第5章『久しぶりッスね』
放課後って寄り道したくなりますよね。
私は高校時代卓球部の活動で忙しかったので、あまり寄り道してませんでした。試合の日以外は笑
アニメイトは高校卒業前の長期休業中、ツレと行きました。
新レギュラー登場回の第5話をどうぞ!
ある日の放課後。
「あのさ、この後大丈夫?」
「大丈夫よ?どしたの?」
「1軒付き合ってくんないか?本屋に用事があんだけど」
静香は「うーん」と唸ったが、やがて、
「いいよ、付き合ってあげる」
と言って快諾した。
「よっしゃ!」
駅に着いたオレ達は、足早に電車に乗り込んだ。
「あー…なるほど、たしかに『本屋』ね」
「オレみたいなヲタクに優しい方のな」
来たのは、駅前商店街にある某アニメグッズ専門店だった。
「限定版が欲しかったんだよ。ラスト1冊残ってて良かった〜」
「すぐ売り切れちゃうもんね」
「…てか、静香はこーゆー店って大丈夫だっけ?」
「あたし全然平気よ?あたしも割かしヲタだし」
「あ、そーなの?」
意外だった。
まぁ、オレみたく徹ゲーするぐらいだからな。
「さーて、この1冊、オレが貰った〜!」
嬉々として手を伸ばした時だった。
もう1人の手が、同じように手を伸ばしてきた。
「へ?」
「えっ…」
その人と目が合ったオレは、今日一番驚いた。
「来島さん!」
アンダーツインテールの茶髪、柔和な鳶色の瞳、きっちり着こなしたブレザー姿の、かつての同級生がそこにいた。
「どうしてここに?」
「え?誰この人?知り合い?」
静香がひょっこり顔を覗かせた。
「ふわっ」
来島さんは目を見開くと、顔を真っ赤にして店を出た。
「待って!」
慌ててオレは彼女を追った。
静香も後に続いた。
「はい、捕まえたっと」
結局、すぐに息切れしたオレに代わり、静香が来島さんを確保した。
「この人でいいんでしょ?で、一体誰なの?」
「や、まず離してあげなよ。怯えてるから」
静香は来島さんから、パッと手を離した。
「すみません、手荒な真似して。お久しぶりッス」
「ふ、藤田くんこそ…相変わらずね」
カバンを胸に抱えながら、来島さんは言った。
「えっと…今来島さんをとっ捕まえた人、オレのクラスメートッス。静香、この人はオレの元同級生、来島菜月さんだ」
「初めまして。あたし、滝静香。さっきはごめんね」
「ど、どうも…」
来島さんは頭を下げた。
「てか来島さん、ひょっとしてあなたもヲタだったんスか?」
来島さんは動揺した。きっと長いこと、誰にも内緒にしてたんだろう。
「そ、そうよ。まさか藤田くんにバレるとは思わなかったけど…」
「別に誰にも言わねースよ。オレは何も見なかった事にするんで」
「本当に?」
「はい」
来島さんは未だに訝しむようにオレを見ていたが、やがて観念したようにため息をついた。
「卒業式以来ね。でも、まともに話すのは、これが初めてかしら」
「あ、アレはノーカンなんスね」
「当たり前でしょ」
来島さんはフンと鼻を鳴らした。
「えっと…滝さん、だっけ?藤田くんと付き合ってるの?」
来島さんの問いかけに、オレは思わずドキッとした。
しかし静香はこう言った。
「あー、違う違う。あたし達、ただの友達だから」
辛い…。まだ、まだ友達扱い…。
「なーんだ。てっきり藤田くんに彼女でもできたのかと思った」
「惚れる度周りが見えなくなるオレに、彼女ができると思いますか?」
「そりゃそうよね、私の時もそうだったし」
「えっ、まさか涼くんって…」
「ああ、卒業式の日に告ったんだ。フラれたけど」
そう、序章でオレがフラれたのは、まさに来島さんへの告白シーンだった。
