第7章『ありがとう』
今どきの高校生って、放課後サ店に寄るんですかね?笑
高校時代は休日にスタバ行ったぐらいです。
そんな小話はさておき、ついに涼介が─!!
ドキドキの第7話をどうぞ!
季節は夏になった。
ドアを開けると、強烈な陽射しが照りつけ、湿気がムワッと迫ってきた。
「涼くんおはよー」
「おはよう、涼介」
「おー、おはよ」
静香と修吾は、家の前で待ってくれていた。
オレは2人の間に入り、肩を並べて歩いた。
「暑いね〜」
「さっきまで冷房効いてた部屋にいたのにな」
「冷房に慣れてたら、夏がしんどいぞ」
「そだなー」
オレは気だるげに返すと、尻ポケットから扇子を取り出して扇いだ。
「あ、いいなぁ」
「じゃあこっち使いなよ」
オレは予備で持ってきた扇子をカバンから取り出し、静香に渡した。
「涼介、俺も─」
「下敷き使えバーカ」
「なんだとっ」
「やめろバカっ、朝から暑苦し─あああああ!」
修吾に関節技を決められ、朝からやかましいオレの悲鳴が響いた。
「いててて…やりやがってあのヤロォ…」
踊り場でストレッチをしながら、オレはボヤいた。
静香は壁にもたれかけて、胡座をかいていた。
「てか静香、そんなとこでそんな座り方しないで。見えるよ?」
「見えるって、何が?」
「言わせんなよ…」
「あたし、別に気にしてないよ?なんなら、涼くんに見せてもいいよ?」
「やめなさい」
静香がスカートの裾をつまみ上げようとしたので、慌ててオレは目を背けた。
「大丈夫だって。ここ、別に人通らないし」
「そういう問題じゃねぇよ」
「ホント涼くんって可愛いね」
「お、オレは別に可愛くなんか─」
「あ、こっち見た」
「………っ!!」
「涼くんのエッチー」
静香はニシシ、と笑った。
「大丈夫。涼くんには見せても、他の人には見せたりしないから」
「オレにも見せないようにしてよ」
「涼くんだからいいの」
「どういう意味だよ」
「知りたい?」
静香はまだニヤニヤしていた。
しかしオレを見つめる目は、キラキラしていた。
「涼くんはあたしにとって、特別だからよ」
「オレが…?」
オレは思わずポカンとした。
「あんな事があってから、あたしって他の男子に怯えちゃうけど、涼くんは違うの。
兄貴の言う通り、あたしは確かにショタ好きだから、涼くんのこと気に入ってるけど、それだけじゃないの。
あたしの事知ってから、涼くんはあたしと大西くんの間に、いつもいてくれてるよね?
それが涼くんなりの気遣いなんだろうなー、って思うと嬉しいんだ」
「あ…」
その通りだった。
優人さんから、『男子が苦手なところは修吾相手でも同じ』である事を聞いて以降、オレは静香と修吾を隣同士にさせまいと、登下校の時はいつも2人の間に入り込んでいた。
苦手意識を持った人間のそばだと、静香が怖くて怯えてしまうと思ったからだった。
「あたしの事、守ろうとしてくれてありがと」
「うん」
「涼くんのそういうとこ、あたし好きだよ」
「えっ…」
「ほっ」
「うわっ!」
静香はオレの腕を掴むと、グイッと自分の胸元に引っ張った。
オレの後頭部に、静香の胸の膨らみを感じた。
「ちょっ、静香!当たってる!」
「当ててんのよ!ほれほれ〜!」
静香はさらにオレを抱き締め、頭を胸元に押しつけた。
「涼くんはどうなの?」
「えっ?」
「あたしの事、好き?」
「もしかして、気づいて─」
「どうなの?」
オレは茹でダコのように顔が火照るのを感じたが、ぎこちなく頷いた。
「好きだよ、静香のこと」
「あたしも好き。友達としてじゃなく、1人の男の子として」
静香は慈しむようにオレの頭を撫でた。
「いっそ、あたしと付き合ってみる?涼くんとなら、大丈夫な気がする」
「お…オレでいいの?」
「涼くんがいいの。好みどストライクのタイプで可愛くて、健気で優しい涼くんだからいいの」
