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Mobius  作者: zろu
序←異戦現英縁剣魔神廻
2/6

異世界は壮大な前振りと共に

お久しぶりです、zろuです。いや〜遅れて申し訳ありません!序章は今回で終わらせるつもりでしたが、考えた結果前回、今回、次回の3部構成にする運びとなりました。

カットすることも考えたのですが今後の展開を考えるとどうしても書きたかったので暇な方は見ていただけると嬉しいです!

それでは本編をお楽しみ下さい、それではまた後ほどお会いしましょう!

 警視庁特殊事件捜査係、取り調べ室の隣室



 

 ガチャ…

 

「失礼します…」

 

 警視庁内にある取り調べ室、その隣にある一室に体格のいい中年の男性が案内された。

 

呉島くれしまさんですね?わざわざご足労頂きありがとうございます」

 

 部屋で待っていたのはスーツ姿の警官数名、その内の、20代前半位の茶髪ストレートヘアーでロングボブのポニーテールで、可愛らしい顔立ちに凛とした目がが印象的な女性警官が席を立って歩み寄ってきた。

 

「今回の誘拐事件を担当しています、高橋たかはし かすみと申します。同じく担当の鈴宮すずみやは今回の取り調べを行う為、本日は私が鈴宮に代わりご案内させていただきます」

 

「初めまして、呉島くれしま 春臣はるおみです」

 

 春臣は担当の高橋に挨拶を済ませると早速席に案内された。

 春臣は疲れているのかどうも無気力気味だった。

 

「すみません。未来みくも連れてくるべきでしたが、どうもショックでまだ外に出られる様子では…」

 

「お気になさらないで下さい、呉島さんに来て頂いただけでも十分ですから」

 

 高橋はそう言うと早速本題へと移る。

 

「取り調べに入る前に今回の事件の整理も兼ねて改めて確認させて頂きますがよろしいですか?」

 

「よろしくお願いします」

 

 春臣の返事を聞いた高橋は周りの警官とアイコンタクトを入れると、淡々と話始める。

 

「今回誘拐されたのは小見川おみがわ 記更きさらさん年齢は16歳。約1ヶ月ほど前に何者かによって拉致され現在まで行方不明。我々が調べたところ防犯カメラの映像から犯人は指定暴力団の「凶匣会きょうこうかい」に属する男数名による犯行だと分かりました」

 

「その男の名前は?」

 

「全員の特定まではまだ至っていませんが主犯格の男は分かっています。はやし 舞叉瑠まさる年齢は35歳、凶匣会構成員で住所不定無職となっています」

 

「それで、今回逮捕されたのがその男という事ですか?」

 

「いいえ…」

 

 ガチャッ…

 

 すると隣の取調室に1人の男が入れられた。

 見た目の年齢は50〜60代と言ったところか。体格は大柄で顔年齢にそぐわぬ筋肉質、マジックミラー越しだったがそれでも夥しい生傷の後があり、つい最近の傷も見受けられた。

 

「へっへっへ…イテェですよ刑事さん、そんな事しなくたって俺は逃げやしねぇ」

 

「無駄口を叩くな!そこに座って大人しくしていろ!」

 

 こんなやり取りがマジックミラーの向こうで行われていた。

 

「彼は?」

 

 春臣が入れられて来た男の顔を見ながら冷静に尋ねる。

 

三栗屋みくりや いくさ、凶匣会30年目の武闘派構成員で、過去複数回の暴行事件で逮捕されており気性が荒く危険な人物です」

 

「彼が今回の誘拐事件と何か関係が?」

 

「三栗屋個人的には無関係な筈ですが、裏で何処でどう繋がっているか分からないのが裏社会です。凶悪な暴力団組織でおそらく彼はそれなりの地位にいたでしょう。今回三栗屋は別件の暴行、傷害の罪で逮捕されてきました。もしかしたら面識が無いかと思いまして今回ご足労いただきました」

 

「そうですか…、私は身に覚えはありません。婚約者の未来も知っているかどうか…」

 

「そうですか…、分かりました。小見川さんの方には後でお伺いして顔写真を持って行きます。体調が良くなってからで結構ですので私か鈴宮の方にでもお知らせください。これ私の電話番号です、何かあったら時は是非」


そう言うと高橋がスッと自分の名刺を差し出した。

 

「ありがとうございます。凶匣会ですか…、最近ニュースにありましたが…」

 

「はい、「凶匣会本部襲撃事件」…、今回の件で主犯の林を含めたほとんどの凶匣会構成員が行方をくらませています。あそこにいる三栗屋も事件当日、暴力沙汰を起こしていた所を定年退職したウチの元警察官が私人逮捕という形で連行されて来ました。本部を襲撃した犯人も未だ全く分かっていません。三栗屋の証言から何かわかれば良いのですが…」

 

「あの、それともう一つ聞きたい事が…」

 

「ご子息…いえ、まだ甥御さんでしたね」

 

「ええ、すみませんこちらの事情が複雑で…」

 

「いえ、お気になさらず…。えーっと、呉島くれしま ひろさんですが実はこちらがちょっと難解でして…」

 

「何か問題が!?」

 

「その、紘さんは元々入院されていたとの事ですが、彼が入院されていた病院を調べて見たのですが彼が失踪した周辺時間の記録だけすっぽり抜け落ちてしまって確認が出来ませんでした」

 

「え?そんな…!病院のセキュリティが乗っ取られたってことですか!?」

 

「我々としても驚いているというのが正直なところです。病院のセキュリティやPC周り、周辺の防犯カメラもくまなく調べましたがハッキングの痕跡も紘さんの姿も一切ありませんでした。」

 

「凶匣会の可能性は!?」

 

「ゼロではありませんが可能性は限りなくゼロに近いです、凶匣会は名の知れた組織とはいえ暴力団としてはかなり小規模なので病院のセキュリティを乗っ取るほどの設備を用意出来るとも思えませんし、そんな事をするメリットもないでしょう」

 

「そうですか…」

 

「申し訳ありません、我々の力が至らないばかりに…。しかし記更さんも紘さんも必ず無事に呉島さんと小見川さんの元に無事に帰して見せます!ですからもう少しだけ時間を下さい!」

 

「…いえとんでもない、皆さんには日々尽力頂いて感謝しています。今後ともどうか2人の事をお願いします」

 

「はい!」

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 警視庁特殊事件捜査係、取り調べ室

 

 ガチャ

 

 三栗屋が入れられた取調室に1人のスーツ姿のアラサーの警察官が入ってきた。

 ピシッとした七三分けにメガネという生真面目なエリートといった雰囲気の男だ。

 するとその警官を見るなり三栗屋が絡んできた。

 

「ん?鈴宮君じゃねぇか!久しぶりだなぁ!」

 

「……」

 

「お?」

 