「でも、女の子の友達ができてたってのもビックリね。昔じゃ、全然考えられなかったもん」
「席が隣り同士なんスよ」
「あ、そーゆーことね」
来島さんは呟いた。
「大西くんは?今、同じ高校なんだっけ?」
「アイツも元気してますよ。今日は委員会なので、オレ達は修吾を置いてここに寄り道しに」
「そっかぁ…」
来島さんの声が、少し残念そうに聞こえた。
オレはまさか、と思った。
「あの、来島さん。修吾に会いたかったんスか?」
「う、ううん。別に、今日いないならいいの。またどこかで会えると思うし」
「でも、オレらの高校と反対のとこ通ってますよね?」
「それはそうだけど…別に無理して今会う訳にも─」
「もうそろそろ委員会も終わったと思うし、何ならもう電車にも乗ってるかもッスよ」
「だから…」
余計なお世話だ、と言われる前に、オレはズバリと問い詰めた。
「修吾の事、まだ好きなんスか?」
来島さんは言葉を詰まらせた。
「ホントはオレ、知ってたんスよ。修吾を取り巻く連中の中で、一番修吾と話したそうにしてたじゃないスか。
なのにオレは知って知らぬフリして、来島さんに告っちまった。それは本当にお詫びします。
けど、ここで諦めちまったら、修吾と一生話せなくなるかもしれないんスよ?
『いつかどこかで会える』『同じ中学の地区だし』なんて、そんなのアテになんないスよ。
今しか無いかもしれないじゃないスか!
修吾の事気にするって事は、諦めきれてないんスよね?
だったらオレに協力させてください。来島さんの為にも、なかなか恋人作らねぇ修吾の為にも、何とかしてあげたいんスよ!」
戸惑う来島さんを、オレはじっと見据えた。
静香は来島さんの肩に手を置いた。
「大西くんの事、今も好き?」
来島さんは頷いた。
「会いたい?」
また、頷き。
「うん、会いに行こ?」
来島さんはうつむき、その場にしゃがみ込んだ。
「なんで…そこまでしてくれるのよ。ほんっと、余計なお世話よ…」
「自分の事しか考えず来島さんに告った、あの頃のお詫びッス。それ以上は望みませんよ」
ちょっと待ってて下さい、と言って、オレはさっきの店に戻った。
5分後、レジ袋を抱えて戻った。
「これ、あげます」
オレはレジ袋を差し出した。
中身は、さっき来島さんも買おうとしていた、限定版コミックだった。
「お代はいりません。受け取ってください」
「いらない。自分で買いに行く」
来島さんは袋を押し返した。
「自分で苦労して手に入れてこそ意味がある、それはあなたも分かってるでしょ?」
来島さんはゆっくり立ち上がった。
「大西くんに会わせて。私、やっぱり彼のこと忘れたくない。もうコソコソしたくないの」
「来島さん…」
「自分に正直になってみる。今日ここで藤田くんに会わなかったら、大西くんとも永遠に会わなくなってたかも。ありがとう」
来島さんはそう言うと、ニッコリ笑った。
実は本を買いに再び訪れた際、修吾に連絡したおいたのだ。
それから修吾は30分後、ようやく現れた。
「急に呼び出したと思いきや、こんな場所で何の用だ?」
「まあまあ、こーゆーこって」
「ゲストの登場でーす」
「ゲスト?」
修吾は眉をひそめた。
来島さんは、ガチャポンの陰からそっと姿を現した。
「大西くん、久しぶり」
「来島さん…」
さすがの修吾も面食らったようだった。
オレは静香と共に、2人を後にした。
1時間後。
修吾からメッセージが届いた。
『来島さんと友達になったよ。良かったな、涼介』
嬉しい反面、かなりガッカリした。
違ぇよ、修吾。そうじゃねぇ…。
続く