第71話【 心の解放 】
ゼブロスポーズを決めた笑った仮面の男は、身体の大きな男が入る牢屋の鍵に手をかざした。
その直後、苦しんでる身体の大きな男がまた口早に割って入ってくる。
「ちょっ、うグッ…ちょっと待ってくれ」
「ここの鍵は、うっ…魔法が掛けられてて無理に解錠すると、ぐうっ、衛兵の誰かにバレてしまうんだ」
「大丈夫だよ。それもひっくるめて解錠するから!!」
「えっ??」
身体の大きな男が驚く間もなく、仮面の男が解錠してしまう。
<パパパパパチンッ>
しかも、一度に全ての鍵を……。
そして、苦しんでる身体の大きな男の首に手をかざした。
<ズリュリュリュッ>
薄っすらと黒いモヤが立ちのぼる。
すると首の後ろの刻印が消えていき、激痛から解放されていく。
その後、囚われてた全ての人の刻印も解呪した。
「すまない、ありがとな! また助けられたよ!」
とウィンクしながら身体の大きな男がお礼を言うと、笑った仮面の男は頭を掻きながらモジモジしていた。
「取り敢えず牢屋の鍵は解錠したけど、外には出ないでね。何か貴族ってややこしいらしいから、色々段取りが必要みたいなんだ。それと刻印が消えてるって事バレない様にして!」
「そう、この女の子にも伝えといて! 近い内に、誰かが助けに来ると思うから!」
「!! ど、どう言う事だ? 段取り? 誰かって、バルコリンの自警団か?」
「いや、1、2を争うギルドのマスター達じゃないかなぁ。分かんないけど。ヘヘっ」
囚われてたみんなが驚いた顔をしている。
バルコリンで、1、2を争うギルドのマスター達となると、誰もが簡単に想像出来るからだ。
それに、共にクラスAの実力者で、力は強大。
しかも、彼等に指示を出したのも管理局だと安易に想像出来る。
身体の大きな男も、他のハンター達も、同じ名前を思い浮かべていた。
『………クラウディーさんやバジールさんか……。
バルコリンが動いてくれてる』
「あぁそれとこのお団子、人数分置いとくね! 必要な時がきたら食べて!!」
自身の素性を隠す気があるのかそうで無いのか……。淡々と説明する笑った仮面の男を見て、身体の大きな男が歩み寄る。
「エ……、い、いや、き、君はどうしてここへ…? 指示を受けたのか?」
「ん? 盗賊だから誰からの指示も受けてないよ! でっかい屋敷があったから探検してるだけ!」
と、頭を掻きながら身体をクネクネさせている。
自分の説明はあまり得意では無い様だ。
「所で姉ちゃん達ここに居ないけど、どこ行ったの?」
やはり隠す気が無い様な……。
返答する側も何故か気を使ってしまう。
「リ、リッサ……マ、マスターと回復魔法の人は、討伐に駆り出されているんだ。それに、その女の子の父親と、彼等のマスター達もな。全員で5人だ」
「少ない人数での強引な討伐だから、危険と隣り合わせだ……」
「そうなんだ……。何処に行ったか分かる?」
「多分だが……、ここから北西にあるメテリウム遺跡じゃないかな。女の子の父親がそんな事をボソリと言ってたみたいなんだ」
「そうか……、調べないとね………」
笑った仮面の男はそう言って、また女の子に手をかざした。
<パァーンッ>
優しい光が女の子を包む。
「んんっ……」
まだ目は開かず不安定だが、気を取り戻したみたいだ。
「じゃあ行くね! いつも通り捕まっといてよ。怪しまれないように!!」
と、またゼブロスポーズを決める笑った仮面の男。
それにつられ、囚われてたみんなもゼブロスポーズをしている……。
すうーっと気配無くいなくなる笑った仮面の男。
「何なんだ? いったい……」
囚われてたハンター達は、ハッキリした理由が分からずみな呆然としていた。
エルは牢屋の部屋を出て、女の子が支度していた部屋へと足を運ぶ。
中を覗くと、コスタロス男爵と呼ばれる左目に傷がある男が、ワインを飲みながらチーズをかじっていた。
『……剣士のクラスBか。全く警戒してないなぁ。過信から来る余裕なんだろうか……』
モサミスケールが、エルの腕でモソッと動く。
【 エル、瞑吐誘引魔法を掛けて討伐に出てる奴らの場所を聞き出すんじゃ 】
「分かった!」
エルは、背後からそっとその男へと近づいていく。
そして、男の頭に手をかざした。
<ボグーン……>
男は意識を失い、両手が下へ伸びてチーズを床へ落としてしまう。身体から全ての力が抜けた様に。
エルはコスタロスに、質問に答えてしまう瞑吐誘引魔法を掛けたのだ。
そして、命令口調で語りかけた。
「エインセルギルドの人や女の子の父親が、何処へ行ったか言え」
すると、男の口が自然に動き出す。
「モリエス湖近くのメテリウム遺跡……」
「どっちの方角で、時間はどれ位かかる?」
「北西へ…歩きなら5時間くらい……」
『遠いな……』
エルはまた男に手をかざし、魔法を解呪する。
<パンッ>
解呪されたコスタロスは、そのままだらんと椅子にもたれながら寝入ってしまった。
『リッサ姉ちゃん達がどんな状況下にあるか心配だ……急がないと』
そう考えながら、エルは上へと上がって行った。
エルとアルガロス達は、お互いの魔力を感じ取っている。魔力を抑えている為、微々たる魔力だが、長く一緒にいると感覚で分かるみたいだ。
そして、素早く、音なく合流し、エルが目で合図を送る。アルガロス達もその合図にうなずき、一緒に屋敷の外へと出て行った。
素早く庭先を走り、敷地外へ飛び出して行く。
そして3人は、林が茂る木々の中で足を止め、仮面を取った。
「エル、これ見てくれ!!」
とアルガロスは、持っていた箱をエルに渡す。
その箱を開けると……。
「こ、これは!! リッサ姉ちゃん達や今まで拉致ってきた人達の詳細!!?」
屋敷から何か出てくると思っていたが、こんなに分かり易い証拠が見つかるなんてと驚いている。
さらに、アルガロスが用紙のとある部分を指差している。
「しかも、ご丁寧にグスタム子爵のサイン付だぜ!!」
「やったな!! アルガロス、カルディア!」
そう声を掛けたエルに対して、2人はニンマリした笑顔を作り、自慢気に胸を張っていた。
エルも負けじと超笑顔で、アルガロスとカルディアの肩に手を置く。
「こっちも見つけたよ、エインセルギルド!!!」
「ええ━━━━━━━━━━━っ!!!?」