 すると三栗屋が鈴宮が首から掛けている「警視庁特殊事件捜査係、鈴宮すずみや 一路かずみち警部補」と書いてある名札を見つけた。

 

「ハッハッハッハ!!お前あのビビり小僧が今や警部補かよ傑作だ!ハッハッハ!」

 

「ハァ、相変わらず減らず口は変わらないな三栗屋。その顔、今回も鬼塚さんに派手にやられた様だな。あれだけ大口叩いて結局現役引退した元警官にやられてる様じゃお前のメンツも立つまい」

 

「鬼塚の腰巾着が抜かす様になったじゃねぇか!鬼塚が引退したと聞いた時ゃ腰を抜かしたもんだが、お前みたいな小便チビり坊主に奴の後釜が勤まんのか?」

 

「確かに鬼塚さんは素晴らしい警察官だった。だが彼やお前の様な腕っ節だけが取り柄の様な連中が、追って追われて町中を駆けずり回っていた時代はもう終わった。その結果がこれなんじゃないのか?三栗屋」

 

「ケッ!口だけは一丁前になったな」

 

「無駄口は終わりだ!」

 

 ドンッ!

 

 鈴宮は分厚いファイルを机の上に音を立てて置いた。

 

「……」

 

「お前に聞きたい事は3つ!1つ、凶匣会の本部を襲撃してきた人物及び組織は何か?」

 

「……」

 

「2つ、お前の会の舎弟が攫った小見川記更という少女の行方は?」

 

「……ふん!」

 

「そして最後の3つ、呉島紘と谷崖やがけ 真由まゆという少年少女の名前に心当たりは?」

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 烏下町からすのしたちょう2丁目付近。

 

 繁華街から外れた人通りの少ない通り、その道脇に一台の黒いワンボックスカーが駐車してある。

 フロント以外の窓ガラスとにはスモークフィルムが貼られており、運転席と助手席以外は外から見えない様になっている。

 

 運転席には若い男が何やら携帯をいじっており、助手席の年上の男は何処かに電話をかけている。

 

 後部座席は2列になっており、真ん中の右側に座っているのは呉島紘、若干癖毛の金髪で下はボンタン、上の短ランはボタンを開け赤Tシャツがガッツリ見えているいかにもヤンキーと言った風貌の少年だ。

 そんな一見騒がしそうな見た目の彼だが、今は手に持っているCDディスクを呆然と黙って眺めていた。

 

 そんな中隣から視線を感じた。

 

「……」

 

「……さっきからジロジロ見てどうしたんだ?真由」

 

「あ、いや、紘君さっきから何見てるのかなって…触れない方が良かった?」

 

 隣に座っていた少女は谷崖真由、左右のおさげを肩から垂らし、丸眼鏡で制服もキチンと着ており、地味だが真面目で清楚な印象の女の子だ。

 

「これか?これは…その、昔記更と作ったゲームだ…」

 

「ゲーム!?紘君達そんなの作れるんだ!すごいね!」

 

「いや、オレはただストーリーを考えただけ、ゲームに必要なプログラムは全部記更が組んだんだ、だからこれを作ったのは実質記更だ」

 

 すると2人の会話を聞いていた後ろの座席に座っていた大男がヌッと2人の間に割って入った。

 

「へー、紘お前そんな趣味あったのか、そんなナリして案外インドアな趣味持ってんだな」

 

「うるせぇほっとけ」

 

 ソフトモヒカンで黒Tシャツと青いノースリーブのダウンを着ている筋肉質の大男は海覇かいば あらし、暴力団凶匣会の構成員の1人でこの車内では最年長。

 そんな海覇は紘の趣味を軽く冷やかすと、紘の持っているディスクケースのパッケージを覗き込んだ。

 

「「ディザスターボックス」?災厄の箱か、中々いいセンスのタイトルじゃねぇか。どんなゲームなんだ?俺もこう見えてゲームは好きでな〜、○が如くシリーズは大好きでやってたぜ」

 

「RPGだ、とは言ってもただ途中に出てくる選択肢を選んで行ってEND分岐するだけのただのRPG"風"小説ゲームと言った所か、そんな大層なもんじゃない」

 

「へー!私はゲームは全然やらないけど本はよく読んでるから私でも楽しめそうだね、どんなお話なの?」

 

「言うのか?恥ずかしいんだが…」

 

「いいだろう?減るもんじゃねぇし、俺も気になるぜ、お前の作ったシナリオがよ」

 

 紘は少し黙ったが空気に押されたのか仕方なく口を開いた。

 

「……御伽話みたいなもんだよ、ある王国にはお姫様がいて、その人はみんなからとても愛されてるんだ。そこに魔王がやってきてお姫様は攫われてしまう。

 主人公の王子様は妖精達と一緒に困難を乗り越えながら魔王を倒してお姫様を助けるって話だよ、ありきたりだろ?」

 

「へー!すごい素敵だよ!私そう言うお話結構好きだなぁ!」

 

「ガッハッハッハ!!こんな昔のチンピラ見たいな奴がどんな話考えたのかと思えば、こんなメルヘンチックで素敵なお話とは…こりゃ傑作だ!今度俺にもやらせてくれよ」

 

「勘弁してくれ、それにこれはまだ完成してないんだ…」

 

「ひー、そ、そ、れ…み、みせ…て?」

 

 すると海覇の左側に座っていた若い女性も会話に入ってきた。

 彼女も紘の作ったゲームを見ようとグイッと顔を近づけて来た。

 

「うおっ!?、なんだよヒメ、お前も茶化しにしに来たのか?」

 

 彼女の名前は三女市みめいち 妃邏ひめぐ、ボブカットヘアーで茶髪に毛先が赤のツートンカラーになっている。

 カラフルで僅かにへそだしのトップスにの上に緑色のフード付きパーカーをチャックを開けて羽織っている。

 ホットパンツに太もも上部ほどの丈のハイソックス、さらにはショートブーツになぜか乗馬用の拍車が付いている。

 更には左の口元にリングピアスが2つ、右耳にスティックピアスが2つと奇抜が極まっている彼女は、この通り言葉がうまく話せない。

 

「ひー、だ、だ、だっ…まってた…わ、わ、るい!」

 

「ガッハッハ!そうだなヒメ、俺たちの前でボーッと見てたお前が悪い。

 よし、じゃあ今度落ち着いたら凶匣会の皆んなでやろうぜ!」

 

「ん!ん!」

 

 彼女は過去の出来事による精神的ショックの影響で言葉に強い吃音が出る様になってしまった。

 しかし凶匣会の人たちはそんな事は一切気にせずに接してくれたおかげか今では"ヒメ"の愛称で呼ばれる三女市は二十歳と若く明るく会内でもムードメーカー的存在で皆から慕われている。

 

「残念だがこのゲームはもうプレイ出来ないんだよ」

 

