第10章『お前もついにか』
今回は修吾がメインの話となります。
イケメンで完璧超人な彼に、どんな気持ちの変化が起こるのか。
第10話、どうぞご覧下さい。
「来島さんおざーす」
夏休みまであと少しになったある日の朝、オレ達は駅のホームにて来島さんと待ち合わせた。
「菜月おはー」
「おはよ」
あれから丸1ヶ月が経ち、来島さんはあの日以降も何度か修吾とデートを重ねたものの、告白までには至らなかった。
とは言っても、何も変わってない訳ではなかった。
「おはよ、菜月」
「うん。おはよ、修吾」
最近来島さんは修吾と、名前で呼び合う仲にまで発展していた。慣れてないのか、照れくさげではあるが。
「あら?今日は寝不足?」
「ああ、涼介と徹ゲーにしていてね」
修吾は大きな欠伸をした。
目の下にはうっすらと隈ができていた。
「修吾が『レア素材欲しい』つったから、付き合ってやったんだよ。てか結局時間の無駄だったし」
「仕方ないだろ。地道にフリー周回した方が確実かと思ったんだよ」
「結局金枠2つの調査クエ一回で良かったじゃねーか」
「あんなクエスト、俺1人で2匹相手しろと─」
「あーハイハイ。事情はもう分かったから、しょうもない喧嘩はおしまい」
来島さんは手をパンパン叩いて制した。
もはや馴染んできたなこの人も。
「マイセットはできたの?」
「なんとかね。ただ、まだ試してなくて」
「じゃあ今夜一緒にやろ?私は援護射撃するから」
「いいな〜。あたしも参加したーい」
「静香、2人のアツい時間を邪魔しちゃダメだろ?」
「やめろやめろ。そんな関係じゃない」
修吾は顔を赤らめながら、ピシャリと言った。
「それにしても、よく付き合ってられますね。ただでさえゲーム下手すぎて、時たまコントローラー投げたくなるぐらいなのに」
オレはため息をつきながら言った。
「上手い下手は関係ないわよ。修吾はただ楽しくてやってるだけ。私や藤田くんのようなガチ勢はやり込み過ぎて、そういう感覚が麻痺してるのよ」
「麻痺っつーか、もはや無に等しいんスけどね」
「うるさい、廃人が」
修吾が噛みついた。
ちょうど上り列車が到着した。
「じゃあ放課後ね、修吾。またね〜」
来島さんはそう言うと、背を向けたまま手を振って乗り込んでいった。
「菜月もだいぶ、あたし達に馴染んできたね」
オレ達三人組は、学校に着くなりいつもの踊り場で集まった。
「だな〜。オレももう慣れちまったよ。中学の頃に比べて」
「というか2人とも、1つ訊いてもいいか?」
修吾は人差し指をピッと立てた。
「最近疑問に思ったんだが、菜月がここのところ俺との絡みが多くないか?俺は涼介が菜月とゲーマー同士親睦を深めるとばかり思っていたんだが」
それを聞いたオレと静香はギクリとした。
来島さんと仲良くなったのは、修吾への恋を成就させる為だったのだ。
当然そんなことが修吾にバレちまったら、全ては水の泡だ。
オレと静香は平静を装う為に深呼吸した。
「まぁたしかに…ゲーマーとしては仲良くなれちゃいるけどな」
「てゆーか2人が揃うと大体無双しちゃわない?」
「早けりゃ5分前後で終わっちまうしな」
「たしかにな。お陰で俺が受注したクエストのはずなのに、俺の活躍がほとんど無いよ」
なので最近4人でマルチプレイをする際は、オレと来島さんは後方支援に回るようになった。
「そこなんだよ。修吾まで楽しめなきゃつまんねーだろ?あれだけ修吾に優しく、根気強く付き合ってくれる人、なかなかいねーじゃん。だからこそ大事にしてほしいんだよ、来島さんを」
「そうそう。大西くんがメインのクエストなら、尚更大西くんがもっと活躍できるように、菜月だってサポートしてあげてるんだよ。涼くんだって、ずっと前からそうしてきてるんだし」
「だからと言って、ゲームばっかの付き合いじゃつまんねーだろ?違った部分でも、絆を深める方法はあんだし、現に修吾って甘党なんだしさ、いっぱいスイーツ専門店教えてもらえてラッキーじゃねーか」
「ああ。正直、あんなに店を知ってるとは思わなかったよ。それに、誰かと一緒に行くだなんて、想像すらしていなかった」
「え、大西くんって甘いの好きなの?」
「まぁね。この事は涼介にしか明かしてなかったんだが、菜月に誘われて行った時にバレてしまったよ」
「美味しそうなのいっぱいあった?」
