第1章『目ぇ覚めたわ』
ヒロイン登場回です
入学式前夜に徹ゲーとかしてた人、どれぐらいですか?
ちなみに私は諸事情により施設生活だった為
前夜はぐっすり寝てました笑
4月の上旬。
オレと修吾は同じ高校に進学した。
今日はその入学式だった。
「…これから皆さんには、3年間この学び舎で勉強、スポーツに励んでいただきます。その中で友情を育み、一致団結して、学校生活を盛り上げていってください」
なーげぇ。
いつ終わんだよ校長の話。
夜遅くまで徹ゲーしていたオレは、祝辞の間ウトウトしていた。
さっさと硬っ苦しい式典が終わってほしかった。
長い式典が終わり、オレ達はやっとこさ新しい教室に戻った。
五十音順で決められたオレの席は、1番後ろだった。黒板見づれぇ。
担任は平野という女性教師だった。
まだ着任して1年の、数学担当らしい。
「えー、これから1年間よろしくお願いします。基本的に大抵のことは目を瞑りますが、周りに迷惑掛ける事をした場合は容赦しません。私をはじめとする先生方に見つからないよう、迷惑の掛からない程度に好き勝手楽しくやってください。時折先生も混ぜてください、寂しいので」
クラス中が、ドッと笑った。
数学教師とは思えない、サバサバとした姉御肌の担任だった。
ホームルームが終わり、オレは眠い目をこすりながら、配られたプリント類をファイルにしまおうとした。
早く帰ってゲームがしたい。
しかし目が霞んで、プリントがなかなか入らなかった。
よし入った、と思い、ファイルをカバンに入れようとした時、プリントがバラバラに落ちてしまった。
「あーあー…」
俺はしゃがみこんで、プリントを拾おうとした。
「はい、コレ」
「あ、ありがと」
隣の席の女子が、プリントを渡してくれた。
「眠そうだけど、大丈夫?」
「んー…徹夜でゲームしててちょっと…」
「分かるわ〜。あたしも実は同じ理由で、ちょっと寝不足なの」
俺は目をこすると、バチッと彼女と目が合った。
ボサつき気味の黒いセミロングヘアに、ややつり上がり気味の目は黒いパッチリした瞳。
途端にオレはドキッとした。
か、かわいい…。
「どうしたの?」
彼女はキョトンとした。
「な、なんでもない…」
慌ててオレは顔を逸らした。
一気に眠気が吹っ飛んだ。
彼女はニヤッと小悪魔っぽく笑った。
「なになに?ひょっとして、照れちゃってる?」
「ち、違うっ。そんな事は…」
「顔赤いよ?」
からかうように言う彼女。
オレはますます目が合わせられなくなった。
「女の子と話すの、慣れてないの?」
「あ、うん…あんまり免疫なくて…」
「照れ屋さんなんだね。可愛い」
「えっ」
初めて言われた。
オレが、『可愛い』…?
「あたし、滝静香っていうの。君は?」
「オレは…藤田涼介」
「涼介くんか…ね、『涼くん』って呼んでいい?あたしのことは、『静香』って呼んでくれていいからさ」
「そ、そんな…初対面なのに、急に呼べないよ…」
オレはしどろもどろになって、首を横に振った。
いきなり呼び捨てとか、ハードルが高過ぎる。しかも、女子相手にだ。
「いいじゃん。どうせしばらくは席替えしないだろうし、せっかくのお隣同士なんだし、仲良くしようよ?それとも、あたしとは嫌?」
「嫌って訳じゃ…」
「じゃあ決まりね」
滝さん、いや静香は手を差し出した。
「よろしく、涼くん」
「よ、よろしく…」
オレもおずおずと手を差し出した。
静香はオレの手をしっかり握った。
「よかったら、正門まで一緒に来てほしいな。いい?」
「あ、うん…ちょっと待ってて」
オレは慌ててプリントをカバンにしまうと、肩に引っ掛けた。
静香は待ってくれていた。
「よし、行こっか」
静香は嬉々として教室を出た。
「おっ、やっと来たか」
正門まで来ると、金髪の若い男性がタバコを片手に待っていた。
彼はオレを指差して言った。
「ソイツは?」
「クラスメートよ。涼くん、こっちはあたしの兄の優人」
「滝優人だ。名前は?」
「ふ、藤田涼介です…」
「涼介か。よろしくな」
オレは優人さんと握手した。
「しっかし、背ェ低いな。涼介、静香に食われんなよ」
「え」
「コイツ、ショタ好きなんだよ」
「えっ!?」
「ちょっ、兄貴!余計な事言わないでよ!」
静香は顔を赤くして、優人さんの胸ぐらを掴んだ。
「涼くん、違うから!あたし、そんなつもりで涼くんと仲良くなろうとした訳じゃないから!」
「う、うん…」
静香の慌てっぷりが、さっきのサバサバした感じと違っておかしかった。
「番号教えてくんねーか?」
「いいっすよ」
「あー!いいな、あたしも!」
「いいっすよ」
オレはスマホを取り出し、2人と電話番号を交換した。
初めてアドレス帳に女子の名前が載って、心底嬉しかった。
「じゃあね、涼くん。また明日!」
「またな」
静香は優人さんの車の助手席に座り、去っていった。
「さーてと…」
帰るか、と駅に向かおうとした時、誰かとぶつかった。
「え、誰─うおおおおっ!?」
「話を聞かせてもらえるか?」
修吾が仁王立ちしていた。
最悪だ…。
続く