第64話【 盗賊宣言! 】
<ヒュオ━━━━━オォ>
ドラントスの街から北西へ歩いて5時間程の所にある、大きなモリエス湖。
太陽の日差しが水面に反射しキラキラ輝く湖に、静かに浸かる巨大で古い遺跡が、陸地へと奥深く続いている。
この遺跡は迷宮の様に長く複雑な形をしており、その大きさから、大きな像をイメージさせるメテリウム遺跡と呼ばれている。
特有な地形なのか、魔力の通り道、溜まり場になっている様で、ここでは数多くのダンジョンが確認出来るのだ。
ただ濃度の濃い危険なダンジョンは少なく、今まで確認出来ているだけだが、最大でもオレンジダンジョンまでの様だ。
レベルC:オレンジダンジョン
魔力濃度 2,001〜4,600
最低攻略基準は、クラスBが3名、クラスCが4名必要とされている。
穏やかな風でも巻き上がる砂埃。
廃墟と化し、崩れた瓦礫により複雑に入組むメテリウム遺跡は、人を寄せ付けない代わりに、厄介な生き物が好んで住み着く。
血肉を好み、黒い姿で空飛ぶ醜い魔物。
” ニフテリザ・バット “
吸血コウモリだ。
そんな遺跡の中、荷馬車の前で列をなして歩く一行の中に……、無言で歩くリッサとコラースの姿があった。
<フオオオオオ━━━━━オォ>
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
管理局の職員に無理なお願いをし、少し時間はかかったがロードル家への紹介状を受け取ったヤブロス。
クラウディー達に再度合流しようと管理局内を外へ向かって歩いていた所へ、あの笑顔が飛んでくる。
「はい、お土産!!」
と、突然エルが微笑みなら、何やら大きな袋を渡そうとしている。その後ろには勿論アルガロスとカルディアも。
「んおっ? お、お前達!!?」
敏捷術戦士のヤブロスは魔力感知や五感が鋭い方だが、何故か子供達の気配や魔力を感じる事が出来ない。
ビックリし戸惑うヤブロスをよそに、エルは袋をヤブロスに押し付けた。
「な、なんだこれは?」
「開けてみてよ!」
キョトンとした表情で、ブツブツ言いながら押し付けられた袋を開けると、いくつもの鉱物化したコルディスコアや、魔物の牙、爪、皮等の素材が入っている。
「ええ??? こ、これは?」
「イティメノス渓谷で訓練しながら街へ戻ったんだ!! クラスの低い俺達がこんな素材持ってたら怪しまれるから、ヤブロスさんにあげる!!」
とまた笑顔で答える子供達。
「イティメノス渓谷で!!?」
ヤブロスは、未開の地イティメノス渓谷の危険度を把握していたので、とても驚いているのだ。
しかし、思い返せば……彼等の力には納得せざるおえない事ばかり……。
「ん~~……」
悩み顔のヤブロスに対して、笑顔のエル達。
「何か良い情報あった?」
「あ、あぁ。エインセルギルドの件、やはり貴族が複雑に絡んでるみたいなんだ。だからバルコリンや局長達に迷惑をかけない為、外枠から埋めていこうと考えてる所だ」
「そっか、やっぱり…」
何か思う所があるのか、アゴに手を当てながら考え込むエル。
ヤブロスは、続けて自分達の今後の行動を伝えた。
「俺達は明日の朝、この街で1番位の高いロードル家に話を聞きに行こうと考えてる」
「分かった! じゃあ………」
とエルはヤブロスに近付いて、小さな声で…、
「俺達は今夜、盗賊としてグスタム家に潜入するからね!」
「はあっ???」
唐突で予想不可能な盗賊宣言。
不可解極まりない言葉に脳内フリーズするヤブロスが、呆然と立っている。
「俺達は、エインセルギルドやバルコリン。それにカークス、ブノーガギルドなんて全く知らないし関係ない。あくまでただの盗賊だよ!!」
「迷惑かけないから安心して!」
そう言いながら、ゼブロスポーズをキメ込むエル達。
何か……、色々と理解不能な単語が出て来た様な感覚に囚われるヤブロス……。
ふわふわと浮ついた、地に足がつかない様な……。
ヤブロスは自身の顔を、<パチンッ>と両手で叩き、気合を入れて改めてエル達の方を向くと、
『えっ??』
……いない………。
いくら回りを見渡しても……姿が無いのだ。
心波打つヤブロスは、祈る様に拳を握りしめた。
『……、あいつ等……色々考えて。しかし、エインセルギルドの為にと動いてるのは分かるが……心配だ。無茶はしないでくれよ……』
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が暮れ始めたメテリウム遺跡のとある場所。
淀む空には吸血コウモリのニフテリザ・バットが飛び交っており、怪しい、不穏な空気が漂っている。
そんな中、大きな石の柱に囲まれた空間が、オレンジ色に染まっているのが見える。
綺麗なオレンジ色の濃淡が、回りの魔力を吸い取るようにゆっくり渦を巻く。
レベルCのオレンジダンジョンだ。
その前には、リッサとコラース含む6人のハンター達が、荷馬車から道具を取り出し討伐準備をしている。
そして皆、不快な表情を浮かべながら、オレンジダンジョンの前に立つ。
先頭に立っているのは、槍斧を背負い、凛々しく見える身体の大きな男。
後ろ左右には、リッサと双剣を腰に差す細身の男。
その後ろには、コラースと弓を持つ女。
そして……、少し離れて最後尾に……、
灰色のフェイスマスクとローブで全身を隠した薄気味悪い男が、ニタニタ笑いながら立っていた。