第2話ーイシュタム=ノア
火をつけているおっさんに話しかけようと駆け足になる。
その瞬間、後ろから肩を叩かれた。
「おい、持ってるもん全部おいてけ。」
頭が真っ白になった。その次に生まれた思考はなんで俺なんだ?だったが
この世界に来る前と服が一緒だからか、散策しているときもジロジロ見られていることを思い出した。そりゃ狙われるわ。
「聞いてんのか?ぁあ?」
「す、すみませんほんとにすみm」
「持ってるもん全部おいてけ」
あ、やばいこれガチのやつだ。ほんとに人のもの取ろうとしてる。日本で見たこと無い。
「オラぁ!!!!」
「ぐはっっっっ 」
お腹なぐられた、い、痛すぎる。腹の中がひっくり返って
中のもの全部出そう。ってかちょっとでた。
「ごめんなさい。全部渡すので許してください。」
「わかりゃいいんだよ、ほら早くわたせよ。その珍しい光る板とかな。」
ーー異世界人ってほんとにスマホのこと光る板っていうんだ。
とか思っていたが、ハッとしてすぐに渡す。その体格のよい盗人は期限が良さそうに狭い路地の暗闇に消えていった。
「まじかッッッ、、、」異世界に来て1日ですべてを失ってしまった。
なんとかして生き残る方法を考える。宿には最悪、泊まらなくても生きることはできるはずだ、しかし飯、やはりご飯を食べないことには生きていくことはできない。なにか方法はないか、
道端で体育座りをしながら考えること数分
ご飯をゲットできそうなのは
飯屋の人になんとか交渉して皿洗いするかわりにご飯をもらうとか
できればやりたく無いが。、食い逃げか
俺が食い逃げを決心する一歩手前、また肩を叩かれる。
さっきのことを思い出して寒気で皮膚が粟立つ。
「困ってる、よね?」
優しい、まるで女神のような声に顔を向ける。
そこには息を呑むような美しい女性がいた。美しい、麗しい、華麗、綺麗、端麗、そのような言葉では表せないほどの。(好みの顔だったのもあるが)
しばらく口を開けていたような気がするがそれは気のせいだろう。
「だ、大丈夫です。」
急に話しかけられたので少し吃《ども》ってしまった。前の世界であまり女性と関わりが無かったのもあるが。
「本当に?」
とりあえず返事をかえすためだけの「大丈夫」だということに彼女は気づいているらしい。
「全然大丈夫じゃないです。」
「そうだよね」
「実はさっきの見てたの」
さっきのってあれだよな、強奪されたやつ、こんなきれいな人にカッコ悪いとこ見せるの嫌すぎるな。
「見てたんですか、実はさっきお金になりそうな唯一のものをぶんどられたばかりなんですよ」
「私が取り返してあげる」
ええ??いいんですか?それは願ったりかなったりなんですけど、理由は?なんで助けてくれるんだ?
「俺としては嬉しいけど、本当にいいのか?助ける理由なんてないだろ」
これはかなりの本心だ
「本当」
最低限の言葉しか発していないが、どうやら本当に取り返してくれるらしい。
「そこまで言うなら、助けてもらおうかな
名前は、なんて言うんだ?命の恩人みたいなもんだし、しっかり聞いとかないとな。罰が当たるかもしれねぇし。」
「ノア、イシュタム=ノア」
「へえええいい名前だな、俺はシミズ ヤスト」
「ヤスト、」
こんな美少女に名前を呼んでもらえるなんて、異世界最高すぎるだろ!!!!
いかんいかん、今から取り返しに行くんだ、この子がどれくらい戦えるかわからないけど俺はただの一般人なんだからな、気をつけてかかろう。
「勝算はあるのか?あるとしたらどうやって勝つのか教えてくれ」
「あるけど、言えない」
「言えないってなんだよ」
「言えない」
「ごめん、言えないならいいや。」
会話をつづけている間にもノアの足はスタスタと盗人が消えた路地に向かっている。
その足取りに比べてヤストの足取りは鈍重なものだった。
ーー(さっき殴られたの思い出してめっちゃ怖ぇよ。ほんとにこんな女の子1人で取り返せんのか?
まさかここらの有権者で盗人たちも頭が上がらないとか、、
地位も力もない、ただの女の子だったらどうしよう)
悪寒が身を走るがそれをこらえながら強く踏みしめて歩く。