第6章『お前…嘘だろ…?』
今回も寄り道回です。
新レギュラー登場により書きたかったストーリーです。
そして、もう1人の意外な一面も発覚します。
そんな第6話をどうぞ!
来島さんも加わり、4人でおしゃべりする時間ができた。
来島さんは現在、私立の女子校との事。
中学時代は吹奏楽部に所属していた彼女は、なんと今は帰宅部らしい。
ゲームに関しても話題が豊富で、オレがやってるサバゲーや狩りゲーを彼女もやりこんでいるらしい。それも、かなりの実力者との事。
「知らなかったッス。来島さん、結構ガチ勢なんスね」
「いやいや、廃人クラスの藤田くんには及ばないわ。やり込み度が違いすぎるもん」
来島さんは言った。
「今日終わったら、4人でゲーセン行きません?」
「いいね、藤田くんの実力見てみたいし」
「俺と滝さんは観戦でいいか?」
「ダメに決まってんだろ」
「えぇ…」
結局、修吾も強制参加で放課後集まる事にした。
どうやら来島さんは、修吾に自らヲタバレしたらしい。
放課後。
「さーて、何からやろうかな〜」
様々な筐体を眺め回しながら、来島さんは言った。
「何でもいいスよ。静香にもできそうなので」
「あたし音ゲーやりたい!ほら、そこのやつ!」
静香が指差したのは、洗濯機のような筐体だった。
丸い画面の中心から流れるリングを、リズムに合わせてタップするヤツだ。
「いいわよ?軍手はあるわね?」
「おk」
「あるー!」
「なんで?」
約1名ゲーセン慣れしてないやつが疑問形になった。修吾である。
「あー…大西くんは素手でもいいわ。初めてなんでしょ?」
「そうだね。じゃあ俺は素手でやるよ」
お金を入れ、各難易度と曲を設定した。
「準備はいい?」
「いいスよ」
「オッケー」
「ちょっと待って…よしっ」
そして、ゲームスタート。
来島さん、最高難度でSS。
オレ、最高難度でSSS。
静香、中高難度でSS。
そして修吾は…最低難度でB+。
「………」
「ねーわ」
「…嘘でしょ?」
「………」
気まずい空気が流れる。誰か何とかして。
「つ、次だ!そこのシューティングゲームでリベンジだ!」
「負けず嫌い発動しちゃったよ」
「いいわよ。何でもどうぞ」
来島さんは余裕の構えだ。
そして、今度は難易度を共通にして始めた。
結果、オレと来島さんはSSS。
静香、AAA。
修吾、ゲームオーバー。
「………」
「…嘘だろ?」
「…マジ?」
「…やってしまった」
途中でゾンビの大群に食われたらしい。
「次は?」
「…パズルゲームで」
だんだん修吾の心が折れていくのを感じた。
もう勝てる見込みがないんだが。
「行くわよ」
来島さんの掛け声と共に、ゲームが始まった。
オレと来島さん、全消しS。
静香、AAA。
修吾、ゲームオーバー。
「大西くん…もう諦めよ?」
「…俺、もう帰ろうかな」
「勝負になんねぇ」
「…呆れた」
3人してため息しか出てこなかった。
「俺ゲームの才能無いのかな…」
「でも、私は大西くんの意外な面が知れて、ちょっと面白かったな。秀才なイメージが、どうしても強かったから」
来島さんはフフッと笑った。
「なんか今日、今までで一番楽しいかも。ゲーセン来ても、大体部活の女友達とばっかりだったし、本領発揮したらヲタバレしちゃうから」
「そっかー。菜月が無双しちゃったら、みんなビックリするもんね」
「私がゲーセンガチ勢とか、死んでも言えない」
オレと静香は笑った。
かつて片思いしてた人と遊べる日が来るなんて、想像もつかなかった。
でも今はこうして、過去の事を忘れて和気藹々としていられる。
そんな瞬間が、嬉しかった。
「夢…じゃねーよな」
「どうした?急に」
「何でもねーよ」
「良かったね、菜月と遊べて」
「うん。オレも今、すげー楽しい」
ただただ純粋に、楽しかった。
「まだ時間あるし…カラオケ行かない?」
静香が突然提案した。
オレは耳を疑った。
「えっ」
「いいわね。やっと人前でアニソン歌えるわ」
「ちょっ」
「俺も久しぶりだ。よし、気分転換しようか」
「お前待て」
「大西くんの歌声、聴いてみたいな」
「あ、それあたしも思った」
「あの…」
遠慮がちなオレをよそに、3人はカラオケコーナーへ向かった。
なぜオレだけ渋ってたのか、それは20分後に明らかになった。
「…なんか、カラオケなんて言い出して…ごめん」
「いや…オレも言わなくてごめん」
「てゆーか大西くんって…」
カラオケコーナーから出てきたオレ達は、顔を引きつらせていた。
修吾はバツが悪そうに、顔を背けていた。
「俺の歌声って…そんなに下手だった?」
「下手くそってレベルじゃねぇよ」
そう。修吾はゲームが下手くそな上、極度の音痴なのだ。
「…トイレ行ってくる」
「あ、あたしもー」
修吾と静香はそそくさとトイレへ急いだ。
修吾は多分個室で泣く為だろう。
オレは来島さんに問いかけた。
「来島さん…修吾のポンコツっぷりを見れて、どうでした?」
「んー…ただただ、ショックだったかな…」
「ですよね」
まあ、そりゃこんな修吾見たら、大抵の人は幻滅するだろうな。
女子の注目の的だった修吾が、遊びではポンコツ同然なんだから。
俺はため息しか出なかった。
ところが、来島さんは違った。
「でも、私は大西くんにこーゆーギャップがあって、かわいいって思ったかな。あわよくば2人きりで一緒に遊びながら、教えたいぐらい」
呆気にとられた。
来島さんは受け入れていた。
外見だけにとらわれず、初めて見た修吾の意外な一面をも。
この人、なんて懐が深いんだ…。
「簡単に嫌いになれないよ、大西くんのこと。むしろ、前より好きになっちゃったかも」
来島さんは困ったように、しかし照れくさそうに言った。
「すごいッスね…こりゃ敵わねーや、オレなんかじゃ」
「私の事は、もう諦めがついた?」
「ええ。それにオレ、好きな人いますし」
「静香でしょ?」
オレは頷いた。
「見てて分かるわよ。だって、静香のことチラチラ見てたもん」
「ありゃりゃ、バレちまいましたか」
「ホント、分かりやすいわね」
来島さんはまた笑った。
「私で良ければ相談に乗るよ、友達として」
「その時はお願いします」
ゲームコーナーの音が響く中、オレ達の周りには穏やかな空気が漂った。
続く