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第67話【 三段石の悲劇 】


 日が落ちたメテリウム遺跡の上空に、目が赤く光るニフテリザ・バットの鳴き声が響く。


<ギャギャギャッ…ギャギャッ…>


目が赤く光っているのは、活発な活動時間に入った証拠。即ち、腹がすいているのだ。

血を好み、死肉、腐肉、骨まで食い尽くす。



 大きな石の柱に囲まれたオレンジ色の空間から、疲れた様子でハンター達が出て来ている。


槍斧(そうふ)の男は例のお団子で回復し、杖の男コラースの回復呪文で折れた骨も治っている。

双剣の男も、コラースの回復呪文で食い破られた腕は治っていた。


2人とも完全ではないが、動ける状態までには回復していた。

そう、元々コラースはクラスCの回復魔法士だが、リッサから指示された訓練でクラスBまで魔力が上がっていたのだ。


みんなの回復後、苦戦しながらもピルゴスワームを倒す事が出来たので今がある。


フェイスマスクの男は、ニヤけた顔でフワリと足元に浮かぶ箱を眺めていた。


「クラスAの魔力に近いピルゴスワームのコルディスコア、大収穫だな」


「今まで何十人と()になってきたが、討伐出来たのは初めてだ」


笑いながら言葉を吐く男が、同じ志しを持つハンター達を()と侮辱した事に、リッサ達は強烈な不快感と腹立たしさを抱く。


『餌!?………』


剣の女リッサは、不快と苛立ちを隠せない様で、鋭い目つきでフェイスマスクの男を睨んだ。


「貴様……この世に1つしか無い命を、()だと?」


「ハァ? 直ぐ殺される無能なハンターが多いからだ。力無き愚民は我らの所有物。だからお前等は三段石(• • •)の小僧達みたいに粛清対象なんだよ!」


その言葉に5人のハンター達の顔色が変わる。


フェイスマスクの男は、このハンター達は近々死ぬ運命にあり、話が公にならないと確信している為、口が流暢に動いているのだ。


三段石(• • •)の悲劇(• • •)………。


カデフ街近郊で起こった三段石(• • •)の悲劇(• • •)とは、祝福を受ける14歳になる成人予定の少年少女達76人全員が命を落とした……ブルーモン領最大の惨劇。


心痛める多くの民衆が祈りを捧げ、その命を偲んだと言うのに、このフェイスマスクの男はヘラヘラとあたり前の様に吐き捨てている。


握り拳を作るリッサの腕が、怒りに震えている。


「粛清対象だと??!」


「そうだ。無駄に愚民の数が多いから粛清の為に三段石近くのゲートを放置(• •)したからな!」


更に目の色が変わるハンター達。



 愚民………


   粛清………


     見殺し………



ブルーモン領内にはびこってるであろう貴族達の悪なる思考。

人間としての権利・自由を否定し、自分達の所有物として労働を強制する身勝手な思惟………。

そして、命までも軽視し物扱いする暴挙。


「お……、お前達が絡んでるのか!!?………」


逆流する血液と魔力、そして抑えきれない怒りがリッサを襲った。


<バッ>


フェイスマスクの男の方へ素早く走り込み、抜刀の動作に入った……が、

既にフェイスマスクの男の短杖を持つ腕が、リッサ目掛けて伸びている。

そして、ニタッと笑いながら詠唱する。


「アナテマ・ヴァルトス」


<ギュオンッ>


リッサの首の後ろにある刻印が、赤黒く光る。


突然重くなるリッサの身体。地面に引きずり込まれ、押し潰される様に激痛が走る。


「ふぐっ、ぐわあっ」


「ギャハハハハーッ」


勝ち誇った様に高笑いするフェイスマスクの男。


「馬鹿だなぁお前は。俺を倒したらもっと酷い惨劇が待ってるってのに、歯向かうのかぁ?」


「うグッ……」


<バシュッバシュッバシュッ>


空から空を切る音が響く。

ニフテリザ・バットが、リッサ目掛けて急降下してきた音だ。


弱った獲物に群がる習性を持つニフテリザ・バット。

地面に押し潰されそうなリッサの悲鳴を、弱った獲物と解釈したのだ。


<ババッ>


リッサの前に立ちふさがるハンター達。

双剣の男、弓の女、杖の男コラースがニフテリザ・バットを蹴散らそうと武器を振るっている。


そして、槍斧(そうふ)の男も空に向かって爆風の刃を飛ばした。


シエラブレード(爆風の刃)


<シュババババッ>


斬り刻まれるニフテリザ・バットが、肉の塊となり落ちてくる。

その肉の塊越しにニヤけるフェイスマスクの男が、手を降ろし仁王立ちしていた。


「俺を殺すんならいつでもいいぞー! その代わり仲間は皆殺しだからなー。アハハハハー」


うずくまるリッサに、気休めだがコラースが回復魔法を唱えているが……。

呪い魔法後の回復には……、あまり効果が無いのだ。


「うぐぅ…」


槍斧(そうふ)の男と双剣の男に担がれるリッサは、痛みより怒りに顔を歪めていた。


そんなリッサの……いや、自分達の置かれた立場を憂慮し、槍斧(そうふ)の男は、そっと言葉を置いていく。


「仲間が捕らえられているのだろ。我慢だ……」


「し、しかし……あいつ………」


歯を食いしばるリッサの悔しさは、槍斧(そうふ)の男も他人事ではないので十二分に理解している。


「分かってる。俺も君と同じ思いだ……しかし……」


「先は見えないが……、時は必(• • •)ず動く(• • •)!」


槍斧(そうふ)の男の力強い目の輝き。

行き詰まるこの軌跡の中、諦める事無く信念を貫くその意志に、リッサは少しだけ勇気を貰った気がした。


夜空に虚しくニフテリザ・バットの鳴き声が響く。

空飛ぶ魔物は、悠然と夜空を支配する様に声を轟かせていた。



<ギャギャギャッ…ギャギャッ…>



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 フワフワと暗闇に浮かぶ小さな光が6つ。


その怪しい光が、とある屋敷の庭にひっそり佇んでいる。


雲に遮られていた月明かりが足を伸ばし、優しく庭先を歩いていく。

その月明かりに照らし出された怪しい光は……。


ピエロのお面に茶褐色の髪………。


黒い羽型の仮面舞踏会用のアイマスクに淡いピンク色の髪………。


そして……、劇場用の笑った仮面を着けた赤毛の男………。


その怪しい光が、3人揃って屋敷を眺めていた……………。




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