第4話:大学研究棟への潜入と、零司の「罠」
任務の予習
東京の地下鉄廃駅を出た九条刹那とリナは、次の標的である東京大学の『起源魔力研究室』へと向かうため、深夜の街を移動していた。
「東大の研究室は、新生魔法庁が最も厳重に警備している場所の一つです。零司部長が直接、警備システムを構築しました」
リナは、手元の端末で研究室のフロアマップを表示させた。
「零司が作ったシステムなら、従来の空間魔術を使ったセキュリティだろう。だが、彼は僕の『時間干渉』に対抗するため、時間監視網を敷いている可能性が高い」
刹那は、自身の経験と、風見から学んだ理論で零司の思考を予測した。
「彼の『自動時間干渉感知器』は、広域の空間に微細な歪みを張り巡らせ、あなたの魔力の『予兆』を感知します。もしあなたが『時間跳躍』を使えば、即座に座標を特定される」
「ならば、『時間干渉』を『防御壁』として使う」
刹那は、リナに新しい戦術を説明した。
「僕の魔力を、『時間跳躍』の予兆を打ち消すための『時間法則のノイズ』として常時、微細に展開する。これにより、零司の感知器は、僕の魔力を『観測不能なノイズ』として処理する。彼の監視網の『盲点』を突く」
「法則の盲点……。あなたの『時間法則の守護』は、本当に論理的で恐ろしい」
リナは感心しつつも、すぐに戦術に組み込んだ。
「では、侵入は、私の『時空の扉』で。ただし、あなたの『時間法則のノイズ』が、扉の座標を狂わせないよう、私の魔力に同調させてください」
研究棟への潜入
深夜3時。東京大学、起源魔力研究室が設置された研究棟の最上階。
刹那は、自身の魔力を最大限に微細化し、全身を包み込む『時間法則のノイズ』を展開した。それは、周囲の魔力感知器に対して、自身の存在を「観測できない現象」として認識させる薄い膜だった。
「準備はいいか、リナ」 「いつでも」
リナは、砂時計型の魔導具を起動させた。彼女の能力は、空間を切り裂くのではなく、「目標座標の時間が、現在と一致する瞬間の空間」を呼び出すことで、『時空の扉』を開く。
刹那は、自身の『時間法則のノイズ』を、リナの魔力と同調させた。
キュオォォン…
研究棟の最上階の、厳重なセキュリティで守られた壁面に、青い星雲のような時空の歪みが開き、二人は音もなく研究室内部へと侵入した。
内部は、中央に目的の『過去の魔力結晶』が、厳重な結界の中で保管されている。結晶は、千年前の特定の時間軸の魔力を固定化したものであり、濃密な魔力を発していた。
「結晶は、あの中です。協会が来る前に、回収を」
「待て」 刹那は、結晶の周囲に展開された結界に、強い違和感を覚えた。
「この結界は、空間魔術ではない。そして、僕の『時間法則のノイズ』に、一瞬だけ反応した」
刹那は、一歩前に進むのを止めた。彼のクールな第六感が、「罠」を警告していた。
零司の待ち伏せと警告
その瞬間、研究室の壁面が、零司の『空間断裂』によって垂直に切り裂かれた。
「やはり、予測通り、君は来たか、九条刹那」
神崎零司が、監査チームを率いて、切り裂かれた壁面から姿を現した。彼の瞳は、もはや「法」の執行者のそれではなく、「秩序」の番人の、冷徹な執念に満ちていた。
「零司……!こんな場所に、君が」
「君の『時間法則のノイズ』は、確かに私の『自動時間干渉感知器』の『盲点』を突いた。だが、私は、君の『法則』を熟知している」
零司は、結晶を囲む結界を指差した。
「この結界は、君の『時間法則』に、『予測可能な魔力干渉』を誘発するために、特別に設置した。君は、『法則の守護』という名目で、必ずこの結晶に触れると予測したのだ」
零司の攻撃は、刹那の行動原理を読んだ、心理的な罠だった。
「零司!君の標的は、この結晶を狙う『時の協会』のはずだ!」
「協会の危険性は承知している。だが、君の『時間跳躍』と『時間再構築』は、歴史を根底から破壊しうる。私の『法』にとって、君こそが、最も危険な秩序の破壊者だ」
零司は、監査チームに指示を出した。 「時空の魔術師を拘束せよ!九条刹那には、『空間封鎖』を発動する!」
監査チームが一斉に、刹那とリナに向けて魔術を展開した。周囲の空間が歪み、『空間の絶対的な固定』が始まろうとしている。
共同戦線と時空の逃走
「刹那!空間が固定されます!私の『時空の扉』も使えない!」 リナは、砂時計型の魔導具を構えながら叫んだ。
「大丈夫だ、リナ。零司の『空間封鎖』は、『絶対的な固定』だ。だが、僕の『時間法則』は、その固定された空間に、『時間的なズレ』を打ち込むことができる」
刹那は、自身の『時間法則のノイズ』を、リナの魔力に同期させた。
「君は、『時間遅延』を『未来へのジャンプ』として利用しろ。僕は、零司の空間の固定を、一瞬だけ無効化する」
刹那は、零司の展開する空間固定魔術に対し、奥義を放った。
「――『空間逆流』!」
零司の『空間固定』の魔力が、刹那の『時間逆転』の力によって、一瞬だけ『発動する前の状態』へと、巻き戻された。
空間固定が解除された、たった0.1秒の隙。
「今だ、リナ!」
リナは、刹那の魔力制御を信じ、渾身の『時空の扉』を開いた。青い星雲が、研究室の床に広がった。
「逃がすか!」
零司は、刹那の魔術への対抗策を瞬時に構築しようとしたが、その時、リナが叫んだ。
「零司!その結晶は、私たちだけの目的ではない!時の協会の影が、すぐそこまで来ている!」
リナの警告に、零司は動きを止めた。その言葉の真偽を測るためだ。
その一瞬で、刹那とリナは、時空の扉へと飛び込み、再び『時空の狭間』へと消え去った。
「……刹那。君は、私を常に『法と秩序』の狭間に立たせる」
零司は、切り裂かれた研究棟の床に立ち尽くし、リナの残した「時の協会」という言葉の重みを噛みしめた。彼の「法」は、刹那という内なる敵だけでなく、「時空を操る外敵」との戦いも強いられることになった。
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