第12話:零司の解析と、協会の「第二の調律」
法の限界と銀の杖
新生魔法庁本部、厳重に警備された解析ラボ。神崎零司は、監査チームが回収した『調律者』の銀の杖を前に、苛立ちを隠せないでいた。
「どういうことだ。『空間解析』をかけても、この杖の魔力回路が特定できないだと?」
解析担当の魔術師は、冷や汗を流しながら報告した。
「零司部長。この杖の内部は、『時空の断層』によって、時間軸が絶えずズレています。空間的な解析座標が固定できず、我々の『法の技術』では、回路図を抽出できません」
零司の『法』は、『現在』の『空間の法則』に基づいている。時間軸の安定を前提としない『時の協会』の高度な魔導具は、彼の『法の技術』の範疇を超えていた。
(九条刹那の『時間収束』がなければ、この杖はただの『時間のノイズ』だ。私は、『法の外の力』に依存しなければならないのか……?)
零司は、自身の信念と、目の前の『秩序の危機』の間に横たわる、深い溝を感じていた。彼は、自ら解析装置に手を伸ばし、『空間法則』の魔力を最大出力で注入した。
その結果、一瞬だけ杖の時間軸のズレが止まり、内部から一つの暗号化された座標情報が閃光のように浮かび上がった。
座標:北緯35.6895度、東経139.6917度 - 『時間座標:1000年前の「時の波紋」』
この座標は、東京の中心部にある『国立歴史博物館』の場所を示していた。
「国立歴史博物館……!なぜそこを?歴史的資料か?」
零司は、すぐにその座標情報を基に、監査チームに出動準備を命じた。彼の『法』は、未知なる脅威を、確実な場所で迎え撃つことを選択した。
リナの警告と次の予兆
一方、廃墟研究施設の地下ラボ。刹那は、風見と冴子と共に、零司の動向を監視していた。
リナの魔導具が、零司の解析の成功と、協会の新たな動きを同時に感知した。
「零司が、調律者の杖から、次のターゲット座標を割り出しました。そして、協会の新たな刺客が、その座標に向けて『時空の扉』を開こうとしています」
「零司の解析は、僕の『時間収束』がなければ不可能だったはず。彼の『法』は、僕の『法則』を間接的に利用した、ということか」
刹那の表情に、微かな皮肉が浮かんだ。
「次の刺客は、『時の波紋』を専門とする『波紋術士』です。彼らの目的は、博物館に保管されている『第一魔法時代の遺物』から、起源の魔力を一気に『抽出』すること」
冴子が、不安を口にした。
「博物館には、強固な空間防御結界しかないわ。『時間の波紋』を使った抽出を防ぐには、『時間法則のノイズ』が必要よ」
風見は、急いで刹那に最後の助言を与えた。
「刹那!零司は、『空間の安定化』で博物館を守ろうとするだろう。だが、『時間の波紋』はその防御を無視して透過する。君の『時空の絶対固定』で、『第一魔法時代の遺物』そのものを、『絶対的な現在』に隔離するんだ!」
「分かった。リナ、零司と協会の刺客が衝突する直前の座標へ、『時空の扉』を開け。僕たちが、主導権を握る」
刹那は、『一秒の破片』を手に、クールな瞳で新たな戦いの舞台を見据えた。彼の行動は、『法』の追跡者である零司の意図を完全に読み取り、その一歩先をゆくものだった。
歴史博物館への転移
国立歴史博物館、中央展示ホール。
厳重な空間固定結界が張り巡らされた中、零司率いる監査チームが、『第一魔法時代の遺物』が納められた展示ケースを警備していた。遺物は、千年前の魔術の痕跡が残る、巨大な水晶の塊だった。
キュオォォン!
零司たちの背後の空間が、青い星雲のように歪み、刹那とリナが姿を現した。
「九条刹那!なぜここに!」
零司は、刹那の出現に警戒を強め、すぐに『空間断裂』の魔力を手に収束させた。
「零司。君の『法』のスピードでは、間に合わない。『調律者』よりも強力な刺客が、間もなく来る」
刹那は、零司に構うことなく、『第一魔法時代の遺物』へと視線を向けた。
その瞬間、展示ホールの天井が、時間の揺らぎを伴って歪んだ。それは、リナの『時空の扉』とは異なる、『時間の波紋』が空間に干渉した痕跡だった。
ズウウウン……
天井から、時の波紋を纏った新たな刺客、『波紋術士』が、優雅に降り立った。彼の魔力は、調律者よりも遥かに広域に及んでいた。
波紋の脅威と法則の衝突
波紋術士は、零司と刹那の両方を一瞥し、余裕の笑みを浮かべた。
「これは、興味深い。『法』の番人と、『法則』の特異点が、同じ獲物を狙うか。だが、無駄だ。私には、『第一魔法時代』の魔力が必要だ」
波紋術士は、両手を広げた。
「――『時間波紋・抽出』!」
彼の魔力が、展示ホールの空間全体に、目に見えない『時間の波紋』を広げた。波紋は、空間防御結界を無視して透過し、『第一魔法時代の遺物』に到達。遺物から、起源の魔力を一気に『現在』へ引き出そうとした。
零司は、空間魔術では対抗できないことを悟り、焦りの表情を浮かべた。
「くそっ!空間固定では、時間が止められない!」
「リナ!僕と『時空の絶対固定』だ!」
刹那は、迷うことなく『一秒の破片』の魔力を全開にした。彼のクールな瞳に、『法則の守護』の決意が宿る。
『時間の波紋』の奔流が、『時間法則のノイズ』と、『空間の絶対固定』を組み合わせた、史上最強の『法則の壁』に、今、衝突しようとしていた。




