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狼少女と一匹狼の僕  作者: なつのひ
第三章
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8.噂の真相

 最後のやり取りをしてから数日、桜庭陽和のアカウントからのメッセージは止まっていた。そのため僕は、比較的に平和な日々を送っていた。


 学校では3学期が始まり、3年生の共通テストもすぐそこに迫っていた。受験シーズン特有のピリピリとした張り詰めた空気が学校中に張り巡らされていた。

 桜庭の席には今日も黄色い花が生けられている。桜庭がいなくなった教室には笑い声や日常の雰囲気が少しづつ戻っていた。しかし、相変わらずどんよりとした流れの悪い空気を感じる。早く窓が開けられるくらいには暖かくなってほしいものだ。

 僕もなにをやるにもあまり身が入らず、怠惰な日々を送っていた。しかし、これは彼女とは関係のない本来の姿だろう。今日も授業に集中できないまま、4時間目までの授業が終わる。来年の今頃には受験が始まっているというのに、最近は勉強に対するモチベーションも全くと言っていいほどない。将来のことを考えると心が締め付けられる感じがする。なんでだろうか。


 昼休みが始まり、僕は自分の机で弁当を広げる。今日は好物の唐揚げが入っているのでラッキーだったが、このラッキーを分かち合う人はいない。1人で黙々と食べていると昼休みというのは案外長く感じるらしい。

 食事が終わりスマホをいじっていると、久しぶりにインスタの通知が届いた。

 それは桜庭のアカウントからだった。


「陽和が死んだ日、一緒にいたのは伊藤隼人かもしれない。彼に直接話を聞いてみてほしい」


 この前僕はあえて、伊藤のことを言わなかった。信憑性がある訳でもないし、それに僕にメッセージを送ってきているのが伊藤だという可能性もあった。だが、今の話を聞くかぎり相手は伊藤ではないようだ。


「僕は伊藤と仲良くないから、いきなり話を聞くなんて無理だよ。桜庭のアカウントから連絡してみてよ」


「それはできない。このアカウントは君としか、やり取りしない。陽和から連絡が来たなんて騒がれたら何も調べられなくなる」


 確かにそうだけど、他に何かいい方法はないのだろうか。


「君が誰だか分からないけれど、伊藤と連絡取れるんじゃないの?」


 相手自身のアカウントから連絡する方法もあるだろう。


「残念だけど私も伊藤君と話すことはできない。だからお願い。君に頼むしか無いんだ」


 できればこう言うことはやりたくないのだが、こうなってしまっては僕がやるしかないようだ。


「わかった、出来るだけやってみるよ」


「ありがとう」


 僕はひとまず昼休みのうちに伊藤のクラスを覗いてみることにした。しかし、そこに彼の姿はなかった。サッカー部の昼練でもあるのだろうか、とりあえず昼休みに聞くのは諦めて放課後にもう一度尋ねることにした。

 その後ダラダラと2時間の授業をこなし、彼が部活に行ってしまう前に急いで教室へ向かう。ドアが開いていたので覗いてみると、帰りのホームルームの途中だった。後ろから彼の姿を探すが、後ろ姿だけではなかなか見つからない。そうこうしているうちにホームルームは終わり、バラバラと帰宅を始めた。教室から出てくる人を目で追っていくが、彼の姿は見つからない。人の波が途絶え、教室に残っているのは数名になったがそこにも伊藤の姿はなかった。その後、サッカー部の部室付近も探してみたが、彼を見つけることはできなかった。


「見つけられなかったから明日また探してみる」


 そうメッセージを入れて今日は帰宅することにした。

 しかし、次の日も伊藤の姿を見ることはなかった。仕方がないので、彼のクラスの担任に学校に来ているかを確認すると、冬休みが終わってからまだ一度も来ていないと言う。あてがなくなった僕は、一度桜庭のアカウントに報告して作戦を練り直すことにした。


「伊藤は学校に来てない。冬休みが終わってからずっと休んでるらしい」


 帰りの電車に乗ってから送ったメッセージは、電車を降りる前に返ってきた。


「そうか。じゃあLINEでもしてみるしかないね。彼の連絡先持ってる?」


「持ってないけど、君も持ってないんだよね?」


「私も持ってない」


「誰か持ってそうな人に聞いてみるよ」


「わかった、誰かに聞けたらLINEしてみて。もし返事が帰ってきたら教えて」


「了解」


 ちょうどやり取りが終わったところで電車のドアが開いた。僕は慌てて荷物を持ってホームへと降りる。改札に向かう上りエスカレーターに乗り、クラスメイトの笹原へとLINEを送る。