「えー!?何で何で!?」

 

「ぶーぶー!!」

 

 女性陣からブーイングの嵐が飛んできた、しかし紘は冷静に続ける。

 

「このゲーム実は、ある時期を境に何故かロードが出来なくなっちまったんだよ、記更とプログラムを見直してみたんだけど異常は無さそうだし、PCがおかしいのかと思って違うPCでやっても結局変わらなかった…」

 

「そうか…そりゃ残念だな、機械のことはよく分からんがまぁそう言うこともあるわな!ガッハッハ!」

 

 後部座席がやんわりと盛り上がりを見せる中、助手席で電話をかけていた男がため息と共にタンッとスマホの通話切った。

 

「ハァ…ダメだ、親っさん達も繋がらねぇ…。まさか何かあったんじゃねぇだろうな?」

 

「マジッすか…もう何日も連絡が取れてないっすよ?もうこっちから探しに行った方がいいんじゃ?」

 

 助手席の男は久瀬くぜ 宇助うすけ、癖毛と死んだ魚の目が特徴的で凶匣会ではシマの状況の調査からシノギの取り仕切りと言ったどちらかというと裏方の立ち位置である久瀬は、寡黙だがどんな状況下でも物怖じしない度胸と周りをよく見る冷静さを持つ。

 そんな性格故舎弟達はもちろん兄貴分の人間からも期待され慕われており、妹分の三女市とはよく共に行動している。

 

 運転席の男は胡坐こざ しゅう、凶匣会に入って2年目の下っ端構成員だが、兄貴分からは筋はいいと言われてはいるものの、まだまだ荒が目立つヒヨッコだ。

 

「ウスケ!!あ!あ!アキと…ミユ…は!?」

 

 するとさっきまで楽しそうに会話していた三女市が血相を変えて座席から身を乗り出して久瀬に詰め寄る。

 

「ヒ、ヒメの姉貴…」

 

「……」

 

「ウスケ!!!」

 

 三女市は口調を強めて問いかける。

 久瀬は少し黙ったが三女市の必死に訴えかける目を見て重たい口を開く。

 

「……ダメだ、出目いずもくとも連絡が付かない、星名ほしなのところもだ、店にも顔を出してないらしい」

 

「!!!」

 

 その言葉を聞いた三女市はそのまま力なく座席に座り込んだ。

 

「そん…な…」

 

「で?そっちはどうなんだ、胡坐?」

 

「え!?えっと…ネットニュースはまだ三栗屋の兄貴の話題で一杯っすね。兄貴が捕まってからもうだいぶ経つのに…」

 

「ニュースには何て?」

 

「要約すると「三栗屋容疑者容疑を認めず、誘拐された小見川記更さんの行方分からず。引き続き調査を進める」ってな感じです。これ警察の情報操作感もありますがどうなんでしょう?それと紘君と真由ちゃんの事は…」

 

「メディアら的には三栗屋の兄貴が誘拐事件の容疑者って事になってるのか、兄貴が捕まったという事は〈ゼパル〉の存在は警察側も認知した。となれば小見川記更の誘拐と紘と真由一件は関係ないと鈴宮なら読んでくれる筈だが…」

 

 久瀬が紘も真由の顔をジッと見つめた。

 

「「?」」

 

「巡り巡って無関係じゃなくなっちまった…これは面倒な事になるな…」

 

 するとここで先程からずっと後ろで静かに腕を組みながら話を聞いていた海覇が結論を急がせる。

 

「で、これからどうするんだ久瀬?親っさん達の元へ行くのか?」

 

「…いや、親っさんには威武島いぶしまのカシラと波手なみての兄貴が付いてますし出目も栄田さかえだ路木みちきの兄貴が迎えに行く手筈になっています。ゼパルの方も急ぎたいですが今はとにかくみんなの安否確認から行きましょう」

 

「ではまだここで親っさんの連絡を待つのか?」

 

「いえ、俺達は星名の所へ行きます。ゼパルが星名を狙う理由が分かりませんがひとまず安否を確かめに行きます。連絡付かないのと店に行ってないのが気になります、まさか殺されて無いといいんですが…」

 

「珍しいな久瀬、親っさんの命でもなけりゃ星名の心配なんて口が裂けても言わねぇお前が」

 

「……アイツには一応借りがあるんで、それにここで動かなかったらうるさい女がいるんでね…」

 

「あ…が、と…ウスケ…」

 

「そうか…、お前はまだ諦めてないんだな。この凶匣会を」


「諦めませんよ、何があっても凶匣会は俺達裏社会を生きる者達の希望なんだから。誰にも潰させねぇ」

 

 久瀬は座席に掛けておいた刀袋を取り出すと、ドアを開けて車から降りると運転席の胡坐に指示を飛ばした。

 

「胡坐、お前は海覇の兄貴と急いで4丁目のキャバクラに向かえ、店には俺がアポを取っておく」

 

「みゆきちゃんが働いている所っすよね?そんなとこ行ってどうするんすか?」

 

「星名が狙われてたとしたら事前の周辺調査にゼパル関係者が店に潜り込んだ可能性がある。店長には俺が説明しとくから監視カメラや客の出入り、それにキャストやその他スタッフに至るまで怪しい奴が居ないか徹底的に洗え」

 

「り、了解しました…あれ?久瀬の兄貴はどこへ?」


「俺は直接星名の自宅へ行ってみる、ヒメお前も来い」

 

「ん!」

 

 三女市は元気よく席を立つと、座席の下に置いてあった可愛らしウサギのリュックサックを取り出すと軽快に車を降りた。

 

「歩いて行くんすか?危ないんじゃ?」

 

「まぁ危険はあるがそこまで距離は無いし、ヒメと2人なら大概の障害はどうにかなる。それに何より今は時間が惜しい、多少リスクを負っても二手に分けたい」

 

「…分かりました、そう言う事ならお気をつけて!」

 

 久瀬は後部座席のドアから頭を突っ込んで海覇の顔を合わせるて。

 

「申し訳ありません海覇の兄貴、胡坐と子供達をよろしくお願いします」

 

「任されたぜ、お前も気を付けろよ」

 

「はい、では行きます」

 

 久瀬はそういうとスライドドアを閉めようとした。

 

「待ってくれ久瀬!」

 

 ドンッ!

 

 すると突然紘が閉まるスライドドアを止めて久瀬を引き留めた。

 

「オレも連れ行ってくれ!」

 

「あ?なんでお前を連れて行かなきゃならない」

 

「ゼパルのボスを殺す為だ!初めてここに来た時にも言っただろ!オレは…」

 

「ダメに決まってるだろうが。ただでさえ今どこから何が飛んでくるかさえ分からねぇってのに、ガキの面倒まで見切れるか、大人しくこの車の中に居ろ」

 

「なんで!?アイツ等の幹部と直接会った事があるのはオレだけなんだぞ!」

 

「顔知ってる程度でイキがるなよガキ、そもそもそいつが本当に幹部かどうかさえ俺には疑問なんだ。そんなもんが俺たちが命張る理由になるか!」

 

「守ってくれなんて言うつもりはない!自分の身位自分で守れる」

 

「そうか…」

 

 ガッ!