「そりゃあもう。いつの間にか、目移りしている事に気づかれてしまったよ」
「なーに隠してんだか。別に誘ってくれりゃ、オレだって一緒に行ってもよかったのによ」
「お前が根っからのインドア派だから誘いづらかったんだよ。それに、1人で行くのも勇気がいるんだ。恥ずかしいだろ」
「ま、一緒に行く相手ができてよかったじゃねーの?」
「…そうだな」
修吾は深くため息をついた。
「しかし、涼介がかつて惚れた人も、今では俺達の友か…何とも奇妙な縁だな」
「異性とあんなガチヲタトークできたの、来島さんが初めてだよ」
「あれ?あたしはノーカン?」
「あ、ごめん。2人目だった」
「もーぉ」
静香はわざとらしく頬を膨らませた。
「まぁ良かったじゃないか。フラれた後とはいえ、好きだった人と仲良くなれて。かといって、滝さんの事を放ったらかしにしてはダメだぞ?ちゃんと大切にしてあげなきゃ」
「分かってるよ。来島さんの事はもう割り切ってるし、それにオレにとって、静香は誰よりも大切な存在だから」
「じゃあ涼くん、キスしてみて?」
「「えっ!?」」
オレと修吾は同時に振り向いた。
「あたしの事、一番大事なんでしょ?ほら早く」
静香は屈んで、唇を指先でトントンと叩いた。
「〜〜〜〜〜っ!!」
オレはヤケクソになり、両腕で抱え込むように静香の頭を引き寄せてキスした。
「んんっ!?んっ、んんーーーーー!!」
静香は目を見開いてもがいた。
でも、オレは離さなかった。
「んーーーーー!!んーーーーー!!」
ギブアップとばかりに静香は、オレの肩をバンバン叩く。
オレは静香から唇をひっぺがした。
「…ぷはっ!」
静香は顔を真っ赤にし、手の甲で唇を隠した。
「…涼くん、やりすぎ」
「…静香だって挑発してきただろ」
オレも顔が火照ってるのを感じた。
恥ずかしくて静香と目が合わせられなかった。
修吾は顔を上げ、片手で目を覆っていた。
「…よくもまあ、恥じらいもなく」
「いや十分恥ずかしかった」
「そ、そだね…」
しばしの沈黙が続いた。
「あのさ」
破ったのは修吾だ。
「2人は今、付き合ってるんだよな?」
「ああ」
「『付き合う』って、どういう感じなんだ?」
「は?」
オレは目を丸くした。
まさか修吾の口から、そんな問いかけが来るとは思わなかった。
「どうしたよ急に」
「ふと気になってな。涼介に滝さんという恋人ができてから、俺も考えるようになって…」
「なになに?大西くんもリア充デビューするの?」
「するかどうかは分からないけど…そろそろ俺も真剣に考えた方が良いかと思ってな」
修吾はこめかみのあたりをポリポリかいた。
「修吾、お前…」
「おかしいよな?今までお前に気を遣って、誰とも付き合おうとしなかった俺が、今になって考え始めるなんて」
「おかしくねーよ。つか、今からでも遅かねーだろ、オレ達まだ10代なんだし」
「…そうだな」
修吾は肩をすくめた。
「てか、気になってる人いんのか?」
「それは分からない。俺はまだ、異性として誰かを好きになった事がないから…」
「そっか…」
かなり微妙なポジションにいるようだ。
かといって、気持ちにもう少しばかり変化がない限りは、どうしようもできない。
「うーん…」
正直、オレには答えは出せなかった。
オレだって異性と付き合うのは、静香が初めてだ。
惚れてフラれた回数は、両手足の指でも足りないほど多いし、きっかけなんて大したものじゃない。
今のオレには残念ながら、アドバイスのしようがなかった。
「わり、お手上げ─」
と言いかけると、静香が口を開いた。
「人を好きになるなんて、けっこう簡単だよ?」
修吾は静香に顔を向けた。
「あたしが涼くんを好きになったのは、好みのタイプに出会えたからだもん。好きになるなんて、ふとした事がきっかけで自然になるものだと思うよ?もしくは、普段絡んでる人の良さを知った時とかさ。そんなに難しく考える事じゃないんじゃないかな?」
「ふとした…きっかけ?」
「うん」
静香は頷いた。
「そのうちきっと来るよ、誰かの事を『好き』って思う日が。焦らないでいこ?」
静香はそう言うと、修吾に笑いかけた。
修吾はおずおずと笑い返した。
「なんか固いよ笑顔が」
「すまない、あまり心から笑うのができなくて…」
「ほらほら、スマイルスマイル」
修吾は困惑しながらも、精一杯笑ってみせた。
続く




