第77話【 悶える衛兵 】
「呪いの刻印!??」
ルイス司祭はその言葉に戸惑っている。
驚く事無く、難しい表情をしているだけ……。
カルディアは自身の魔力をルイス司祭の腕に循環させ、その状態を読み取っていく。
「この呪い…、典型的な呪い式にプラスして、複雑な発動条件と連動した幾重ものデバフ効果……」
「それが……、この腕に埋め込まれています。早く解呪しないと!」
状態を分析するカルディアを見て、驚きを隠せないルイス司祭。
「そ……、そんな物が!?……。ゴホッ…クラスAでも分からなかったのに……。き、君はクラスEじゃなかったのか?」
その言葉に、真面目なカルディアの表情は曇りがち。
別に嘘をついている訳では無く、クラス判定のタイミングが無かっただけなのだが、確実にかなりクラスUPしているのは実感出来ていたからだ。
それを感じたエルが、超軽〜く言葉を流していく。
「カルディアは、魔法式を読み取るのが得意なんだよ! 良かったね!! ルイスさん!!」
笑顔で友達の様に喋るエルの横で、同じ様にアルガロスも超笑顔でゼブロスポーズを作っていた。
拍子抜けな返答を聞いたルイス司祭は、苦笑いしながらカルディアの方を見る。
そして、言葉を選んで伝えた。
「な、治す事が出来るかい?」
「解呪はかなり複雑ですが、やらせて下さい!!」
カルディアの真剣な眼差し。
治したいと言う思いは当然だが、それよりもこの複雑な刻印を解呪したいと言う興味が勝っているのかもしれない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<ガゴガゴガゴッ>
ドラントスの街中を勢いよく走る1台の豪華な馬車。
御者がムチを振るう後ろには、縦長の瞳の男、ロードル伯爵からバウロスと呼ばれていた衛兵が1人乗っていた。
この馬車は伯爵専用に作られた豪華仕様の馬車だが、ロードル伯爵が乗って行く様に指示したのだ。
ルイス司祭兼町長の体調が優れ無い事は知っていた為、少しでも身体への負担を掛けない様にと配慮した様だ。
その馬車が教会の裏手に停まる。
関係者が出入りする場所だ。
衛兵のバウロスが教会関係者の人と話をしている。
「司祭なら司祭・町長室においでですが……」
「急用なんだ。失礼するよ!!」
慌てた様子のバウロスは、粗雑な言葉を残して中へと入って行く。
その頃、カルディアはルイス司祭の腕に自身の魔力を流し、刻印の複雑な魔法式を読み取ろうとしている真っ最中だった。
司祭は、空いているもう片方の手で書類等に目を通し、サインをして仕事を進めていた。
賄い担当のコラノスは、<ブルッ>と身震いしながら椅子へ座ろうと手を伸ばす。
「恐ろしいな……呪いの刻印なんて…」
「でもいったい……誰がそんな事を……」
<ドンドンドンッ>
「司祭、いらっしゃいますか?」
司祭・町長室のドアを少し強めに叩く音が響き、誰かの声がしている。
コラノスは少し<ビクッ>とし、小さくしかめっ面を作った。
「誰だ? がさつな訪問者だなぁ……」
コラノスがルイス司祭の方を見ると、頷いている。
その合図を受けて、ドアの方へと顔を向けた。
「はい、どうぞ」
<ガチャッ>
ドアを開け入って来たのは、衛兵のバウロス。
開口一番、司祭を見つけて口早に……。
「ルイス司祭、緊急なんです。今直ぐロードル家へと来て下さい」
すると、コラノスがその前に立ち塞がった。彼は賄い担当だが、その前に教会の信者でもある。
無礼な振る舞いには厳しいのだ。
「今、司祭は治療中です。後にして下さい」
「いやっ、直ぐ来てもらわないと困るんです」
色々と先走ってる様に見えるこの訪問者に、コラノスは静かに重く言葉を続けた。
「バウロスさんらしく無いですね。いつもはしっかり筋を通すのに」
「すっすみません。でも急なんで!!」
バウロスが切羽詰まってる様に見えた司祭は、見かねてカルディアの方を見た。
「カルディアちゃん、ちょっと治療を止める事が出来るかい?」
「…………………」
司祭の腕を凝視しているカルディアの瞳が細かく動き、返事が無い。と言うより集中しすぎて、聞こえてないのだ。
そんなやり取りを見ていたエルが、ちょっぴり膨れ顔でコラノスの横に付いた。
カルディアの邪魔をさせたく無いのだ。
「無理だよ、大切な治療してるから!! この雰囲気を見れば分かるだろ暗殺系なら」
それを聞いたバウロスは、一瞬思考が停止する。
『えっ………、何で……』
ロードル家衛兵であれば、バウロスが暗殺系だと分かっているが、部外者には防衛上秘密にしているからだ。
エルは、そのまま言葉を続ける。
「でも急ぎって言うなら〜……」
「そうだなぁ〜、治療しながらで良いならそっち迄行ってあげるけど?」
と上から目線……。
横にいるコラノスは少し冷や汗を……。
勿論それを言われたバウロスは、貴族の衛兵としてのメンツがある。
「おっ、お前等……貴族を馬鹿にしてるのか?」
「提案してるんだけどね〜……。ちょっとくらい司祭の体調を考えてくれても!!」
とコラノスの腕を掴み、後ろへ隠れて行く。
その後ろへアルガロスも付いた。
そして、ちょこっと顔を出していたずらっぽく笑顔を作った。
「どうする? お願いするなら行ってあげてもいいぜ!!」
「ぐぬぬ……」
子供達のそんな言葉にコラノスも司祭も苦笑い。
そんな中、ルイス司祭を早く連れていきたいバウロスは……、悶えていた。
「じゃ、じゃあ一緒に来てくれ」
「司祭、宜しいでしょうか?」