 

「うっ!?」

 

 すると久瀬は紘の髪の毛を鷲掴みにすると顔を近づけ言った。

 

「なら守って貰おうか、今ここで」

 

「痛ッ‼︎何を!?」

 

「そんなに駄々こねたいなら良いだろう、ここにいる全員から自分の身を守って見せろ。全員倒せたならお前の願いを聞いてやってもいい、俺としても今ここでお前には寝てもらった方が都合が良いしな。さぁ、どうする?」


久瀬が紘に強いプレッシャーを掛ける、すると隣にいる三女市と車に残る海覇の放つオーラがぐんと強く、重くなってゆく。


「紘くん…」


3人のオーラを感じ取ったのか、真由も心配そうに紘をを静かに見守る。

 

「クッ!……」

 

 久瀬の対応に紘は反論することも出来ず黙るしかなかった。

 しかし、その様子をみていた海覇が、

 

「いいじゃねぇか久瀬、連れてってやれ」

 

「え!?」

 

「……」

 

 海覇の言葉に心無しか表情が緩んだ紘を他所に、久瀬は苦虫を噛み潰したようにあからさまに険悪な表情を浮かべた。

 

「…しかし兄貴、コイツらは仮に客じゃ無くともカタギです。無闇にこんな危険な…」

 

「違うなぁ久瀬、コイツはもうカタギじゃねぇ。己の目的の為に己の身一つで裏社会に飛び込んできた漢だ!俺ぁ気に入ったぜ」

 

「……いやいや兄貴、こっちの命が幾つあっても足りません。ホント勘弁して下さいよ…」

 

 すると久瀬の泣き言を聞いた海覇は、車から降りてくるなりドンッ!と紘の肩を叩いてこう言った。

 

「紘、極道である俺たちの前で命賭けると言ったからには久瀬達もお前を一々守ってはくれねぇ、鉄火場に一歩でも踏み入ったら頼れるのは己の腕っぷしだけだ。そこだけは覚えとけよ?」

 

「あ、…ああ!ありがとう海覇!」

 

「と言う訳だ久瀬、よろしく頼むぜ」

 

「ハァ…」

 

 久瀬は頭を掻きむしりながら気だるそうにため息を吐いた。

 上下関係が厳しいこの世界では親分や兄貴分の言うことは絶対。

 海覇にここまで言われてしまっては久瀬に断る選択肢は無かった。

 

「了解しました、海覇の兄貴」

 ーーーーーーーーーーーーーーー

移動中の車内


 久瀬、三女市、紘、真由の4人を下ろすと、車はそのそのまま走り出した。

 車に残った海覇と胡坐は星名の安否を確認とシマに潜り込んだと思しき抗争相手であるゼパルの調査に向かう。

 

「海覇の兄貴、ちょっといいっすか?」

 

「なんだ?」

 

「なんで真由ちゃんまで降ろしたんすか?」

 

「本人が降りると言ったからだ」

 

「それだけっすか?一応客人扱いでしょ?こっちの方が安全なんじゃないんすか?」

 

「……」

 

「…兄貴?」

 

 車内に沈黙が走る、今居るメンバーで実質1番下っ端である胡坐は現状1番立場が上である海覇と2人きりにされた事もあり、この沈黙は胡坐にとってかなりの重圧となった。

 

(あれ…なんかマズイ事言っちゃったかな…普段温厚で優しいからってフランク過ぎたか…?)

 

 沈黙自体はそんなに長い時間では無かったがガチガチに張り詰めた空気は胡坐にとっては何時間にも感じられた。

 

「あ、あの兄貴!気を悪くしてしまったのなら謝ります!申し訳ございません!」

 

「いや、お前の言う通りだよ、胡坐」

 

「…へ?」

 

 思い出したように言葉を発した海覇に胡坐はキョトンと情けない声がつい出てしまった。

 

「確かに見晴らしのいい外を歩かせるよりここにいた方がまだ安全だよなぁ」

 

「は、はぁ…では何故?」

 

「どうしてだろうな?俺ァ頭悪いから分からねぇや、久瀬がキャバクラに向かえって言った時もアイツ俺じゃなくてお前に指示してたもんなぁ、俺が作戦理解出来ねぇと思ってよ。まぁそりゃ違いねぇぜ!ガハハハハ!!!!」

 

「…………」

 

 海覇の突拍子もない発言に胡坐は遂に言葉を失った。

 

「ガハハハハ!そんな顔するな胡坐、別に俺もアイツらに死んで欲しくて降ろした訳じゃねぇ」

 

「…え?」

 

「確かに俺は久瀬みたいに頭は良くねぇ、今回紘と真由を降ろしたのも何故かと言われればただの勘だ」

 

(そんな理由で危険に晒すなら殺しに降ろしたのも同然なんじゃ…)

 

「だがその時感じた勘ってのはアイツらの危険だとかそう言うのじゃねぇ、俺自身の危険だ」

 

「え?…どう言う事でしょう?」

 

「極道なんて相手のタマを取り合ってなんぼ、そんな危険な世界に長く身を置いてると自分の危機にはなんとなく敏感になるもんだ」

 

「な、なるほど…」

 

「久瀬にキャバクラへ行けと言われた時、なんと言うかこう…背筋が物凄くゾワゾワってしたんだ。親っさんにカチコミを命令された時は決まってこうなる」

 

「えーっと…て事はつまり?」

 

「多分、多分だ…俺達が今から向かう所には危険がある、それも俺の経験上類を見ないようなとてつもない危険が…」

 

「や、やめて下さいよ兄貴…、は、ハンドル握る手が震えて来ました…」

 

「落ち着け、勘って言っただろ。久瀬はそんな事知ってか知らずか分らねぇがあの2人を降ろすことを真っ向から否定しなかった。面倒が増えるから多少渋ってはいたがな。アイツとはもう10年位の付き合いになるから分かるが、あいつが本当に無理だと判断した時は相手がどんなに偉くとも真っ向から意見する。車に居ようが居まいが危険度は少なくともドッコイ位だってアイツも分かってだんだろう」

 

「その、兄貴にこんなこと言うのはあれかも知れませんが…」

 

「なんだ胡坐?改まって」

 

「怖くないんすか?俺みたいな下っ端は命令されたら死地だろうが行くしかありませんが兄貴はその…舎弟に命令して危険を避ける事だって出来ただろうに…」

 

「……」

 

「すみません!すみません!別に兄貴が腰抜けとかそんなつもりは!!!」

 

