最終章『オレ達2人の『好き』は』
ダンスは大成功だった。
観客席からの拍手と歓声が、舞台袖に退場してもまだ響き渡っていた。
メンバーはみんな、やり切った表情だった。
佐久間さんは舞台袖の隅で泣いていた。
鈴木が「お疲れ様」と慰めていた。
オレは静香と共に、観客席の端から修吾達バンドメンバーを応援していた。
来島さんは優人さんと共に、声を張り上げて声援を送っていた。
修吾は汗だくになりながらも、楽しそうにドラムを叩いていた。
こうしてステージイベントは全て終わり、文化祭は無事閉幕した。
「なぁ、静香」
「ん?」
放課後、オレは中庭のベンチで、静香に膝枕してもらっていた。
「大成功だったな」
「うん…」
「やりきったな」
「うん」
静香は慈しむように、オレの頭を撫でた。
「可愛いね、涼くん」
「な、何だよ急に」
「かっこいいね」
「おいおい、やめろよ。照れるだろ」
オレは恥ずかしくなって、顔を背けた。
「本当の事だもん。こんなに可愛くて、かっこよくて、優しくて…あたし、前よりもっと好きになっちゃったよ、涼くんのこと」
「…オレだって、可愛くて甘えん坊で、太陽みたいに明るい静香が、誰よりも好きだ。静香が心から笑うとこ、もっと見てーよ」
「今でも見せてあげるよ、ホラ」
ちらっと静香の顔を伺う。
静香は兄そっくりの顔でニシシ、と笑った。
「ねぇ、涼くん」
「ん?」
「あたし、この先もずっと涼くんと一緒にいたいな」
「オレも。結婚して家建てて、子ども作って、一緒に育てたい」
「えっ…」
今度は静香が顔を赤らめた。
「涼くん…もしかして今、プロポーズした?」
「へ?…あっ!!」
今になって気づいた。
オレもしかして、ヤバいこと言っちゃった…?
思わずオレはまた顔を背けた。
心臓がバクバク言っているのを感じた。
震える口を真一文字にギュッと結んだ。
「嬉しい…ありがと」
静香は言った。
「いつか叶えようね、絶対」
「…うん」
静香はオレを起き上がらせると、唇にキスした。
「好き」
「好きだ」
「あたしも好き」
「オレも好きだ」
「大好き」
「大好きだ」
「涼くん…愛してる」
「オレもだよ、静香」
一言ごとにオレ達は唇を重ねた。
お互いの愛情を分かち合うように。
10年後。
「「「「かんぱーい!」」」」
オレは静香、修吾、来島さんの4人で、とある居酒屋に来ていた。
現在、オレ達は26歳。社会人4年目だ。
「修吾が主任か〜。まぁ、それなりに出世すると思ってたけどよ」
オレはビールをグイッと飲んだ。
「それもだけど…2人とも、おめでとう!」
「あ、ありがと…」
なんと、修吾は来島さんと入籍したのだ。
これから何て呼べばいいのやら…。
「藤田くん。もう私のこと、下の名前で呼んでいいわよ?ややこしくなるし」
「いいんスか?…じゃあ、菜月さん」
「なあに?」
「結婚、おめでとうございます」
「ありがと。でも敬語は抜けないのね」
来島さん、もとい菜月さんは笑った。
「つーかよ、修吾」
「何だ?」
オレは修吾のジョッキに視線を向けた。
「お前、しれっとシャンディガフ(※ビールとジンジャーエールのカクテル)にしてんじゃねーよ」
「っ!?おま、気づいてたのか!?」
「トイレ行く時、コソッと店員に言ったろ」
「修吾…それはずるいわ」
「大西くんないわ〜」
オレ達3人は頭を抱えた。
「罰として、生中イッキな」
「やめろ!俺が酒に弱いの、知ってんだろ!」
「すいませーん、生中1つ」
「滝さん頼まないで!」
修吾の悲鳴も虚しく、今度こそ本物のビールが修吾の前に置かれた。
「そーれイッキ、イッキ」
「はい、ドンドンドドンドン」
「はいのーんでのんでのんで」
「どうせなら合わせて!!」
ヤケクソになって修吾は、ビールを一気に飲み干した。