「伊藤隼人のLINE持ってたらおしえて」


 笹原からの返信は、すぐに返って来た。


「持ってるけどどうした?あいつ最近学校来てないみたいだけど」


 最初からこいつに聞けば良かったと今になって後悔する。


「用事があって連絡しなきゃいけない」


「そっかぁ、お前が誰かの連絡先知りたいなんて珍しいな。てか、去年のクラスLINEから追加できない?」


「もう抜けてる」


「お前らしいな笑、今送るからちょい待ち」


 少し待つと、伊藤のアカウントが送られてきた。


「ありがとう」


「そういえば、あいつ昨日桜庭の家の前にいたって聞いたけど。」


 相変わらずそんな情報どこで仕入れて来るのだろうか。


「何しに行ったのかも知ってる?」


「そこまでは分かんねえな」


「ありがとう、助かったよ」


 笹原からは、パンダがOKと書かれた看板を持っているスタンプが送られてきた。

 早速伊藤のアカウントを開き、追加を押す。一度深呼吸したからメッセージを送る。


「話したいことがある。時間がある時に返信して」


 一応、伊藤の連絡先をゲットしたことと、昨日桜庭の家に行っていたことを報告する。いつも通り、すぐに返信が返ってきた。


「伊藤が陽和の家に行ったのは本当に昨日なの?」


「そう聞いたけど」


「昨日、陽和の家には誰も行ってないはずだけど?」


「なんでそんなことがわかる?」


「それは言えない、何にせよ伊藤は陽和の家にはいなかったはず。」


 僕は笹原とのやりとりを見返し、一つの可能性に気がつく。


「もしかしたら家には入ってないのかも」


「何のためにそんなことを?」


「行きたかったけど理由があって入らなかったのかも


「たとえばどんな?」


「手を合わせに行きたかったけど、付き合ってたことが知られてたら気まずいと思ったのかも」


「うーん、確かにそれはあるか。もし伊藤から返信が来たらそのことも聞いておいて」


「分かった」


 結局伊藤から返信きたのは次の日の夕方だった。


「聞きたいことって何?」


「桜庭のこと、桜庭が死んだ日に君と一緒にいるところを見たって人がいるらしくてね。」


「何だそれ、あの日俺は部活に行ってたから陽和と会ってる時間なんてないぞ」


「そうか、分かった。もう少し聞きたいことがある。できれば直接会って話したい」


 謎の相手からのミッションは1つ完了した。だからここから先は僕のエゴだ。


「桜庭と付き合っていた時のことを聞きたいんだ」


「何でお前にそんなこと言わなくちゃいけないんだ」


 文字から相手の感情の変化が伝わって来る。


「知りたいからとしか言えない。とにかく一度会って話をさせて欲しい、どうしても聞いときたいことがあるんだ」


 トーク画面を開いて返信を待っていると、10分たってようやく届いた。


「分かった。今週の土曜、11時に学校の前に行く」


「ありがとう、最後にもう一つ聞きたいことがある。昨日、桜庭の家に行った?」


「たまたま前を通っただけで、陽和の家に用事があったわけじゃない。何でそんなこと知ってるんだ?」


「噂で聞いただけ、じゃあ土曜日に」


 僕は彼とのLINEを閉じ、インスタのメッセージを開く。


「あの日桜庭とは会っていなかったみたい。部活があったって言ってたから信用できると思う」

 

 例の如く返信はすぐに来た。


「分かった。昨日のことはどうだった?」


「昨日はたまたま家の前を通っただけだって。そっちは本当かどうか分からない」


「そうか、他に陽和について何か言ってなかった?」


「それ以外は何も聞いてない」


「そうか、ありがとう」


「これからどうする? これ以上調べられるとは思わないけど」


「また連絡する。それまでは自由にしてて」


「分かった」


 僕はインスタを閉じ、カレンダーに三日後の土曜日の予定を書き込む。僕は伊藤に聞かなければならないことがある。彼女の本当の声を知るために。



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