第12章『それでも…それでもオレは…ッ!!』
人は何かしらの強さがあります。
腕力、権力、財力、支配力、などなど。
その源は『思い』です。
『思い』が『力』に変わり、『理性』がそれをコントロールするものだと思います。
涼介は強い人間じゃないかもしれません。
しかし、飄々としていながら、胸には熱いものを秘めています。
今回はそれを発揮する回です。
涼介が見せる主人公の矜恃をご覧下さい。
暗がりから取り巻きと共に現れたのは、中学の頃の同級生である東だった。
「久しぶりじゃねーか。元気か?」
「…まあな」
「どうせお前の事だから、昼夜逆転してんだろ。ゲーヲタだしな」
東はからかうように笑った。
取り巻きも一緒になって笑った。
中学時代から東はいつもこうだった。
引っ込み思案なオレに目をつけてるのか、事ある毎にオレを見下すような発言をしては、取り巻きと共に嘲笑う。
下手に牙を剥けば、集団でリンチしてくる。
いわゆる、小悪党なのだ。
東は静香に目を留めた。
途端にオレは身構えた。
「おっ、誰その子?」
「オレの彼女」
「嘘つけ。いつも大西にベッタリだったお前に、彼女なんてできる訳ねーだろ?」
「いつの話だよ。静香、行こうぜ」
「まあ待てよ。なあ、君。俺達と遊ばね?こんな根暗チビなんてほっといてさ」
俺の傍らで静香がビクッとなるのを感じた。
東はどうやら、モロ苦手なタイプのようだ。
「あれ?ひょっとしてビビってる?かわい〜。そーゆーとこ、嫌いじゃねーよ。なあ、遊ぼうぜ」
震える静香に構わず、東は手を伸ばして静香の手を掴もうとした。
パシッ、とオレはその手を払い除けた。
「何すんだよ」
東が凄んだ。
「怯えてる女の子にそんな事すんなよ」
「あ?何カッコつけてんだよ。お前に守れると思ってんの?雑魚のくせに」
「雑魚でも男なりのプライドはあんだよ。悪ぃけど静香には触らせねぇ」
オレは静香の前に立ちはだかった。
正直、怖い。
足もガクガク震えているし、心臓もバクバクいってやがる。
それでも、オレは静香を守らなければならない使命感があった。
「おっ、やんの?」
東は嘲笑うと、サッと手で合図した。
ざっと10人かそこらだろうか、東の取り巻きはオレと静香を包囲し、完全に退路を断った。
「こんだけの数を相手にできんのかよ」
「やっぱサイテーだよアンタは。サイテーの小悪党だな」
「ンだとッ!?」
不意に頬に強烈な衝撃を感じた。
一瞬遅れて、東の拳が当たったことに気づいた。
すかさず東は、オレの鳩尾に膝蹴りを食らわした。
「ぐふっ!!」
「涼くん!!」
静香が悲鳴を上げた。
さらに腹を蹴られたオレは、静香の足元まで転がされた。
「調子に乗ってんじゃねぇよ。ほら見ろ、ボコられてばっかじゃねーか。お前じゃ守れねーよ、その子は」
「テ、メェ…あがっ!!」
起き上がろうと肘を付くも、顔を蹴られてまた倒れた。
「やめて!!これ以上涼くんを傷つけないで!!」
「一生そこで寝てろ。安心しな、彼女は俺達でたっぷり遊んでやっから。せいぜい悔しがってな、ザーコ」
オレは体が痛むのも構わず、静香に手を伸ばそうとした。
しかし、無情にもそれを踏み潰された。
「がああっ!」
「往生際が悪いなぁ。もう彼女は俺のものだ。お前は帰ってゲームでもしてな。まぁその体じゃ無理か」
「おい」
不意に東の背後から声がした。
取り巻きを押しのけて割り込んできたのは、優人さんと修吾だった。
「お、大西…と、誰スかアンタ」
「俺の妹とボーイフレンドに何してくれてんだコラ」
優人さんは冷たく言い放った。
「こっちもお仲間を呼ばせてもらったぜ。痛てぇ目見たくなきゃ、とっととお縄につきな」
「2人とも、待たせてすまない。もう大丈夫だ」
修吾はオレの腕を肩に回し、ゆっくり担ぎあげた。
「証拠はバッチリ押さえたわ。東、アンタもうおしまいね」
「き、来島!?なんでお前が!?」
「友達のピンチに駆けつけたからよ」
不敵な笑みを浮かべた来島さんも現れた。
その手には、動画を撮ったと思しきスマホが握られていた。
「警察呼んだから。あとはこっぴどく絞られなさい」
「そんな…」
東はガクッと膝をついた。
オレ達を取り巻いていた連中は、優人さんの仲間達に次々に取り押さえられた。
「良かった…」
オレは安堵して、その場で意識を失った。
目を覚ますと、知らない天井が目に映った。
オレは直後、大事なことを思い出した。
「静香!!」
ガバッと起き上がると、東に蹴られた胸が痛んだ。
痛みで顔を歪めつつも、その場の空間を見渡した。
修吾の部屋ではなかった。
「おう、目ェ覚めたか」
声がした。
振り向くと、部屋の入り口に優人さんがいた。
「ここは…?」
「俺ん家だ。静香は隣の部屋で菜月と寝てる」
「良かった…」
意識を失う直前の言葉を、オレは再び呟いた。
「修吾と菜月には話したよ、静香の過去をな。2人ともショックだったみてーだ」
「そうでしょうね…」
オレはふと、鼻にガーゼが貼られている事に気づいた。
触れてみると、どうやら折れてはいないみたいだ。
「すみません…オレ、静香を守れませんでした…ホントにすみません…」
悔しくて涙が溢れてきた。
押し寄せる後悔の念と共に、涙はどんどん流れてきた。
「オレに力があれば、こんな事には…」
「何言ってんだよ」
優人さんはオレの背中をさすった。
「結果的に静香は助かったんだ。それでいいじゃねーか。それに、お前が静香を守ろうとしたのは、大した根性だったぜ?よくやったよ」
優人さんの優しさが身に沁みた。
オレは何度も涙を拭った。
嬉しかった。
同時に、燻る後悔を噛み締めた。
大して力も無いくせに、『守る』と格好つけた自分が恥ずかしかった。
優人さんがオレの頭を優しく撫でた。
「お前は強いよ。怖くてもたった一人で、惚れた女を守ろうとする勇気があるんだ。それはどんな力を持ってても、絶対敵わねぇ。お前自身の立派な強みだ。ホント、よく頑張ったな」
止まらない涙は、オレが再び眠りにつくまで続いた。
続く




