第99話【 誤算が生む悲劇 】
<ゴフォゴフオオォ━━━━━━ウゥ>
草原へと出てきた炎の塊は、強い光に包まれていて、実際の姿が確認出来ない。
その光を中心に、渦を巻く様に熱風が吹き荒れて、濃度の濃い魔力の大気を引き裂いていく。
エル達のいる草原は、その熱風で至る所から炎が立ち上がっていた。
アルガロスもカルディアも、防御魔法を展開しているがその顔には苦痛の色が……。
「駄目だエル。俺とカルディアにはこの熱風は耐えられない……」
その言葉を聞いたエルは、チラッと頭の上を見た。
「モサミ」
【 トイコス 】
モサミスケールがすぐさま霊力の防御魔法を展開する。
「さ、サンキュウ! モサミ…」
アルガロスもカルディアも、熱風から回避する事は出来たが、身震いする程の強烈な威圧は続いている。
そんな緊迫した状況だったが、何故かエルの表情からふと緊張感が消えていった。
「……モサミ、この感じは…」
【 あぁ……奴じゃな。しかし何で…… 】
エルがアルガロス達の前に一歩出る。
エル達へと真っすぐ近づいてくる大きな強い光が徐々に弱まり、炎により吹き荒れる熱風も収まって来た時……。
<ゴフォーウゥ………>
炎の中から、<ヌオッッッ>と強烈な威圧を放つ異形の顔が出て来た。
その恐怖を伴う威圧から逃れようと、アルガロス、カルディアの身体は、防衛本能によりジリジリ後ろへ下がる。
エルは両手を広げ、魔力を極限まで下げて敵意がない事を示す。
そして……。
「スルト!!」
「ぇえっ!? スルト!!!??」
アルガロスとカルディアが驚いている。
エルから聞いていたあの話…。
エルの小さな霊力に気付き、世界樹へと引き渡した張本人。
【 やはり…… 】
ズシリと重い口調でスルトがそう言葉を漏らした瞬間……。
<バシュンッ>
恐怖と威圧を伴う山の様な大きな身体から、とても小さな黒い塊に瞬時に変化した。
それを見たアルガロスとカルディアはびっくりしてまた後退りする。
そしてスルトは可愛らしい声で……。
【 おろ!? おろろ!?? 見ただろ! エルだろ!? 】
【 何だろ? 驚くのか? 来たんだろ! 】
と……、相変わらず意味が分かりにくい話し方をしている。
エルは相変わらずだなと思いつつ、スルトの話し方に苦笑いしながら眉を下げていた。
「久しぶりだねスルト。でも何でココに? 」
スルトはエルの回りを<ビュンビュン>飛び回りながら目を丸くしている。
【 感じたのか? あるだろ、魔力か! 強いのか? 】
「強い魔力を感じたから来たって事かな? 」
【 ヘンテコだろ! 無い魔力か? 地域だろ! 見に行くのか! 】
「ん? ヘンテコな無い魔力?? その地域を見に行くって??? 」
訳し理解するのも一苦労な話し方に、悪戦苦闘するエル……。
もちろんモサミスケール、アルガロスとカルディアは、目が点だ……。
しかし、何かを思いついたのか、エルの表情が徐々に明るくなっていく。
「スルト!! ゲート創れるよね! 」
「世界樹のシルのとこまで繋がるゲート創ってよ!! 」
<ドスーン…>
スルトはまた大きな身体、輝く炎の塊に戻りアルガロスの前に一歩近付いた。
そして、野太い声で睨みながら……。
【 この、罪深き人間の為か!? 】
モサミスケールの防御魔法は続いているが、やはりこれだけ近いとスルトの熱が伝わって来る。
アルガロスは逃げずに耐えているが、その熱に顔を歪めていた。
【 無へと遷移した魔の力…… 】
【 ……悪魔の残像…… 】
【 古の刻印……… 】
<ドスーン…ドスーン…ドスーン…>
スルトはそう言いながら、アルガロスの回りをゆっくり歩いていく。
「わ、分かるのか? スルト!? そうなんだ、悪魔に刻印され…… 」
とエルが話してる途中…、突然スルトの腕が高く上がった。
<ブワッ>
アルガロスめがけて勢いよく振り下ろされるスルトの腕は、強烈な威圧をまとい輝く炎に包まれていた。
<ゴオウッ>
「えっ?」
自分を世界樹迄導いてくれた精霊であるスルト。
そう安心しきっていたエルの目の前で、無情にも振り下ろされるスルトの腕………。
<ドゴ━━━━━━━━━━ンッッッ>
大きな地響きとともに、炎と土煙がタナトス渓谷の草原に飛び散った……。
その勢いでエル、モサミスケール、カルディアは炎とともに吹き飛ばされる。
動けなかったエル……。
飛ばされながらも大勢を整え、振り返り、大きく目を見開く。
ただ……、ただ………………………、スルトの背中を弱々しく呆然と見つめていた………。