「分かってるよ、まぁ人間生きる為に生きてんだから死ぬのが怖いのは当然だ。俺だって怖いさ」

 

「!!?」

 

「だがまぁこの裏社会で生きようと決めたなら立場がどうあれ恐怖は一度棚にあげて考えなきゃいかん。それはお前みたいな下っ端だろうが、俺みたいな兄貴分だろうが、会を取り仕切る会長だろうが一緒だ、そうだろ?」

 

「は、はい!その通りです!」

 

「それにな、アイツが考えてるのは何より俺達凶匣会の存続と繁栄、そしてそれを目指して行動して来たあいつは実際誰よりも結果を出して来た。俺はそんな久瀬の言葉を疑った事は一度も無ぇ。アイツが居ればこの戦争にだって勝てる、そう思ってるから舎弟である久瀬の指図でも黙って受けてるのさ、それだけだ」

 

 海覇が話し終え、若干の間をおいて胡坐が声を震るわせながらしんみりと海覇に話しかけた。

 

「兄貴、なんでですかね。震えは止まったんですが、前が見えません…」

 

「ん?」

 

 海覇がふと胡坐の顔を見ると大粒の涙を滝のように流したまま微動だにせずまっすぐ前を向いて運転しているのが見えた。

 

「馬鹿野郎お前!こんなんで泣くな!鉄火場に着く前に死ぬだろうが!」

 

「俺達が行くのは死地じゃ無くてただのキャバクラであって欲しいっすね!」

 

「何言ってやがんだお前は、どれ拭いてやるから黙って前見てろ…」

 

「あ!ちょ、強いっす兄貴、前が!目の前が筋肉で真っ暗に…イテッ!…痛ッテ!ちょっとティッシュが目に入ったっす!!!痛ッタ!!!ちょっと眼球ごと拭くのやめて下さいよ!!?」

 

「おいお前!これ涙止まらねぇじゃねぇかどうなってんだ?」

 

「痛い!!痛いから!!!危なッ!!?ちょっと運転…、痛い…ちょ眼球ごと拭いたら涙止まんないっすよ!…痛い痛いって!!!止めろォ!!生理現象も分からない程バカなのかアンタ!!!」

 

 それでも胡坐の運転技術により、車は安全に蛇行運転(?)をしながら目的地まで走っていった。

 ーーーーーーーーーーーーーーー

 烏下町3丁目住宅街

 

 車を降りた場所から5分程歩くと住宅街に出る。

 この辺りの地域は十数年前に都内の大規模な都市計画の影響で人口が減り、空き家になっている所も少なく無い。

 そんな過疎化が進む閑静な町ではチャキン、チャキン、と拍車の金属音がよく聞こえた。

 

「ちょ…ヒメさん、歩きずらいですよ〜」

 

 下車組の4人はそのアパートに向かって徒歩で歩いていた。

 先頭を久瀬が歩きそのすぐ後ろに紘、その後ろに真由、三女市の順で歩いていたのだが、三女市が後ろから真由に抱き付きながら歩いており、真由は困惑しながら歩きづらそうにしている。

 

「え、へへ、ま、ま、まー…かー、いー、ね!」

 

「え?ご、ごめんなさい、なんて?」

 

「「真由可愛いね」ってさ、良かったな真由」

 

 紘の通訳を聞いた真由は顔を真っ赤にして反論する。

 

「//な!そ、それは嬉しいけど歩きずらいよ〜!//」

 

「エヘヘ、まー、お、お、おは、はだ、き、れーね!」

 

「//も〜、ヒメさんったら〜!//」

 

 そんな2人を気に止めることなくズカズカと先を行く久瀬に紘が。

 

「なぁ久瀬…」

 

 すると久瀬は前を向いたままだったのがスッと紘の方を向くと、死んだ魚の目の奥からギラリと鋭い眼光を向けると小声で話し返した。

 

「うるせぇな無駄話すんじゃねぇよ」

 

「まだほとんど何も言ってないだろ!?なんで後ろの2人は良くてオレはダメなんだよ!?」

 

 すると久瀬が小声で続けた。

 

「あまり大声で余計な話はするな、どこで誰が何を聞いてるか分からねぇ。何しろ俺たちの敵はゼパルだけとは限らねぇんだからな」

 

「………」

 

 紘も久瀬の注意に従って小声で話す。

 

「じゃああの2人は止めなくて良いのかよ、いくらなんでも騒ぎすぎじゃないのか?」

 

「放っとけ、アイツの話は聞かれたところで問題無ぇ。それにヒメもああいう年頃の女の子との関わりは滅多に無いから嬉しいんだろ」


「ヒメと事になると楽観的過ぎじゃないのか?」

 

「るっせぇなぁ、大体今の俺達の現状にしろ目的にしろ、成果のない状態での撤退は避けたい。そもそも俺とヒメの2人ならこんな事しなくていいのにお前等が無理やり付いてくるとか言い出すから俺もヒメも余計な気を張らなきゃいけないんだ」

 

「そんな気張ってないだろ!?つまり何か?この状況はオレのせいだって言いたいのか?」

 

「流石理解が早くて助かる、お前のせいで俺たちはより危険に晒されてるわけだ。事が済んだら真由とヒメに土下座して謝るんだな」

 

「(コイツ…)それにしても久瀬、さっきから誰かに見られてる気がする。気付いてるか?」

 

「さぁな何のことだか?仮にそんなのがいた所で構ってる暇はない。ホラ着いたぞ、ここだ」

 

 「!、ここか…」

 

 目的地に着いた紘達の眼前には、築数十年はあろうかという感じのボロアパートが立っていた。

 二階建で1階3部屋、2階3部屋、合計6部屋あり、門の脇にあるアパートの名前が書かれていたであろう表札は完全にすり減って文字が消えている。

 そのうちの何部屋かは扉が明らかに歪んでおり遠目からでも隙間が見えた。

 さらに窓ガラスにはヒビが入り、テープで補強してある所がいくつもあり、建物脇から植物のツルが建物を覆い始めていた。

 

 しかし門からアパートまでの道はしっかり除草されており、正面から見える壁も綺麗に手入れされており、確実に人が住んでいる痕跡はあった。

 

「今更だが、ここに自分から赴く日が来るとはな…」

 

「さっさと行こうぜ、時間無いんだろ?」

 

「ハァ…そうだな」

 

 4人は門を開けて中に入った、数本進んだところで。

 

「ウッ…」

 

 三女市が突然立ち止まって鼻を摘んだ。

 

「ヒメさん?どうしたんですか?」

 

「うー…」

 

 三女市は鼻を摘んだまま顔を歪めて唸っている。

 

「何か匂いますか?すんすん…私は何も感じませんけど…」

 

 真由は周囲の匂いを嗅ぎながら辺りを見回すが何も無い。

 

