第76話【 呪いの刻印 】
「俺達も一緒に行っていい? どの様な状態か見たくて」
エルがそう言うと、カルディアも恐縮しながらその言葉に相乗りする。
「仕事の迷惑でなければ……」
コラノスはにっこり笑顔でエル達に返事をした。
「ああ、いいよ!」
司祭兼町長の仕事部屋前に立つコラノスとエル達。
コラノスは部屋のドアへと軽く拳を上げた。
<コンコンッ>
「司祭、コラノスです。おかゆを持って来ました」
「いつもすまないねぇ。入ってくれたまえ」
返答後、ルイス司祭の仕事部屋へと入っていくコラノスとエル達。
「ん? 君達は?」
見慣れない若者達が入って来たので、一度羽根ペンを置き、優しく笑顔を作っている。
カルディアも笑顔を作り、一歩前へ出た。
「今回、回復薬の調合をさせて頂きますクラスEのカルディアと言います。宜しくお願いします」
「おお! 若いのにしっかりしてるね! こちらこそ宜しく頼むよ!」
とても優しそうな表情でそう返事してくれるルイス司祭。しかし、頬がこけ顔色が少し青ざめており、やはり体調が悪い様に見える。
「俺はエルです!」
「俺はアルガロスです!」
2人の雑な挨拶を聞いたカルディアは、少し緊張してしまう。手の届かないくらい偉い人に向かって ” 俺 “ と友達や仲間に使う様な言葉を言ったからだ。
「俺って言っちゃあ駄目よ。司祭で町長なのよ! ” 私は “ って言わないと」
ほっぺたを膨らませ、可愛い顔で注意を促すカルディアに対して、ルイス司祭はそれでも笑顔だ。
「あはははは。いいよ別にかしこまらなくても。若者は弾ける元気があればそれで!!」
「ゴホッゴホッ」
笑顔でそう言ってくれたが、咳込み苦しそうに口を押さえている。
カルディアは心配になり、司祭に近寄って背中に手をあてた。
「大丈夫ですか!?」
「……あ、あぁ……。少ししたら収まるから……」
「ゴホッゴホッ…ゴホッゴホッゴホッ」
やはり、苦しそうに咳が続くルイス司祭。
見かねたカルディアが、
「回復魔法を使ってみますね」
そう言いながら、詠唱する。
「パーフェクトヒール」
<パァーン>
カルディアの回復魔法は強力で、司祭の顔色が瞬時に良くなる………が。
「おおっ!! 何だか身体の倦怠感が取れていく!」
だが、また直ぐ顔色が悪くなる。
回復魔法を掛けた時は、身体の状態が良くなるみたいだが、少しするとまた元に戻っていくみたいだ。
「ゴホッ……。大丈夫じゃよ! でも……、治りゃせんからなぁ…」
ルイス司祭の言葉が引っ掛かりながらも、カルディアは司祭の状態を観察していてるが、やはり何かが抵抗している様に思えた。
そんな時、モサミスケールがエルだけに聞こえる様に言葉を送る。
⇄【 奴の左腕のオーラ循環が乱れとるぞ 】⇄
⇄「えっ? あっ!! ホントだ。何かあるのかも……」⇄
⇄【 カルディアに任せてみろ! 】⇄
⇄「うんっ!!」⇄
モサミスケールに促され、離れた所から見てみると、確かに乱れている。
エルの頭を過ったのは、仮死状態にしたフェイスマスクの男。リッサ達を討伐に連れていた男だ。
『高度な技術を持った術師……奴の仕業だな』
オーラ循環は、波の強弱、速さ等は個人差があるが、本来乱れるという事は無い。魔法を使う時以外は一定なのだ。
エルは、カルディアへと顔を向けた。
「カルディア、ルイス司祭の左腕、調べてみてくれないか?」
「えっ? 何で??」
「ちょっと気になる事があって……」
カルディアはその場でルイス司祭の左腕に集中すると、オーラ循環の流れが乱れてる様に感じて再度歩み寄る。
「ルイス司祭、少し左腕を見せて頂けませんか?」
「ん? どうしたんだい?」
「血液の流れが乱れてるようなので、確認の為左腕の袖をまくっていただきたいのですが」
オーラ循環と言う言葉を使わず、血液と言ったのは、わかり易く説明したかったからだ。
「えっ? そ、そうかい?? いいけど……」
ルイス司祭は浮かない表情だが、羽織物を脱ぎ、袖を肩までまくり上げた。
そこには薄っすらとアザの様な物が浮かんでる気がするが、特には異常なさそうだが……。
「失礼します」
カルディアはそう言いながら司祭の手首と肩に手を置き、自身の魔力を流してみた。
すると………、
<ブワッ>
と腕に浮かび上がる黒いアザ。
カルディアは驚き、表情が険しくなる。
『こ、これは…』
回復系の魔法が得意だが、魔力が上がるにつれ複雑な魔法式の骨組みやその意味がある程度読み取れる様になっていたのだ。
カルディアが見た黒いアザは、規則正しく形取られた………刻印だった。
「呪いの刻印!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ロードル伯爵家の客間は騒然としていた。
手に持つ用紙を、睨みつける様に凝視するロードル伯爵。
「グスタム子爵のサイン……、これは本物!!」
「やはりあいつ等……」
その横に立つ衛兵も、心から絞り出す様にそう呟きながら、怒りに身体が震えている。
ヤブロスは、伯爵達の様子からしてグスタム子爵を疑っていた事は明白だと感じ、さらに言葉を続けた。
「それを持っていた盗賊が、地下で複数人牢屋に囚われていた人を見たと言ってました」
「しかし…、確固たる証拠があっても、私達には後ろ盾がありません………」
その言葉を聞いたロードル伯爵は、<バッ>と立ち上がる。
そして、クラウディー達を凝視した。
「貴方がたの意図は分かりました。この件、私が責任を持って処理致します」
そう言うと、ロードル伯爵は隣りにいた衛兵に指示を出す。
「バウロス、至急ルイス司祭を迎えに行ってくれ!それと、ギルド・ハンター管理局のテオコスタ局長、デイキシスギルドのマスター、シルヴァニア氏も呼ぶんだ!!」