10分後。
修吾は完全に沈没した。
「あーあ、大西くん寝ちゃったね」
烏龍茶を飲みながら、静香は言った。
静香は、過去のレイプ事件の際に酒を無理矢理飲まされた事もあり、そのトラウマから飲めないらしい。
「最初からビール頼んどけば良かったのに、このバカ亭主は…」
「どの道すぐ潰れますよコイツ」
オレは少なくなったビールを飲み干した。
「すいませーん、ブラックニッカとグラス1つ。氷付きで」
「あ、二階堂とグラスを1つ」
「え、まだ飲めるの?」
「むしろここからだよオレ達は」
オレはワイシャツの胸ポケットからタバコを取り出した。
「タバコいい?」
「あ、私も吸っていい?」
「いいよー」
菜月さんもスーツの内ポケットからタバコを出すと、1本火をつけた。
長い煙を吐くと、菜月さんは灰皿に灰を落とした。
「あれから10年か…」
「あたし達が会ってね」
「よく喫茶店で、4人でおしゃべりしたッスね」
「今、隣の旦那は寝てるけどね」
オレ達は笑った。
「2人とも、あれからどう?」
「『あれから』とは?」
「一昨年の挙式から」
「あー」
そう。オレと静香は2年前に、2人よりも早く結婚したのだ。
静香は現在、オレの姓である藤田に変わっている。
「オレは相変わらずッスね。ただ静香がもう少ししたら、しばらくの間お休みしなきゃッスけど」
「どういう事?」
運ばれてきた焼酎を注ぎながら、菜月さんが訊いた。
静香はお腹のあたりをさすって、恥ずかしげに答えた。
「こないだ産婦人科行ったら…その、できちゃってて」
「えっ!?」
菜月さんは思わず焼酎をこぼしてしまった。
「じゃあ…」
「うん、今3ヶ月なんだ」
「おめでとう!!」
「ありがとう」
菜月さんは静香の手を握った。
静香はニッコリ笑った。
「帰ったら、いつもはオレより遅い静香がいてびっくりしましたよ。いやもう…なんか、ただただ嬉しかったッス」
オレはウイスキーをロックグラスに注ぎ、一口飲んだ。
「藤田くんもついにパパになるのかぁ…あの頃の藤田くんじゃ想像できなかっただろうなぁ」
「ですねぇ。結婚できなかったらオレ、ずっと独り身で引きこもってたかもしんないッスわ」
菜月さんとオレはタバコを一口吸った。
「私も頑張らないとなぁ。修吾、頑固で奥手だから」
「あの時みたいに誘ったらどう?ほら、昔は大西くんにグイグイ迫ってたじゃん」
「やめてよ静香。私だって怖いもん、初めてを失うのがさ」
「やってみたらあっという間だよ。菜月だって、いいカラダしてんだし」
「静香の方がスタイルいいじゃん。私、静香に比べてスレンダーだし…胸だってそんな大きくないし…」
恥ずかしくなってきたオレは、わざとらしく咳払いをした。
「…お願いですから、そーゆー話は2人だけの時にしてください」
「藤田くんは興味無いの?どうして私の事好きになったの?」
「女性相手にそんな話題できませんよ。あと、いつかは訊かれるんじゃないかと思いましたけど…」
オレはもう一度咳払いすると、10年以上前から用意していた答えを告げた。
「可愛いし、秀才だし、物静かで、当時のオレにとっては理想のタイプだったからッスよ」
「…意外と普通に答えてくれたわね。そーゆーのって『なんでだっけ?』とか、『忘れた』って言うパターンかと思ったのに」
「忘れもしませんよ、特にこんな付き合いの長い人へ抱いてた、あの日の恋心ってのは」
「そっかぁ。…ちょっと私も恥ずかしくなってきたなぁ」
菜月さんは、なみなみと注がれた焼酎をグイッと飲み干した。なんとまあ豪快な飲みっぷり。
「ホントにありがとね、2人とも。こうして修吾と結婚できたのは、2人のお陰よ」
「いえ、オレはただ菜月さんの恋を応援したかっただけですし…」