 久瀬は顔色ひとつ変えずにポケットに手を入れて佇んでいる。

 そして一階の1番右の部屋をジッと見つめると。

 

「…これは、かなりヤバいかもな」

 

「久瀬、オレも何も感じないけど何かあるのか?」

 

 久瀬は三人の方に振り返ると。

 

「独特の匂いがする、多分違法ドラッグの類だ。真由、お前は外でヒメと一緒に待ってろ」

 

「え?は、はい」

 

「!、ウ、ウズゲ…」

 

 三女市が鼻を摘んだまま久瀬に声をかけると右脇の花壇を指差した。

 

 見ると花壇にはすっかり枯れてしまった花が数本植えてあり所々に雑草も生え始めていた。

 

「!?」

 

 今まで冷静を貫いていた久瀬の表情が少し険しくなった。

 すると久瀬は即座に刀袋の紐を解き、アパートに向かって歩き出した。

 

「紘、お前は俺と来い」

 

「え?、ああ…」

 

「ひー、ま、ま、って?」

 

 すると三女市が紘に声をかけた。

 

「?」

 

 すると彼女はリュックサックから結束バンドの束を取り出すと紘の手に持たせた。

 

「き…き、き、を、を、付け…て」

 

「?、ああ(何でこんなものを?)…」

 

「紘、早く来い」

 

 紘は疑問に思つつ、久瀬に急かされて聞き返すことも出来ず言われた通り久瀬の元に駆け寄って行った。

 

「オレはここの空気吸ってもいいのか?」

 

「ダメだ、だが俺たちはお前と真由から目を離すわけにも行かないしこっちには人手も必要だ、だからお前は勝手に付いて来た罰ゲームだと思って付いて来い」

 

(罰ゲームで違法薬物が充満してる場所に連れてかれるのか…、流石本職のヤクザはやる事が違うな…)

 

 久瀬に煽り散らかさせるも紘自身、面倒を起こした手前文句も言えず久瀬に付いてアパートの表面から見て右下の階にやって来た。

 

「ここが星名の部屋か?」

 

「いいや、大家の部屋だ」

 

「星名が優先だろ?そっち先に行かないのか?」

 

「それもそうだが今はこっちが先だ」

 

「なんでだ?星名目的で来たのに星名より大家の方が重要って…」

 

「ここの大家は若い女性だがしっかりした人でな、綺麗好きで自分でどうにか出来る範囲は綺麗になって無いと気が済まない人なんだ」

 

「…その情報重要なのか?」

 

「重要だ、彼女は園芸が趣味でそこの花壇にはいつも綺麗な花が咲いてるんだ。秋もまだ見えないのにあの人が花を枯らすなんてあり得ない。それに何より薬物に手をつける人じゃない、嫌な予感がする」

 

 久瀬は部屋のインターホンを押した。

 

「紘、扉の正面に立つな、右脇に居るんだ」

 

 久瀬は紘を扉の右側に紘を立たせた、右開きの扉を開くと開いた時にドアが紘を隠す為だ。

 するとまもなく奥からミシッミシッとこちらに歩いてくる足音が聞こえてくると扉前でピタッと止まった。

 

(足音が男っぽいな、体格も良さそうだが…)

 

 足音から中にいる人物を予測する久瀬は覗き窓から見て怪しまれないよう動かずジッと扉前に佇みながら中の足音に意識を集中させる。

 扉前の足音が止まってしばらくシーンと静寂が流れる。

 おそらく覗き窓を除いていると思われる。

 

(…中々開けないな、いつもならオレの姿が見えたらすぐに開けてくれるはずなのに…)

 

 インターホンを鳴らしてから30秒程経ったが音沙汰が無く、もう一度インターホンを押そうと手を伸ばしたその時。

 

 タッ、タッ、タッ

 

 今度は小刻みな足音が聞こえて来た。

 

(今度は女性のものっぽいな、歩幅的にも彼女の物だとは思うが…いつもより足取りがかなり重い)

 

 ギィ…

 

 すると玄関の扉が開いたその瞬間、部屋の中からブワッとむせかえる様なドラッグの甘ったるい匂いが久瀬達を包んだ。

 

「ッ!!?」

 

 近くにいた紘も流石にドラッグの香りに少し顔を歪めた。

 

(なんだこれ甘っま…ヒメ達が言ってた独特の匂いってこれか?臭いとかそういうわけじゃ無いけどなんかすげぇ嫌な匂いだな…)

 

 女性がそっと覗き込む様に出て来た。

 扉にはチェーンがかかっており開ききらない様にしている。

 

浅見あさみさん、久瀬です。ご無沙汰してます」

 

 浅見と呼ばれた女性は弱々しく掠れた声で応える。

 

「く、久瀬、君?…久しぶりだね…、いつもは舎弟さんが来てるのに…珍しいね?」

 

「ええ、久しぶりに浅見さんのお顔が見れてよかったです。突然お伺いしてしまいすみません。実は上の階の星名の様子を見に来たんです、彼女は上に?」

 

「……ええっと、この…は…お仕事のはずだけど…」

 

「……」

 

 久瀬はさっきまでとは別人の様に明るく礼儀正しく振る舞う、その裏でこのアパートと大家である浅見をジッと観察していた。

 部屋の中は暗くよく見えなかったが、それでも見る限り彼女は久瀬が知っている彼女では無い事は明らかだった。

 

(かなり痩せたな、げっそりして顔色も悪い。目にクマもできてる。それに目が異常に冴えて視点も安定して無い。呼吸も浅くて呂律も回っていない、薬物中毒…それもまぁまぁ重いな)

 

「実はその…、今ウチの会で少々トラブルが起きてまして星名の部屋を少し調べてたいんです。本人の許可は取ってますので鍵を貸してもらえませんか?勿論浅見さんも同伴で構いませんので」

 

「え、えっと…その…」

 

 すると、

 

「ヒッ!!?」

 

 浅見は突然ビクッとなると、震え上がって怯え始めた。

 

「うっ…ああ…!」

 

「浅見さん?」

 

 すると浅見は扉から顔を引っ込めると、

 

「か、鍵…取ってくるから…すぐ来るから…」

 

 浅見は玄関の扉を閉めて部屋の奥へ歩いて行った。

 それを見た久瀬は持っていた刀袋から日本刀を取り出し、刀袋を紘に投げた。

 

「ちょっとこれ持ってろ」

 

「え!?なんだこれ?」

 

 すると間もなく足音が戻って来た。

 

「紘、俺が玄関に入ったらすぐ扉閉めろ、扉の真ん前には絶対に立つなよ?」

 

「何する気だ久瀬?」

 

 久瀬は小声で紘にそう言うと、扉から一歩引き、体を横に向けて扉の左側に立つとそのまま刀を抜刀する事無く逆手で上段に構えた。

 

 ガチャ、ギィ…

 

 ドアチェーンが外れる音が聞こえ、玄関扉が開いた。

 その瞬間の僅かな隙間に向かって納刀状態の刀の鐺で全力の打突をお見舞いした。

 

 ガッ!!!

