第4話ー不死
「不死?って魔法か?そんな魔法があるってことか?すごいな!!!
誰でもできるのか?やり方教えてくれよ!」
ノアが豆鉄砲をくらった鳩のような顔をして驚いていた。不死のことを肯定されることなんてなかったからだ。
「そんな事言われたの初めて....だけど魔法...じゃなくて。【祝福】」
「祝福?そういう能力ってことか?」
ノアが頷く
「そう..祝福は生まれたときからある能力。私の場合はそれが不死だった」
なぜかつらそうに話を続ける。
ノアは自分の肩を押さえたまま、ゆっくりと深呼吸をしてから言葉を続けた。
「……でも、私が不死だって知ったなら……普通は、離れていくものなんだけどね。」
その言葉に、ヤストは思わず眉をひそめる。
「え? なんで?」
ノアは少し目を伏せ、ぽつりぽつりと話し始めた。
「……この世界で【不死】の祝福は……珍しいだけじゃない。恐れられてる。」
「そう。もしも不死の人間が、国に反旗を翻したら。もしも暴れたら……誰にも止められない。だから、みんな……私を避ける。怖がる。」
ノアの視線はどこか遠くを見つめていた。
「市場でも……人混みが自然に空く。宿も断られる。仕事も……『不死か……それはちょっと……』って。別に、私が何かしたわけじゃないのに。」
ヤストは何も言えなかった。言葉が見つからなかったというよりも、そんな世界の理不尽さに、どう言葉をかけていいのか、わからなかった。
「だから……人と関わるの、苦手なんだ。……でも、君は……」
ノアは少しだけ、ほんの少しだけ微笑んだ。
「私のこと、最初から知らなかったのもあるんだろうけど……君は、怖がらなかった。」
「……そりゃあ、知らなかったからな。」
ヤストは肩をすくめて、苦笑いを浮かべる。
「でも……知った今も、俺は別に怖くないけど。」かわいいしな
その言葉に、ノアの真紅の瞳がわずかに見開かれる。
「……どうして?」
「だってさ、今までの話を聞いても……お前、別に誰かに危害を加えたわけじゃないだろ? むしろ助けてくれたじゃん。怖がる理由なんかない。」
ヤストは興奮気味に話を続ける。
「しかも不死ってとんでもない能力だろ?。どんな強敵相手にも負けないんだぜ?.......最強の能力だと思うけど。」ヤストはまるで、目の前の少女がヒーローであるかのように言う。
しかしノアは、小さく首を横に振った。
「……無敵、じゃないんだよ。不死は……死なないだけで、痛みはあるし、傷も負う。」
ノアは自分の服の肩口を指差した。そこには、先ほど刺された傷の名残が、まだ赤く残っている。
「回復はする。でも……切られれば痛いし、燃えれば苦しい。首を落とされたって……その瞬間は、怖いし、痛い。...........私はその痛みを受け入れることができなかった。」
ヤストは一瞬だけ真顔になった。
「……そっか。死なないだけ、か。」
少しだけ沈黙が流れる。
次の瞬間にはまた元の調子に戻って、ヤストはにっと笑った。
「それでも、やっぱすげえよ。不死なんて、誰も持ってない力だろ? ……俺なんか、何の祝福もないただの一般人だしな。」
ノアはじっとヤストを見つめた。
その顔には、ほんの少しだけ……いつもと違う、柔らかな色が差している。
「……君、本当に、変わってる。」
「よく言われる。」
ヤストは肩をすくめて、再びニカっと笑った。
「でも、変わってるのはそっちもだよ。普通は、不死の祝福って強力な能力だろ? でも、お前は別に何もしてない。」
ノアはその言葉に、ほんの少し、目を細めて笑った。
心の奥に、じんわりと、今まで感じたことのない暖かさが広がっていく。
「……ありがとう。」
「おう! それより……ほら、俺のスマホ! ちゃんと取り返したんだろ?」
ヤストがノアの手元を指差す。
「あ、うん。これ。」
ノアは、服の裾に挟んでいたスマホをヤストに手渡す。
「よし! 生きる希望が戻ってきた!」
ヤストはスマホを手にして、大げさなくらいガッツポーズをする。
「……そんなに大事?」
ノアが真剣に尋ねる。
「大事も大事、文明の利器だぞ。俺にとっては命より大事かもしれん。1日10時間使うときもある。」
ヤストは胸を張って言うが、次の瞬間ハッと気づく。
「……あ、命より……って、今、不死の人に言うのは失礼だったか?」
ノアは一瞬だけ驚いた顔をしたが、くすりと笑った。
「ふふ……ううん、大丈夫。別に、気にしてない。」
——その笑顔は、今まで見たどんな表情よりも柔らかく、どこか寂しげだった。
ヤストは自分の目的を思い出した。
「そうだ、魔法を覚えたいんだけど、なにか方法は無いか?」
ノアが自分の顎に手を当てながら言う
「うーん.......あんまり魔法使ったこと無いからわかんないんだけど....本を買って覚えたり、人にならったり......かな」
この世界のお金は生憎1銭も持ってないし、人に習う方向でいくか。
「さっきの話聞いたあとに聞くのも何だけどさ、知り合いに魔法教えてくれそうな人とかいる?」
「1人だけ心当たりは.....ある」