第96話【 神の頂き 】
「元々1つだったんじゃないの?」
【 ぉお? 】
カルディアの小さな疑問が、何千年と知識を培ってきたモサミスケールの頭を揺さぶる。
「祝福の事なんだけど、神という存在から人間は魔力のスキル、精霊は霊力のスキルを授かるんでしょ!? 出どころ1つじゃん!!」
【 んおっ!!!? 】
「ちょっと違うかもだけど、アルガロスと私の魔力を結合しようとした事があったのよ。最初は対抗、抵抗しあってぶつかり合うだけだったわ。膨張して爆発しかけたもん。でも、魔法式を改良したら、新たな魔力として生成出来たのよ!」
【 なにっ? 】
揺さぶられた頭に吹く鋭い風。今迄には無い独創的な内容に驚きを隠せないモサミスケール。
人間同士、別人格の魔力を1つに生成するなんて有り得ないからだ。
「神様も過去に色んな事があって、その解決策ってのかな? 力が大きくなり過ぎるからわざわざ ” 2つに分けた ” んじゃないの?」
「分けただけじゃあ心配だから、一緒になった時、打ち消し合って ” 無 “ に遷移する様にわざと操作したんじゃないの? 呪いの刻印みたいに」
【 んおおっっ!!!? 】
今迄試行錯誤してきた魔法の方程式。それがある程度理解出来たからこその疑問が、モサミスケールの頭を揺さぶっていく。
「もしもの話だよ!? 今までにも魔力と霊力の両方を持つ人間や精霊が産まれてたと仮定するじゃない? そうなると、操作した呪いの刻印が発動して打ち消し合い ” 無 “ になる。だから発見出来ずに、今迄は存在していなかったって事になってんじゃない?」
「人間の場合、霊力が小さくて無にならなくても、身体は弱って行くんでしょ。原因不明の病気として亡くなってる可能性だってあるわ!」
「エルの場合、今迄は例外なく打ち消し合ってた所に、さっきモサミが言ってた、歪みや摂理? それが偶然出ちゃったとしたら?」
【 んおおおっっっ!!!? 可能性は……、捨てきれんぞ…… 】
カルディアの止まらない思慮が、湧き出る様に溢れてくる。エルの力になりたい一心で、頭をフル回転しているのだ。
「魔力と霊力を持つエルが産まれた。歪みの摂理により、打ち消しされなかった。だからスルト? っていう精霊が霊力に勘づいた。」
「そして、白く輝く鍵にはルシファーと書かれていたって事は、もしかしたら力を2つに分ける前の ” 個 “ が降りてきたんじゃない? だから神様が強引に今の形式に合わせて黒と白に分けた」
「どう? 名探偵でしょ!!」
漠然とした仮定だが筋の通った疑問と仮説に、モサミスケールの頭もフル回転していた。
【 ……2つに分ける前の個……。神の遣い、力として紫色に輝けないから……魔力と霊力として同時に出したって事か…… 】
「紫色!??」
今度はアルガロスが何か思い当たるふしがあるのか、” 紫色 “ と言う言葉が頭に引っ掛かったみたいだ。
「そうか! だからあの時、エルの中に違う光を見たのか! 黒い光と白い光が飛び交う中に、紫色に輝く塊を!!」
【 な、なんじゃと!?? 】
アルガロスの言葉に驚くモサミスケール。神の頂きの色、紫色の光を見たと言う信じ難い発言に、心が激しく揺れ動く。
「ハッキリとは分からないけど、グスタムの屋敷で俺がエルの触手に貫かれる寸前、黒い光を遮って紫色に輝く塊が俺に逃げろって伝えに来た様に感じたんだ。あれは……、エルじゃなかった様に思えるんだよな……」
【 なっ…なにっ!!!? 個が……熾天使としての “ ルシフェル ” が宿ってると言う事か!?……… 】
「熾天使? ルシフェル?」
エル、アルガロス、カルディアは、また少し違う呼び方や名前が出て来たので、頭が混乱している。
【 本来の解釈は、白い光、精霊の霊力や神の力である紫色の力を持つのは ” 熾天使ルシフェル “ 。魔力を持つのは “ 堕天使ルシファー ” 。どちらも存在してた時期が違うだけで同一人物じゃ 】
【 こんな事は有り得んが……、歪みの摂理で個である
” 熾天使ルシフェル “ が祝福されてしまった。しかし、人間は神や天使には成れない。だから形式上……強引に1つの熾天使ルシファーの鍵として出た……】
【 強引に2つに分けてしまったが故、同時に立場の違う熾天使、堕天使の2つを宿す形となった……。その大元は神の力……… 】
【 これこそ歪みの摂理じゃ…… 】
仮説だが歪みの摂理をも圧倒する現象に、モサミスケールは神の頂きに触れる罪悪感を感じ、顔を強張らせている。
【 魔力を使う時は黒い光。霊力を使う時は白い光。そのベースとなる本来の力は……神気と唱われる紫色。歪みの摂理が……、本質を見えなくして複雑に絡み合っているのかもしれない……… 】
「あっ!」
モサミスケールのある言葉に、またアルガロスが何かを思い出している様だ。
「もしかして、エルの体調が悪くなるのは、“ 無 ” に起因してるんじゃなくて、人間の身体で膨大な神の力、紫色の塊をコントロール出来ないからなんじゃないのか?」
「だとしたら、エルは ” 無 “ になる事は無いかもしれないぜ!」
「えっ!?」
その言葉にエルは生き残る事が出来るかもしれない、小さくくすんだ光を見つけた様に思えた。
「ただ……その代わりに、紫色の塊がエルの身体を痛めつけているのかも……器が小さ過ぎると……」
「グスタム家でのあの時……」
アルガロスはエルの身体の一部が黒くくすみ、消えていった事を思い出していた。
「エルの身体が “ 無 ” になっていったんじゃなくて、余りにも強すぎる魔力が出てしまったから俺達と同じ様に侵食しただけなのかも……。」
アルガロスのその言葉に、カルディアもまた感化されて言葉が溢れてくる。
「モサミ、 “ 無 ” って多分だけど再生出来ないんじゃない? “ 無 ” なんだから。エルの場合、侵食だからみんなと同じ様に再生出来たのかもよ!?」
ハッとするモサミスケール。
確かに ” 無 “ とはこの世に存在していなかった事になる事。存在が無い物は再生しようがないのだ……。
モサミスケールは古い記憶を思い出していた。精霊達は皆……、” 無 “ は再生出来ない事を知っていると……。
アルガロスがニタッと笑う。
「それを確かめるなら、魔物の一部を “ 無 ” にして、カルディアが再生の魔法を掛けてみれば分かるんじゃね?」