 

 パンッ!!!

 

 久瀬の打突が命中したであろう鈍い音と、同時に中から少しこもった様な発砲音鳴り響いた。

 

「!?」

 

 部屋の中にいる誰かが銃を発砲したようだ。

 ドアの隙間から放たれた銃弾は久瀬の上腕をかすめた。

 

(な、なんだ!?…銃!?)

 

「紘、入るぞ」

 

「え!?ちょ…」

 

 久瀬は紘に声をかけると勢いよく扉を開け、猛獣を思わせるような勢いで部屋の中に突入して行った。

 紘は久瀬に言われた通り急いで扉を閉めると数歩下がって距離を取った。

  

 ガッ!ドスッ!!!

 

「グフッ!!!」

 

 ドッ!ガッ!!

 

「な、なんだおま…グハァ!!」

 

「う、うわー!!グヘェ!!!」

 

「や、やめ…ギャァァ!!!」

 

 部屋の奥で男達の悲鳴と得物を叩きつける様な鈍い音が響き渡っているのが聞こえた。

 

「……」

 

 程なくして久瀬が戻って来た。

 

「紘、もういいぞ」

 

「お、終わったのか?」

 

 紘は言われた通り恐る恐る扉を開けるとそこに居た久瀬の左腕の銃弾の擦り傷から出血していた。

 

「だ、大丈夫か久瀬?」

 

「紘、俺が中に入ってる間誰か来たか?」

 

「?、いや誰も来てない」

 

「お前も中に来い、鍵閉めとけよ」

 

 久瀬はぶっきらぼうにそう言うと玄関で倒した男が落とした拳銃を拾い、その男の襟を掴むとそのまま部屋の奥へ引きずって行った。

 紘は久瀬に言われた通り、玄関の扉の鍵をガチャっと閉めた。

 

 その後紘は久瀬の後を追って部屋の奥まで入って行った。

 アパートの間取りは玄関を過ぎると廊下になっており、両サイドにはトイレや風呂などの設備があり1番奥にリビングがあるというスタンダードなワンルームの部屋だ。

 奥の部屋は電気はついていたがカーテンを閉め切っているせいか薄暗く、ドラッグの煙で白モヤが出ており、更に強いドラッグの甘ったるい香りが鼻を刺した。

 

「ウッ、ここまで来ると流石にキツいな…」

 

 紘は袖で口と鼻を押さえながら部屋を見まわした。

 中には弱った呻き声を上げる3人の男が倒れており、部屋の端には先程の浅見と呼ばれた女性が怯えてうずくまっていた。

 久瀬は刀で飛び込んで行ったが、男達は斬られてい様子は無く、首や腕など見えている肌からは所々アザが見えた。

 

「久瀬、腕は大丈夫なよかよ」

 

「余計な心配すんな、擦り傷くらい平気だ」

 

「そっか……ん?」

 

 すると紘は浅見の足に何か付いている事に気がついた。

 

「手芸用の糸だ、コイツを足に結んでここから合図を送ってた様だな」

 

「なるほど…」

 

 紘の視線ははそのまま倒れてる男達に向いた。

 

「……コイツらがゼパルか、さっさと記更の情報吐かせて警察に突き出そうぜ」

 

「いやコイツらはゼパルじゃない、多分な…」

 

「は!?そうなのか!?」

 

「コイツらはゼパルに飼われてるだけの半グレか何かだろ、どうせ末端のコイツらにゼパル本体の情報なんか出て来やしない。それにオレが今聞きたいのはそっちじゃないしな」

 

「何だよ」

 

「そんな事より紘、お前ヒメから結束バンド貰ってるだろ?」

 

「え?ああ、確かに部屋に入る前に貰ったけど、これ何に使うんだ?」

 

「コイツ等の両手を後ろに回して両手両足の親指同士をくっつけてバンドで縛れ、その後所持品を全部取り上げてテーブルの上に置いとけ。武器っぽい物も全部だ」

 

「武器っぽいものって何?」

 

「ピアスとか指輪みたいなアクセサリー全般はまず外せ、あとベルトみたいな金属パーツが付いてる衣服も念の為外しとけ。それと噛まれると危ないからピアス取るときは気を付けろ、手間取りそうなら肉ごと引きちぎって構わない」

 

「高校生に何させる気なんだお前…、こんだけボコボコにしたんだからちょっとぐらい…」

 

「何を今更、当然だろうが。何かあってからでは困る。お前にも、オレにもだ」

 

「……分かったよ」

 

 毎度の如く上手いこと言いくるめられた紘は渋々と作業に取り掛かった。

 2人は手を動かしながらも紘は久瀬に話しかける。

 

「それにしてもこの部屋、煙たくて甘ったるい感じで頭痛くなるな、薬物中毒者の部屋ってみんなこんな感じなのか?」

 

「物にもよるだろうが経験上個人で使ってる分にはここまでになる事は殆ど無い。あるとすればここがヤク中達の溜まり場になっていたとかだろうな…林の奴、何かあったらすぐ知らせろって言ってたのにこの様か、次アイツの面見たら殺そ」

 

 この状況を作った男の「殺す」は何と言うか重みが違った。

 

「た、溜まり場って…?」

 

「今は憶測なんかどうでもいい、何にせよコイツ等に聞けばハッキリする」

 

「忘れてたけど星名の部屋はどうするんだ?」

 

「ヒメに行かせたい所だが真由が居ちゃぁな…、お前がコイツら縛り終えたら俺が見に行ってみる。とにかく今は手に入る物で状況を打破していくしかない、時間も無いしな」

 

「まぁコイツ等が素直に吐いてくれると良いんだけどな」

 

「吐かせるさ、さもなきゃ死ぬだけだ」

 

 そう言うと久瀬は一通り適当に部屋の中を物色すると、浅見の介抱を始めた。

 

「浅見さん、大丈夫ですか?」

 

「あ…あぁ…」

 

 玄関で見た時は暗くて分からなかったが、浅見の顔は痩せこけて怯えきった表情を浮かべて震えている。

 

「浅見さん、ここにいた男達は黙らせました。もう大丈夫です、安心してください」

 

「……く、久瀬…くん……?」

 

 浅見は顔を上げ、久瀬の顔を見た。

 

「浅見さん、良かったら何があったか話してくれませんか?この男達は一体誰なんですか?」

 

「久、瀬…君…」

 

 浅見は弱々しく久瀬に向かって両手を伸ばした。

 

「浅見さん?」

 

 久瀬は優しくその手を掴んだ、すると。

 

「久瀬君!助けて!!」

 

