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第二話「ムルジャーナお姉ちゃん」

ラハマーンは本によってはアリ・ババの兄カシムの息子で養子。青い鳥文庫版だと本文で「スマートでハンサム」と言われているアリの実子で、父に似てイケメン。ムルジャーナにとっては好ましい設定でしょうね。

 知らないうちに盗賊の仲間にさせられた少女ラティーファ。ある日、彼女の前におかしらの弟分ジャザリが現れ、お頭が死んだことを知らされます。そして、むりやり敵討かたきうちに協力させられることに……。彼女はどうなってしまうのでしょうか?


 ━━━━━


「この都に来るのは一年ぶりだ。少し大きくなった気もするが、相変わらず賑やかだなぁ。ラティーファ、お前さんは初めてだったか」

「う、うん」

「これだけ栄えているなら、どこも人手不足のはずだ。そしてお前さんは兄貴から勉強を教わってるから、たいていの店で雇ってもらえるだろう。あとは分かるな?」

 あたしはコクリとうなずいた。


「アリ・ババにはラハマーンって息子がいる。その店に。そこがムリなら、なるべくそこと関わりがある店にもぐりこむ」

「そうだ。そしてチャンスをうかがうんだ。その時がきたら、俺たちを引きこむ。あとは俺たちにまかせておけばいい」

 どうやらあたしはチャンバラ要員には入っていないらしい。


「ただ、もしラハマーンの店に入れたら、まずはまわりから信用されるように真面目に働くことだ。金貨や宝石のありかを探るためにな。だってそうだろう? もとは兄貴が集めたお宝なんだ、奪われっぱなしじゃ盗賊の名がすたる。なんにせよ、うまくやるんだぜ」


 あたしは言われるままになるしかなかった。十三歳の女の子ひとりで、三十人もの大人の男、それも刀を持った相手になにができるのさ……


 親分は、ここでもあたしの身内のふりをして、お店にあたしを雇うよう売りこんだ。

 アッラーの神さまの教えでは、豊かな人はお金を惜しまず寄付したり、困ってる人の面倒を見たりすれば、死んだあと天国に行けるって言われてる。これは「喜捨きしゃ」と言って、お頭から教わった話によると、ブッダとかいう別の神さまを信じる遠い国にも、同じ文化があるそうだ。


 そして運がいいのか悪いのか、あたしは親分の狙いどおり、アリ・ババの息子ラハマーンの店に、住み込みの使用人として雇われることになった。


「あなたがラティーファね。はじめまして、私がこの店の主の妻、になる予定のムルジャーナよ。はじめてのことで不安でしょうけど、みんないい人だから大丈夫。それに、私だって少し前まではお料理係の使用人だったのに、なんとかやっていられるんだもの」

 キレイで優しそうなお姉さん。歳はあたしより三つか四つくらい上かな?


「だから、あなたにだってきっとできるわ。でもまだ慣れないこともあるでしょうから、困ったことがあったら遠慮なく言ってね」


 これが、あたしとムルジャーナお姉ちゃんとの出会いだった。


 ━━━━━


 ラティーファは真面目に働きました。ジャザリの親分に逆らったら命がないからなのはもちろんですが、ムルジャーナをはじめ、店の人たちはみんな親切にしてくれたからでもありました。


 お店で扱うのは、遠い外国の珍しい品々でした。主にシルクロード(絹の道)というルートで運ばれてくる、今の中国で作られる絹織物や陶磁器です。


 何もかもが、見たこともないものでした。真っ白な絹、色とりどりの宝石、きれいな絵が描かれた壺やお皿、ふかふかの絨毯じゅうたん。珍しさに瞳をキラキラさせるラティーファに、ムルジャーナは親切丁寧に、ひとつひとつの品物について教えてくれました。


「お客さまから何か尋ねられたとき、すぐに答えるためもあるけど、あなたがあんまり嬉しそうなのが面白くてね」

 そういってムルジャーナはほほ笑むのです。二人が本当の姉妹のように仲よくなるのに、そしてラティーファがお店の人たちに信用されるのに、そう時間はかかりませんでした。


 でもそれは、ジャザリの親分が襲撃にくる日が近づくことを意味します。ラティーファは、殺されるのが怖いという気持ちと、ムルジャーナたちに申しわけないという気持ちの板ばさみのまま、毎日をすごします。


 ━━━━━


 働きはじめてしばらく経ったころ、あたしは急に旦那さまに呼ばれた。なんでも王さまの使いがきていっぱい買いものをしたから、支払いの金貨を運ぶのを手伝ってほしいらしい。


 よっこらせ。あたしは重い袋に入った金貨を抱えて、おっきな倉庫がいくつもある場所に連れてこられた。そういや倉庫は何ヵ所かに分けられているけど、中には取り扱いが危険なものもあるらしく、素人は立ち入り禁止になっているところもあるんだよね。


 それはそれとして、ゴマの看板がかけられた倉庫の扉が開いたとき、あたしは息をのんだ。


 中には、山のような財宝が! 金貨や宝石、アクセサリーに絨毯。目もくらむとはこのことか。ジャザリの親分に、どこにあるか探るよう言いつけられたお宝の場所、それが今わかったのだ!


(親分には、お休みの日に市場で会って、お店の様子を報告するよう言われてる。もしこのことを話したら、当然近いうちに盗みに入るよね。親分は皆殺しだって言ってた。ムルジャーナお姉ちゃんが殺されちゃう!)


 間の悪いことに、次のお休みは明日だ。


(どうしよう? いっそ黙っていようか……。ムリだ、隠し通すなんて。あの人の目はごまかせない……。もし裏切ったら、あたしが殺される!)


 あたし、どうしたらいいんだろう?

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