の『過去の魔力結晶』を確保するには至っていない。
「零司は、我々の存在を、協会の『起源魔力』よりも危険視している。彼は、『法』が唯一の秩序であると信じているからだ」
刹那は、自身の『時間法則のノイズ』を常に展開し、外界への魔力的な痕跡を消し続けていた。
「彼の判断は間違っていません。あなたの『時間法則の守護』は、世界の根幹に関わる力です。協会の刺客は、私たちが零司を出し抜いた直後に、必ず結晶を狙って現れます」
リナは、砂時計型の魔導具の調整を急いだ。
「協会の刺客は、誰だ。君の仲間か」 刹那のクールな問いに、リナはわずかに顔を曇らせた。
「元、同僚です。コードネームは『座標術士・シド』。彼は、私とは違い、『時空の扉』を、一瞬で『空間的な切断』へと変換する、戦闘に特化した時空魔術師です。彼なら、零司の空間封鎖を力で破るでしょう」
刹那は、シドの能力を聞き、すぐに戦略を組み立てた。
「零司の『空間固定』と、シドの『時空の切断』。二つの異なる魔術が、研究棟で衝突する。僕らが動くのは、その隙間だ」
零司の計算
その頃、東京大学、起源魔力研究室。
神崎零司は、割れた床に立ち、『自動時間干渉感知器』のデータを分析していた。感知器は、刹那の『時間法則のノイズ』を検知しつつも、座標を特定できずにいた。
「九条刹那の追跡を再開せよ!」
零司が指示を出そうとした、その瞬間。
監査チームのリーダーが、警戒の声を上げた。
「部長!新たな、極めて強力な時空の魔力反応が、研究棟の真上に現れました!あの時空の魔術師の比ではない、戦闘を前提とした魔力です!」
零司は、リナの警告(「その結晶は、私たちだけの目的ではない!」)を思い出した。
(刹那の行動は、常に『法則の守護』に基づいている。彼の逃走は、協会の動きが迫っている証拠だったのか)
零司は、冷徹な判断を下した。
「全チーム、九条刹那の追跡を一時保留!目標を、新たな時空魔術師、そして結晶の防衛に切り替えろ!」
零司の『法』は、私的な感情(刹那への断罪)よりも、公的な秩序の維持(結晶の防衛)を優先した。彼の計算では、結晶が奪われれば、新生魔法庁の信用は失墜し、世界全体が混乱に陥る。刹那への断罪は、その後の『秩序が回復した時間』で遂行すればよい。
「結晶の周囲に、『多重空間固定陣』を構築せよ!シドとやらの『空間切断』に備えろ!」
シドの降臨と激突
零司が指示を終える間もなく、研究棟の天井に、激しい時空の歪みが展開された。それは、リナの青い光とは違い、紫色の冷たい光を放っていた。
ズオオオォン!
紫の光が一点に収束し、天井が音もなく、幾何学的な円形に切断された。そこから、黒いフードを深く被った、長身の男が、無重力のように降り立った。座標術士・シドだ。
「まさか、新生魔法庁の監査部長自らが、こんなゴミのような場所を守っているとはね」
シドの声は、嘲笑を含んでいた。
「『時の協会』の者か。貴様らの歴史改変は、この『法』が許さない!」
零司は、迷いなく右手を構えた。
「『法』?あなた方の『法』は、時間の流れには無力だ。我々の手に、『起源の魔力』が戻れば、あなた方の『現在』そのものが、我々の『法則』に書き換えられる」
シドは、零司を無視し、結晶に向けて手を伸ばした。
「――『時空断層』!」
シドの周囲の空間が、時間軸に沿って層状に引き延ばされ、結晶を囲む零司の『多重空間固定陣』を、力任せに引き剥がしにかかった。空間固定と、時空断層の衝突により、研究室内部の空気が爆発的な衝撃波を伴って揺れる。
「耐えろ!奴の魔術は、空間の『層』を引き剥がす!固定陣の位相を合わせろ!」
零司は、部下に指示を出しながら、自らも『空間断裂』でシドの魔術に対抗する。
時間跳躍の潜入
零司とシドの激突は、刹那にとって、最高の『時間のノイズ』となった。二つの強力な魔術が干渉し合うことで、零司の『自動時間干渉感知器』は、完全に機能不全に陥っていた。
「今です、刹那!これ以上の時間の歪みは、零司にも予測できない!」
リナは、刹那の『時間法則のノイズ』と同期し、研究棟の地下から、炉心のメンテナンス通路を経由した、極めて複雑な座標に『時空の扉』を開いた。
刹那は、扉を潜る直前、リナに確認した。
「君の目的は、結晶の奪還。僕の目的は、法則の維持。シドに結晶を渡すな」
「了解です。私の転移で、結晶の真上に『一瞬の時空の穴』を開きます。あなたは『時間停止』で、その穴から結晶を『奪取』してください」
二人は、一瞬で研究室の内部、戦闘の真っ只中へと再潜入した。
零司とシドが、お互いの魔術の駆け引きに集中している、たった一秒の隙間。
刹那は、リナが開いた結晶の真上の『時空の穴』から、『時間停止』を放った。彼の魔力は、結晶とその周囲の空間を、外部から隔絶した。
そして、刹那は、自身の『時間跳躍』で、停止した結晶へと手を伸ばす。彼の目標は、結晶そのものの確保だった。
「もらった!」
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