「あたしも高1の文化祭前に壊れた時、菜月のアイデアに救われたんだもん。お互い様だよ」
「もう…照れるじゃない」
菜月さんは照れ隠しに笑い、また焼酎をグラスに注いだ。
「まあ一番のきっかけは、藤田くんがあの時私を引き止めてくれた事かな。でなきゃ、今こうやって4人揃うことも無かったろうし、修吾も私も独身だったかもね。藤田くん、その節は本当にありがとね」
「いえ…あの時はまた会えるなんて思わなかったし、こんなに修吾にふさわしい人が、修吾への恋心を手放すなんて、もったいないと思ったんで…」
オレはタバコの灰が落ちるのも構わず、そっぽを向いて思いきり吸った。
そして、むせた。
「ちょっ、涼くん!」
「そんなに吸うからよ」
咳き込むオレの背中を、静香が優しくさすった。
菜月さんはやれやれ、と焼酎を煽った。
「ところでさぁ…」
菜月さんが、オレの傍らのウイスキーに目を留めた。
「藤田くんは相変わらず、焼酎とか飲まないの?」
「言いませんでした?オレ、洋酒派なんで」
「ええ〜?洋酒の方が度数高くない?それをカパカパ飲めるとか、どんな胃袋してんの?」
「…さては来島さん、洋酒は苦手なんスか?」
「苦手って言うより、日本人として生まれたからには日本酒や焼酎を嗜みたいの」
「そー言って洋酒を避けてるって事は、苦手なんスね」
「へぇ〜…言ってくれるじゃない。藤田くんだって日本酒や焼酎避けてる癖に」
「お?やりますか?」
「あーあ、また始まっちゃったよ…」
成人してから、もはやお馴染みとなった菜月さんとのチャンポン対決。
静香の心配をよそに、今回もその戦いの火蓋が切って落とされようとしていた。
「勝負よ!今度こそ私が勝つわ!」
「いいッスよ。社長や数多の上司を鎮めたザルっぷり、見せてやりますよ」
「もう、いい加減にしてよ2人とも〜!!」
静香の悲痛な叫びと共に、不毛な争いが始まった。
結果的に、今回も来島さんの惨敗で勝負は幕を下ろした。
トイレで盛大にマーライオンした菜月さんは、目を覚ました修吾に連れられて店を出た。
「あのさぁ…」
2人が見えなくなるまで手を振った後、静香が大げさなため息と共に肩を落とした。
「もういい加減にやめない?菜月に喧嘩売るのさぁ。2人のせいで、酒代だけで毎回とんでもない額じゃん」
「そんな高頻度にやってねーだろ。それに、何も生活に影響出るほどの額じゃねーし、貯金だってしてあるし」
「貯金?」
静香がオウム返しに訊く。
オレは頷いた。
「いつか子ども産まれるってのに、そんなにバカスカ金使ってらんねーだろ?養育費とかねーと、この先お互い苦労するだろうから、入社の時から貯めてんだよ。そんで、いつかは一戸建てのマイホームでのびのび暮らしてーしな。オレの設計したヤツで」
「涼くん…」
オレは今、建築設計事務所に勤務している。
自分で言うのも何だが、客先からの評価もそれなりに高く、信頼と実績もある為、ある程度の安定した収入やボーナスを得ている。
いつかは社長にお願いして、オレの設計した家を建ててもらうつもりだ。
ちなみに静香はスポーツジムのトレーナー、修吾は某商社の営業マン、菜月さんは図書館の司書として、それぞれ働いている。
「ちゃんと先の事考えてたんだね。ごめん」
「いいよ別に。オレが単に言ってなかっただけだし」
オレはおもむろにタバコを再び取り出し、火をつけた。
「なあ静香」
「なに?涼くん」
「明日遅めに起きてさ、2人であの喫茶店行かね?そこで朝飯食おーぜ」
「いいね。そういえば、朝に行ったことなかったね」
「ああ」
あの頃よく4人で通っていた喫茶店は、今でも営業している。
「今じゃ4人で会う機会、減っちまったな」
「しょうがないよ、お互い仕事してるんだもん」
「修吾が残業で来れない日もできちまったな」