 浅見は体を起こして膝立ちの状態になると久瀬に持たれたかかり、そして彼のの服を掴んで懇願した。

 

「久瀬…君!ピース…、ピースを…ちょうだい!?」

 

「ピース?なんですかそれ?」

 

「ハァ…ハァ…おく…す、り…」

 

「………」

 

 久瀬は変わり果てた浅見の姿に言葉を失ったのか、少しの間静かに浅見の顔を見つめた。

 

「気持ち悪い…体の中で虫が這い回ってるの!頭が痛い!死んじゃう!!」

 

「…分かりました、ちょっと待ってて下さい」

 

 久瀬はそういうと、浅見の手を解いてその場に座らせた。

 久瀬はそのまま浅見に背を向けテーブルを見ると、紘が男達から取り上げた押収品がずらりと並んでいた。

 

「流石にまだ終わってないか、だがまぁ案外早ぇな筋は悪くない」

 

「褒めてるのかそれ、て言うか褒められても嬉しくねぇよ」

 

 紘は2人の男は縛り終え、3人目の玄関で久瀬が気絶させた男に取り掛かる所だった。

 久瀬はテーブルに並べられている押収品をサッと眺めると早速気になるものが目についた。

 

「ん?」

 

 久瀬は長くて細く、端っこには小さな皿のようなものが付いていおり、反対側は吸い口になっている金属製のパイプを手に取った。

 

煙管キセルか…?コイツはまたレトロな…これは?」

 

 さらにテーブルには厳重にラップに包まれた如何にも怪しい物体も置かれていた。

 手に取ってみると「Peace」とマジックで書かれていた。

 

「ピース、これか。麻薬の名前に「平和」とは皮肉な、結果的に使ってる自分達が1番平和じゃ無いのが輪をかけて面白いな」

 

 ラップを取ってみると、黒褐色の物体が練り込まれた塊が出てきた。 

 久瀬はナイフを取り出すと塊をほんの少しだけ削ってペロっと舐めてすぐさまペッと吐き出した。

 

「アヘン系の薬物か?」

 

「それどうやって使うんだ?そのまま砕いて飲むとか?粉薬みたいに」

 

「コイツ等の持ち物に小さい皿みたいなのが付いた長細いパイプがあっただろ?そこにコイツを入れて皿の底から火で炙って出た煙を吸うのさ。ただコイツはかなり改良された新型みたいだがな」

 

 久瀬は解説しながら一緒になっていた薬包紙を取り出してテーブルに広げた。

 

「ヤクザ相手にこんなこと言うのも何だけどやっぱ詳しいんだな、もしかして使ったことあるとか?」

 

「使った事はない、使わされた事はあるが」

 

 久瀬は話しながら手に持っているピースをナイフでカリカリッと削り、薬包紙の上に削った粉を落として採取し始めた。

  

「まぁそうだよな〜、流石にそんな……………………え?」

 

「あれは忘れもしない、昔路木の兄貴が当時ウチのシマを荒らしてた密売人から押収したヤクというヤクを面白半分でその時あったやつを全部体にぶち込まれた事があったよ」

 

「ちょっと待ってくれ、冗談で聞いただけなのにとんでもない話が…」

 

「壮絶に苦しかったし本当に死ぬかと思ったがお陰でヤクに耐性が出来たからまぁ結果オーライだったよ。だから紘、お前も頑張れよ」

 

 久瀬は採取した破片をキセルの火皿に詰めると、立ち上がって紘を見下ろした。

 

「それで死ななかったのはお前が異常体質だっただけだろ、薬物耐性なんかそんな簡単に出来るもんじゃ…………ちょっと待って!?もしかしてオレ今から死の淵に立たされようとしてる!?そのパイプをどうするつもりだお前!?」

 

「……冗談だ、ここでグロッキーになられても困るからな」

 

「その「状況が状況ならやってた」みたいな言い方が余計冗談に聞こえない…」

 

 久瀬はそのままパイプを持って浅見の元に歩み寄って行った。

 

「浅見さん、ピースってこれですよね?」

 

「…!!、そ、それ…!!」

 

 浅見がキセルに手を伸ばした瞬間、久瀬はサッと浅見の手からキセルを遠ざけた。

 

「な、何で……?」

 

 目の前に餌をちらつかせられた浅見は面食らった様に久瀬に問いかける。

 そんな浅見を久瀬は真顔で見下す様な顔で浅見を睨んだ。

 久瀬は冷静に言った。

 

「浅見さん、これが欲しかったら何があったか教えて下さい。知っている限り細かく詳細に」

 

「お願い!もう苦しくて耐えられないの!!お話なら後で…」

 

「申し訳ないですがこっちも時間がありません。約束は守りますし暴力も振るわないし金も取りませんのでどうか教えてください」

 

 浅見はゆっくり力が抜けた様にヘタっと床に腰を落とした。

 そしてゆっくりと顔を見上げて、真っ直ぐにこちらをジッと見つめる久瀬の目を見た。

 

「……わ、分かった…」

 

 と、浅見は観念したかの様にそう答えた。

 

「教えて下さい、浅見さんの身に一体何が?」

 

「実は………」

 

 浅見はゆっくりと真実を語り始めた。

z「皆さんこんにちは改めましてzろuです!」


?「〇〇です」


z「序、改め序章第二話如何でしたか?今回は前回と違って現代世界が舞台となり…」


?「そんなことはどうでも良いんでちょっと聞いても良いですか?」


z「なんだい〇〇?」


?「前回から気になってたんですが何で私の名前だけ伏せ字なんですか?」


z「だってこれから本編に出てくるキャラをこんな所で出すわけ行かないじゃん」


?「じゃ何で出したんです?」


z「そりゃお前1人じゃ寂しいからでしょ?オープニングは1人だからエンディングトークくらい賑やかにやりたいじゃん」


?「ただでさえ本編長いのにこんなところでだらだら茶番やってもしょうがないじゃないですか、出すにしても名前も出せない様な奴出して何になるんですか?「これ面白いと思ってる?」とか悪口書かれて終わりですよ?」


z「どうせ誰が見るかも人気出るかも分からない作品書いてるんだし、どうせならこの小説家になろうでしか出来ない事をやろうと思ってね。それで面白く無いと言われたらそれまでの事。これがいつまで続くかも分からないけど面白いと思った事はできるだけやりたいからね」


?「ハァ…まぁ何でも良いですけど、どうせ出るなら名前くらい出したいんですけど私の出番いつなんですか?」


z「心配するな、〇〇の出番はもうすぐ来るよ!」


?「なるほど!じゃあ次回期待してますね!」


z「次回もあなたは出ません」


?「ふざけんな」


z「そんなわけで皆さんまた次回のお話でお会い致しましょう!次回はもっと早く上がる筈です…」


z.?「さようなら〜」


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