第74話【 見覚えある瞳 】
眩しい朝日と優しい風が、灰色にくすむドラントスの街を、暁光が鮮やかに色付けしている。
ロードル伯爵家の屋敷近くに立つ、クラウディー、ヤブロス、バジール、テリアーノ。
其々が真剣な眼差しで屋敷を見つめ、門の所へと歩いて行った。
前方で、ロードル家の衛兵達が止まれと合図している。
それを見て、皆は自分達の武器をバジールへ渡した。
これは、敵意が無いと言う証。
それとヤブロスの腕には、例の箱が抱えられている。
「何用だ?」
1人の衛兵が、冷たい視線でその様に言葉を発した。
すると、クラウディーがギルド・ハンター管理局から発行してもらった紹介状を取り出し、その衛兵に手渡した。
「管理局からの紹介状です。ロードル伯爵に面会させて頂きたいのですが」
その衛兵が紹介状に目を通している。発行元に偽りが無いか調べてるのだ。
そしてジロリと皆を見回した。
「ついて来い」
と言いながら、その衛兵に連れられ屋敷の中へと入って行く。
その様子を、屋敷の中から伺う1人の男がいるが、その男の瞳が……突然縦長の瞳へと変化した。
ロードル家の客間に通される、クラウディー、ヤブロス、バジール、テリアーノ。
彼等を案内した衛兵2人がそのまま客間に残り、また後から衛兵が2人入って来た。
異様な程、監視されている雰囲気が漂う空間の中で、座る事なく時間が過ぎる。
<ガシャッ>
扉が開く音が響くが、入って来たのはまたもや衛兵。
しかし、少し雰囲気が違って見えた。
「当主は準備中だ。もうしばらく待つ様に」
そう言いながら、その衛兵は彼等に少し近付く。
「武器を後ろのテーブルの上へ置いてから座ってくれたまえ」
衛兵からすると、武器を手に持たない相手を対処するのは容易い。
しかも、非常に警戒心が強い上、何かを疑っている様にも見える。
「当主が来る前に、幾つか聞いておきたい事があるんだが」
そう言いながら、衛兵は短剣を取り出し、目の前のテーブルへ置いた。
勿論、自身の手の届く範囲だ。
衛兵は、屋敷内でわざわざ武器を触る事はしない。
この行為は、最大限警戒しているという証だ。
クラウディー達の緊張感が高まる。
相手はグスタム家と繋がっている可能性が高いからだ。
しかし、相手から出て来た言葉が彼等の思考を揺り動かす。
「何故、グスタムに出入りする衛兵に後をつけられていたんだ?」
そう言いながら、この衛兵は自身に流れる魔力を高めていく。
すると、その瞳が縦長に変化して…。
「そ、その目は……管理局を出た所で!!」
クラウディーとバジールは、その目に見覚えがあった。以前、管理局を出た所でその男から “ 左目に傷がある男に尾行されてるぞ ” と教えられていたのだ。
「フードの男!!」
「そうだ。君達はこの街で、何を探っているんだ?」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
一方、エル達はドラントスの街の教会前にたっている。
昨夜、アルガロスはヤブロスと情報交換した時、町長を兼任するルイス司祭について、情報が得られていないと聞かされていて、ヤブロスから教会から依頼が出されているのでそれを受けて、何か情報を取れないかと頼まれたのだ。
朝一管理局へ行くと、教会から出された ” 薬草調達と調合 “ の依頼を見つけたので、教会前にいるのだ。
薬草は、エルがストックしているアペイロスから出して沢山背負っている。
調合の依頼はクラスE以上の回復魔法スキル保持者となっていたので、カルディアでも受注出来る。
教会の裏側、勝手口があるのでそこから出入りして欲しいと書かれていたので、裏手に回った。
「グスタムと繋がってる可能性があるから、魔力を抑えながら様子見ね」
そうカルディアが言うと、アルガロスはゼブロスポーズ、エルは笑顔で頷いた。
「すみませーん!! 管理局から依頼を受けて来ました」
エルがそう声を掛けると、中から返事が聞こえてくる。
「えっ? 管理局!! 早いねー、昨晩依頼出したのに。ちょっと手が離せないんだ。入って来てくれるかい」
エル達は少し身構えていたのだが、中から優しそうなおじさんの声が響いてくる。
お互い顔を見合わせキョトン顔。
拍子抜けな彼等が勝手口から中へと入って行くと、恰幅のいいおじさんが何かを煮詰めてる所だった。
「今、司祭用の薬草入りおかゆを作っててね、手が離せなくてごめんね!」
「俺は信者で賄い担当のコラノスだ。宜しくな!」
グスタム子爵の支配下、影響下にあると推測される教会関係者のはずだが、民衆受けする返答だった事にエル達は少し戸惑っている。
それと、司祭用の薬草入りおかゆと言うのも引っかかっていた。
「あっ、エルです。宜しくお願いします」
「アルガロスです」
「回復魔法スキルを持つカルディアです」
其々が挨拶をすると、コラノスはにっこり笑顔だ。
「元気があって良いねぇ!! ちょっと待っててね。おかゆ出来たから」
と言いながら火を止め、コラノスは手際よく御椀におかゆを入れた。
その様子を見ていたエルが、疑問に思った事をストレートに聞いてみた。
「ルイス司祭用の薬草入りおかゆって、どうしたの?」
その問い掛けに表情が曇りがちなコラノス。
隠す訳ではないが、普段なら私的な情報は言わないのだが、子供達の無垢な質問に答えるかどうか悩んでるようだ。
悩んでると言うより、心配事がある様に見える。
「…んん…、司祭は長く体調を崩されているんだよ。でも町長も兼任されてるから、おいそれと休めないみたいでねぇ……」
「教会の仕事は俺達が協力出来るんだけど、町長の代わりはいないからね……。街の事についても色々悩みがあるみたいだけど…」
「医者やクラスAの回復魔法師にも診てもらったんだけど、原因が解らなくて……」
相手が子供だからだろうか、コラノスのやりきれない思いが、言葉となって出て来ていたのだ。