「これからまた忙しくなりそうだね」
「昇進したしな」
オレはまたタバコを吸った。
「ねえ、涼くん」
「何?」
「これからも変わらないといいね、あたし達」
「何言ってんだよ」
オレは静香の手を握った。
「変えさせねーよ。何があっても」
「そうだね。願うんじゃなくて、あたし達でそうするべきだね」
静香はオレの手を握り返した。
「好きだよ、涼くん」
「オレも大好きだよ、静香」
オレは静香の手を離し、携帯灰皿でタバコを揉み消すと、少し背伸びして静香にキスした。
静香との出会いがオレを変え、再会した菜月さんを変え、幼なじみの修吾を変えた。
静香がいたからこそ、今のオレ達がある。
入学式の日に出会えた事は、これから先も忘れない。
その為にオレは、この先ずっと静香を愛し続けていたい。
たとえケンカしても、挫けそうになっても、ヤケクソになっても、何があっても。
あの日の出会いを忘れない限り、オレは精一杯の『好き』を静香に惜しみなく伝えたい。
ありがとな、静香。
そして、これからもよろしくな。
永久に…。
完
ついに完結です。
最終回なので、今回は主要キャラクターの初期設定の説明をさせていただきます。
涼介は元から低身長、ゲーヲタ、皮肉屋、引っ込み思案でした笑
ただ過去にGREEで載せた頃に比べ、比較的落ち着いた性格に変わりました。
第20章で静香が精神崩壊したストーリーでは、当初はひろみがみんなにキレていましたが、今回リメイクするにあたり、やっぱりここは主人公の見せ場を与えたいと思い、涼介にキレて暴れてもらいました笑
静香は初期に比べて、あまり性格に変更はありません。
しかし、過去にレイプ未遂にあった部分に関しては、今回新たに加えました。自分が生んだキャラに暗い過去を持たせたのは、かなり罪悪感がありますが笑
あと静香は当初嫉妬深く、菜月と再会した涼介に(誤解とはいえ)武力行使するほどでした。
ちなみに第20章で精神崩壊した場面は、当初からありました。
修吾は手書きの頃は、実はチャラ男設定でした笑
菜月との交際も、中学時代から始まってました。
GREE版では、2学期の初め頃に塾に通い始めた際、再会した菜月と密かに交際をしていました。涼介や静香には内緒にしてましたが、菜月が涼介と再会した際にバラしてました。
GREE版から優等生キャラにし、涼介に気を遣って他の女子と付き合おうとしないという設定が生まれました。
第6章で発覚した音痴は、GREE版完結後に後付けしました笑
ちなみに修吾は作中唯一の左利きです。これもGREE版完結後の後付け設定ですが笑
菜月は初期から特に変わっていません。
静香が裏表のない性格なので、pixiv版を書くにあたり裏表の激しいキャラにしようと考えました。ボツにしましたが笑
修吾に匹敵する秀才で女子高通い、元吹奏楽部の優良部員なのは、当初からありました。
隠れヲタなのは、GREEの方で『お転婆娘とヤクザと腐女子と(現:『冷徹絵師は恋の魔法にかけられて』)』のサブヒロインである舞奈とのコラボ作にて新たに加えました。
廃人クラスのゲーヲタなのは、今回新たに加えた設定です。
静香の兄である優人は、GREEで載せた『お転婆娘(以下略)』の亜音と静香のコラボ回で生まれました。コンセプトは『人のいい頼もしいチャラ兄貴』です。
元々兄がいる設定の静香でしたが、GREE版では出番が無かった為、前述の静香の後付け設定を知る人物として登場しました。設定年齢は21歳で大学3年です。
初期設定については以上となります。
『永久に…』を最後まで読んでいただいた方々、本当にありがとうございました。
今後とも涼介、静香、修吾、菜月、優人を愛していただけると幸いです。
令和6年4月5日
御霊幽斗




