第73話【 魔力ガッチャン! 】
「ジャジャーン!! 盗賊参上!!!」
マントを翻しながら、大声で叫ぶ劇場用の笑った仮面の男………エル。
現状を理解していないその言動に、リッサ含め、他のハンター達もかなり焦っていて言葉が出ない………。
劇場用の笑った仮面の男がまたポーズを決める。
「俺は盗賊だ!! だからみんなの事は知らないし、無関係だぞー!」
と聞いてもいないのに、可笑しな言葉を放り投げふんぞり返っている。
呆気にとられるリッサとコラースだが、先程名前を叫んでたよなと………。
「取り敢えず、後ろの男は今仮死状態だから!!」
「えっ???」
みんなが見る先には、馬にうつ伏せで寄りかかっているフェイスマスクの男がいた。
「それと、みんなの刻印も盗んだぞーじゃなくて、解呪したから奴等にバレない様にしててね!」
「えええええー!??………」
其々が首の後ろを確認している。
仮面の男と何も絡んでいないのに、刻印が消えている事に、驚くしかないハンター達。
リッサは、双斧の男の方へと振り向き、ポツリつぶやく。
「時が……動いた!!」
双斧の男も何が起こっているのか理解出来ず、目を大きくして回りを見回していた。
今まで苦悩に満ちた……生と死の綱渡りをしていたはずなのに、いとも簡単に刻印も解呪され……全てが一変する事に。
目の前には、自慢気にゼブロスポーズを決めながら笑う男がいるなんて……と。
やはり、変態仮面には高笑いが似合うのか……。
「アハハハハー!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
薄暗い街中を、キョロキョロしながら歩く2つの影がある。
アルガロスとカルディアだ。
エルからヤブロスさんを探してくれと言われ、必死になって探している。
が、アルガロスの浮かない顔が、ランタン支柱の光により浮かび上がる。
「おぃおぃ……、まじか…。くれーし、人はいねーし……」
「魔力探知って言っても、建物の中でごちゃ混ぜになってるし……、かなり時間経っちゃったぜぇ…」
最初はエルにおだてられ、やる気満々で歩いていたアルガロスだが、現実を突き付けられ即気を落としている。
浮き沈みが激しいのだろう。
そんなアルガロスを見て、カルディアが分担作業を提案する。
「アルガロスは左に集中して、ヤブロスさんを魔力探知してみて。私は右側みるから」
「お、おぅ…」
ちょっぴりお尻を叩かれた事に気付くアルガロスは、申し訳無さげに再度、魔力探知に集中した。
が、しかし……、
広い街中……、やはりこのままではらちが明かない。
そんな時、アルガロスは何かを思い付く。
子供の様な単純な考えが。
「なぁ、カルディアの魔力探知の範囲ってどれ位だ?」
「んー、判別確率を高めた範囲なら、せいぜい30メートルくらいかしら」
「んー……」
「どしたの?」
「俺も30メートルちょいくらいなんだけどさぁ、これって、ガッチャン出来ない?」
「ガッチャン??」
「そっ! 30足す30で60メートルって感じで」
と、笑いながらおどけた様に言うアルガロス。
呆れ果てるカルディアは、子供じみた事を言うアルガロスを見て、集中力が切れたなと落胆ぎみだ……。
「そんな事出来る訳………、あっ!」
カルディアは何かを思い出す。
イティメノス渓谷で、無理やり単独訓練をやらされた時に、エルから言われた言葉を思い出していたのだ。
” 魔法の種類、混ぜてもいいからね “ と。
その当時実践してみたが魔物に追われ、時間無く深く考える事が出来なかったが今は……。
もし同じ種類の魔法を2人で混ぜ合わせたらどうなるのか……。
魔法に対する興味が人一倍あるカルディアは、可愛い顔に似合わず、ニャッと笑っていた。
出来る出来ないは別にして、好奇心が噴火する様に湧き出ているのだ。
あまり見せない顔だが……、カルディアは怪しい表情をしていた。
「フッフッフッフッ…」
『俺、何かヤバイ事言ったかな…』
怪しく笑うカルディアを見て、怒らせてしまったかとアルガロスは汗を流して一歩引いている。
「アルガロス、魔力探知を!!」
「お、おぅ……」
「ガッチャンするわよ!!」
「えっっ!??」
カルディアは、久しぶりに杖を取り出す。
魔力の純度、濃度、精度、制御、そして、オーラ循環速度を速める為だ。
そして、アルガロスの後ろから肩に手を置いた。
「いくよ!」
「な、何すんだ?」
「黙って!!」
カルディアは集中している。
そして、腕を前に伸ばして杖を掲げた。
〜〜〜そして未知の魔力混合詠唱へ〜〜〜
「アルガロスと私の魔力をエクストラクション」
「オーラの波をホロモス、魔力をエノシ」
「そして……べバイオン……………、
べバイオン…べバイオン…べバイオン………」
カルディアの表情が曇り出したのと同時に、手を置くアルガロスの肩も熱を帯びる。
『肩が…熱い……。いや燃えてる様だ……。カルディア……大丈夫か………』
『拒否されてる。何が違うの…何が邪魔をしてるの……、何が………』
カルディアは焦り、冷や汗を流すも集中している。
お互いの魔力が安定せず暴れていて、最悪自爆するかもしれないからだ。
「べバイオン…べバイオン…べバイオン………」
願う様に詠唱するが、対抗しあう魔力がぶつかり合うだけ………。
『くっ………』
そんな時、何故かエルと初めて出会った時の事が突然頭を過ぎる。
“ 付き合ってよ ” のインパクトと、手を差し伸べられた時の ” 安心感 “ が 。
カルディアの目が、突然大きく開いた。
何を思ったか、詠唱途中でアルガロスから手を離したのだ。
<バフウッ>
放たれ、暴走した魔力が膨れ上がる。
このままでは………。
アルガロスも魔力の暴走には未経験で、どんな事が起こるか分からないでいる。
「危険だ! カルディア」
と、カルディアの方を向くと、何故か笑みを浮かべていた。
カルディアは、この動作で魔力に “ 暴走 ” と言うインパクトを植え付けたのだ。
そしてまた直ぐアルガロスの肩に手を置いた。
突如交差するお互いの魔力。
<ブバババッ>
そして、詠唱を!!!!!
「エパノルトーマアネシス」
カルディアは、魔力と限定せず生命有る者と置き換え安心感を与えたのだ。
すると、2人の魔力が呼応し何故か結合する。
そして………、
「べバイオン!!!」
<バフオオ━━━━━━━━ンッ>
アルガロスの肩から光や熱が無くなり、2人を包む様に優しい光が渦を巻く。
確信したカルディアは、また口早に詠唱を続けた。
「新たな魔力としてパイノマイ、オーラ循環速度をエピ夕キンシ」
<ギュオオオオ━━━━━ン>
小さな振動だが、魔力が激しく渦を巻き出した。
そして、
「マギア・ディテクション!!」
<ブフォア━━━━━━━━ッッッ>
カルディアとアルガロスは驚きを通り越して、不思議な世界に入った様な感覚になる………。
何故なら彼等の魔力が………、
ドラントスの街を覆い尽くす様に、純度の高い魔力探知範囲が広がっていったからだ。