第11章『夏だ!浴衣だ!祭りだァァァァァ!』
夏祭りは施設出て以降、誰かと一緒に行った試しがありませんでした。
花火大会も1人で「たーまやー」とか言いながら満喫してました笑
そんな私の心情を知らない涼介達の浴衣回、第11話をどうぞ!
夏休みに入った。
「…んあ?」
オレは目が覚めると、起き上がってベッドから下りた。
「…やべ。もうこんな時間かよ」
ただいま夕方6時半である。
そして、夏祭りまであと30分である。
慌ててスマホを見ると、既に何件もの着信履歴があった。
静香や修吾からだった。
「いや、マジでヤベェ!!」
オレは急いでクローゼットから浴衣を引っ張り出し、着替え始めた。
「涼くんおっそーい!!」
家を出ると、静香がムスッとしながらも待ってくれていた。
「ごめん、寝過ごした」
「もう大西くんは先に行ったよ?『菜月と待ち合わせしてる』って言うから」
朝顔柄の青い浴衣に、お団子ヘアにした髪型。
手には浴衣と同じ柄の巾着袋を下げていた。
ちなみにオレは、籠目模様の黒い浴衣だ。
「かわいいよ、静香」
「ほ、褒めても何も出ないわよ。罰として、今日は奢ってもらうから」
「分かった分かった。じゃ、行こうか」
オレは静香の手を握った。
緊張してたんだろうか、ほっそりした手が少し汗ばんでいた。
夏祭りの会場は、オレ達の母校だった。
毎年この中学校では、夏休みの序盤にお祭りが開かれているのだった。
校門前で、修吾と来島さんは待っていた。
修吾は青海波模様の藍染め、来島さんは麻の葉模様の桃色の浴衣だ。
2人とも、楽しげにおしゃべりをしていた。
すると、こちらに気づいた来島さんが、手を振ってくれた。
「すんませーん、寝坊しました」
「またタイムアタックしてたの?」
「いや、野良と朝まで周回してました」
「やり過ぎでしょ…」
「夏休み前夜から何やってんだお前は…」
2人は同時に頭を抱えた。
「お詫びに何か奢るんで。もちろん3人分」
「私、たこ焼きがいい」
「じゃあ俺はクレープ」
「あたし焼きそば」
地味に高ぇのチョイスしやがって…。
渋々オレは、懐から財布を取り出した。
「ゴチになりまーす」
静香達はそう言って、それぞれの食べ物を頬張った。
オレはラムネを1口飲んだ。
「修吾、クレープ1口ちょうだい?私のたこ焼き、1個あげるからさ」
「いいいっ!?」
修吾はたじろいだ。
わーお、なんと大胆な。
「ちょっ、それじゃ関節キ─」
「いいじゃねーか、いっちゃえいっちゃえ」
「友達ならセーフセーフ!」
「来島さん、今のうち」
オレが修吾を押さえている隙に、来島さんは嬉々としてクレープにかぶりついた。
「うーん、おいひー」
「『おいひー』じゃないよ!そして2人は何ガッツポーズしてんだ!」
「まあまあ修吾。ほら、あーん」
来島さんの積極的なアプローチに圧された修吾は、仕方無しにたこ焼きを頬張った。
「あふっ(熱っ)!あっふ(あっつ)!」
ハフハフしながらもたこ焼きを咀嚼した修吾は、やっとの思いで飲み込んだ。
「美味しかった?」
「あ、うん…」
恥ずかしさのあまり、修吾は顔を背けてクレープをかじった。
「アツいねー、ヒューヒュー」
「茶化すな!」
来島さんと静香は笑った。
「涼くんも食べる?」
静香が焼きそばを差し出す。
「じゃあ1口、いただきまーす」
静香が丁寧にオレの口に運ぶ。
オレは熱々の麺を思いきりすすった。
「うんま、ソース濃いめだな今年は」
「そうなの?あ、ラムネ1口いい?」
「はい」
静香にラムネの瓶を差し出す。
ゴキュッと静香は喉を鳴らして飲んだ。
「はぁ〜、やっぱ夏祭りはコレだね」
「だな」
「いや、君ら2人はなんで何事も無かったように食べあっこしてんの?」
「「付き合ってるからです」」
「じゃあなんで俺と菜月の時は…ああ、もういいや」
修吾は呆れて、これ以上つっこむのを諦めた。
「よし、じゃあ二手に別れよう。来島さんは修吾を頼みまーす」
「まかせて。じゃあ修吾、行こう」
「あ、うん」
来島さんは修吾が頷くより早く、修吾の手を握った。
「オレらも行こーぜ、静香」
「うん、行こ行こ」
オレは静香の手を引き、反対方向へ歩き出した。
「なあ、静香」
「なあに?」
オレはある事をふと思い出して訊いた。
「あれからどうなんだよ。やっぱ、修吾のことは苦手か?」
「うーん…前よりは慣れたけど、やっぱ涼くんを挟まないと不安かな」
「そっか…てか、ここの祭り自体来てよかったのか?」
「どういう事?」
「オレの元クラスメートとワンチャン会うかもしれねーぞ?静香が苦手なタイプかもしんねーぞ?」
「…頑張る」
「無理すんなよ。最悪2人で抜け出して、家まで送る─」
「でもっ!」
静香は声を荒げた。
「あたしは涼くんと2人で回りたいの!涼くんと2人っきりで、祭りを楽しみたいの!今日という日をどれだけ楽しみにしてたか、涼くんには分からないの?」
「分かってるよ、静香の手を握った時から。あと、少しは落ち着こうよ」
「えっ…」
オレはグランドから少し離れたところに植えられた、桜の木に誘った。
薄暗くてよく見えないが、枯れかけた葉桜になっていた。
「今日最初に手を握った時、ちょっと汗ばんでただろ?緊張してたのかな、って思ったんだ。
その瞬間、すげー伝わったよ。どんだけ祭りが待ち遠しかったのか。ごめんな、寝坊して」
「ううん、もう気にしてないよ」
静香は首を横に振った。
「さて…ここで思い出話をひとつ」
「ん?」
「実はこの場所、卒業式の日に来島さんに告った場所なんだ」
「えっ!?」
そう。
何気なく静香を誘ったこの木、実は序章での冒頭舞台となった場所だったのだ。
「まあ知っての通り、フラれちゃったけどな。その後の修吾がさ…」
オレは静香の表情が落ち着くまで、思い出話を続けた。
卒業式の日の出来事を話し終える頃には、静香はいつもの調子を取り戻した。
「もう大丈夫?」
「うん」
「じゃあ、行くか」
オレは静香の手を再び握り、歩き出した。
と、誰かがオレ達と同じように屋台裏から出てきた。
複数人いるんだろうか、笑いながら話す声が聞こえた。
「えっ、誰アレ」
「うわ…最悪だ」
聞き馴染みのある声だった。
嫌な意味で、だ。
「おっ、藤田じゃねーか」
続く




