第4章『来るかな…?』
ヒロインはどうなるんでしょうか。
その答えは、読めば分かります。
序盤から重めになってしまった物語の第4話、どうぞ!
レイプ未遂事件から1週間後の昼過ぎ。
修吾はオレのクラスに来ていた。
「滝さん、まだ来てないのか?」
「ああ…」
修吾の問いかけに、オレは力無く答えた。
「涼介、お前本当に大丈夫か?滝さんが来なくなってから、ずっとおかしいぞ?」
「別に…普通だよ」
「普通じゃないだろ」
修吾は声を荒げた。
「滝さんがずっと休んでて寂しいのは分かる。でもお前が落ち込んでたら、滝さんが来た時どんな顔するか、想像してみろよ。そんな顔されて、滝さんが喜ぶと思うのか?」
「………」
優人さんに言われた通り、修吾にあの日の晩の事は教えなかった。
たしかに、静香が来なくなったのは寂しい。
けど、静香はアレだけ深く傷ついたんだ。立ち直るのも時間の問題だろう。
そう思うと、慰められない自分が不甲斐なくなり、気持ちが沈んでいくのだった。
「まったく…」
修吾は大きなため息をつくと、踵を返した。
「俺は次の時間体育だから戻る。いい加減落ち込むのはやめろよ」
そう言うと修吾は、肩を怒らせて立ち去った。
修吾がオレの教室を出て10分後。
横の引き戸が開き、女子達から歓声が上がった。
「遅れてすみません」
静香がやっと学校に来た。
オレは思わず席を立った。
「静香っ!」
「おはよ、先週はありがとね」
静香は席につき、授業の準備を始めた。
「あの…」
「今は話さないで。後でね」
優しくそう付け加えると、静香は教科書をトントンと整えた。
いつものように振舞っている静香が、内心は深く傷ついていると思うと、オレは心がズキズキと痛んだ。
てなわけで放課後。
「一緒に帰ろ?」
静香がオレに話しかけてきた。
「うん…」
オレは静香と目を合わせられず、ノロノロと教科書をカバンにしまい始めた。
オレが立ち上がるまで、静香は待ってくれた。
「あのさ、涼くん」
「なに?」
校門を出ると、静香が口を開いた。
「先週は本当にありがと。どうせ兄貴が連れてきたんだろうけど、嬉しかった」
「そんな…オレ、何も─」
「もうっ!」
静香は急に、オレの前で仁王立ちになった。
怒った顔をしていた。
「涼くんまで落ち込まないでよ!
あたしだって辛かったんだよ?ようやく立ち直れたのに、そんな暗い顔しないで!」
「ご、ごめん。でもオレ、静香が無理してんじゃないかって…」
「してるわよ!あの日の事思い出したくなくて、いつもの自分を繕ってるだけよ!あたしは…あたしは、涼くんに笑顔で迎えてほしかったのに…」
静香は唇を震わせた。
目に涙を浮かべていた。
「あたしが涼くんを悲しませたみたいで…辛いよ…」
「ごめん。オレが間違ってた」
ますます胸が痛んだ。
同時にそれが、申し訳なく思った。
「ところでさ…なんであたしが今日誘ったか、知ってる?」
静香は鼻をすすりながら言った。
「えっ…」
「涼くんに報告したいことがあって誘ったの」
「オレに?」
静香は頷いた。
「あたし、こないだ兄貴と家を出たの」
「えっ…」
急な話に、オレはビックリした。
「前から考えてたの。家から通うのも遠いし、それにあの地区には、アイツらがまだいるから。
それで兄貴が、『別の地区に引っ越して、俺と住もう』って言ってきたの。
兄貴なら交友関係広いし、力強くて頼れるから、あたしはOKしたの。だから…」
静香はモジモジしながら続けた。
「その…これからは、毎朝迎えに来てくれると、嬉しいな…なんて」
「どういうこと?」
「涼くん家の近くに引っ越したの。涼くん家は、兄貴に教えてもらった」
「ええっ!?」
まさかのご近所さんだった。
「マジで!?」
「マジで」
「ウチの!?」
「近く」
「夢ですか?」
「現実です」
オレはポカーンとなった。
その様子がおかしかったのか、静香がプッと吹き出した。
「もう、コントじゃないんだから。ホントだよ。明日から涼くん達と、一緒に通えるよ」
「マジかよ…」
フッと笑みがこぼれた。
「やっと笑った。やっぱ涼くんは笑った方が可愛いね」
「そ、そうかな…」
オレは恥ずかしくなって、頬をかいた。
「とりあえず、今日はそれを伝えたかったの。
明日からまたよろしくね!」
静香は屈託のない、めいっぱいの笑顔で言った。
「ああ!」
オレは照れくさくなりつつも、しっかり頷いた。
続く