オレの頭を撫でながら、静香は顎を乗せた。
「じゃあ…こんなオレだけど、改めてよろしく」
「うん、あたしこそよろしく」
こうして、オレと静香は付き合う事になった。
「そっか…2人とも、おめでとう」
放課後、オレは駅前の喫茶店にて来島さんに報告した。
修吾は委員会で遅れるそうだった。
「大西くんは知ってるの?」
「ええ、昼休みに報告しました」
「そっか…」
来島さんはアイスコーヒーを一口飲んだ。
「いいなぁ…私も大西くんと付き合えたらなぁ…」
「もちろん、来島さんの事も応援するッスよ。焚きつけたのオレなんで」
「ありがと。でも、大西くんは何か勘違いしてるみたいだけど」
「そうよね。たしかに大西くんからすれば、菜月は中学の頃に涼くんが好きだった人。そんな人と友達になれたのは、脈がまだあると思ってたからじゃないかな?」
静香は抹茶のパンケーキを頬張った。
「脈?無い無い。オレはもう、来島さんの事は諦めてるよ。今は静香一筋だし」
「言い切ったわね…」
「嬉しい!」
「ちょっ、静香!」
「はいそこイチャつかない」
来島さんは脅すように、フォークの先端を突きつけた。
「大西くんは気づいてないのかな…私も大西くんの取り巻きの一人だったこと」
「アイツ、取り巻き全員の顔覚えてないッスよ」
「えぇ…」
オレはミルクレープを口に運んだ。
「私どうしたらいいかなぁ…」
「うーん…」
キャラメルラテを飲みながら、オレは眉間に皺を寄せた。
「あっ」
静香が突然声を上げた。
「どうしたの?」
「あたし、いい事思いついたかも」
「なになに?教えて」
来島さんが食い気味に言った。
「明日から大西くんと2人で行けばいいんじゃない?」
オレと来島さんは、同時に頭を抱えた。
「…静香、大西くん家、私の家から遠いわよ。遠回りになるでしょ」
「それはさすがに無理があるよ…」
「あ、そっか…」
静香はバツが悪そうにミルクティーを飲んだ。
「でも、いい線いってないスか?駅で待ち合わせしてしまえば、お互い電車来るまで話できるっしょ?」
「なるほどね…それならできそうかも」
来島さんは頷きながら言った。
「でも…そんなあからさまな真似して、私疑われないかな…」
「大丈夫ッスよ。他愛のない話題ふっかけりゃいいし、なんならオレ達の事も話題にして構わないッス」
「いや、大西くんと2人だけで話すの、実は再会して以来なのよね」
「あっ…」
そういえば、あの時以降来島さんが修吾と2人きりで話す姿を見ていなかった。
「…菜月って、顔に出るタイプ?」
「…かもね」
「分かるわ〜」
「オレも同じだから何とも言えねぇ…」
オレ達は3人揃ってため息をついた。
「…ならいっそ、オレ達もいてあげましょうか?」
「その方が安心するんじゃないかな?」
「んー…いや、いい。私一人で頑張ってみる」
来島さんは俯いたまま、首を横に振った。
「私の恋だもの。私自身が頑張らなきゃダメでしょ。だから、限られた時間の中で、少しずつ距離を縮めなきゃ」
そう言うと来島さんは、ガトーショコラにフォークを刺した。
「私の事だから、多分どこかで精神不安定になるかもしれない。その時は2人に頼んでいい?私が暴走しないように」
「暴走って…いつもクールなイメージの来島さんからは、想像つかないんスけど」
「でも、もし本当に菜月がそうなったら、あたし達で食い止めよ?あたし達は菜月の友達なんだから」
「…そうだな」
オレはミルクレープをまた一口頬張った。
「あの心配性で頑固者の修吾を変えてやろうぜ。アイツにも、寄り添ってあげられる人が必要なんだ。幼なじみのオレでもなきゃ、他の女子でもねぇ、来島さんが」
「そだね。頭がいい大西くんには、同じぐらい頭がいい菜月が似合うと思う」
「2人とも…ありがと」
来島さんはニッコリ笑った。
オレと静香も笑い返した。
続く