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第63話【 縦長の瞳 】


  森の中を素早く動く3つの影。

その影が、様々な方向へと弾け飛ぶ。


エル達は、パタラエ村からドラントスの街近郊まで、其々が単独行動でイティメノス渓谷の中を走っている。


一度目は、アルガロスもカルディアも深手を負い何度も死にかけたイティメノス渓谷……。

その中で著しく成長した彼等は、さらに上を目指す。


帰りは短い道のりだが、そんな中でも訓練を続けるのだ。


アルガロス、カルディアはまだ未熟だが、ある程度魔力感知出来る様になった。

その感知力を上げる為、確かめる為に、自ら魔物へと向かっていく。


魔力感知能力が不安定な状態では、魔物の力を見誤る事になる。強い魔物を弱いと判断してしまい攻撃してしまうと、命の保証は無い。


そんな命を賭ける緊迫した状況に自身を追いやり、極限状態で魔力や経験を強制的に上げていく。

これは、漂う大陸の世界樹ドラの手法だ。


安全第一で緩やかに魔力を上げる下界の手法とは、相反するやり方なのだ。


アルガロスもカルディアも、それを分かった上でエルに従い自身を高めている。


彼等の目の前には、おびただしい魔力を放つ魔物が立ち塞がる。そこへ向かって………。


<ゴフオオオオウッ>



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 日が暮れ始めたドラントスの街。

夕陽が赤い手を伸ばし、灰色に染まる街の姿を憂い、鮮やかに色付けしている。


朝日と夕陽の時間だけが、異様な程にどんよりと霞むドラントスの街に生きた色を着けるのだ。



 ギルド・ハンター管理局内。

ハンターの溜まり場となっているスペースに、クラウディーとヤブロス、バジールとテリアーノの姿がある。みんな非常に真剣な顔つきだ。


彼等は集中している為、とある気配に気付かないみたいだ。

その気配は、情報交換をする彼等の後ろに……。


左目に傷のある1人の男が、背中を丸め、目立たない様にテーブルにそっとうずくまっている。

その男の鋭い視線は……、クラウディー達に向けられていた。


クラウディーは、テーブルに置かれた小さなコーヒーカップを摘み、一口口につけた。


<コトンッ>


「グスタム家に出入りする未確認のハンターが数多くいる……か」


小さなコーヒーカップを眺めるクラウディーは、落ち着き無くテーブルの上でカップを回している。

その前で、腕を組みながら難しい顔をしているのはバジールだ。


「その未確認のハンター達は、各街から強制的に連れてこられたと……。その中に、エインセルギルドのメンバーがいるかもしれないって事か」


「ああ。もしそうなら、彼等を抑え込む上位のハンタークラスがグスタム家に就いてるとみた方が自然だな……」


クラウディーもバジールもそれはある程度分かっていた。衛兵を持たない貴族はほぼ無いからだ。

テリアーノは、鋭い目つきで髪をクルクルと指で巻き、悩み考えながら小さな口を動かしていく。


「……色々情報は集まってるけど、確信が無いわね。グスタム家に潜入して情報を得たいけど、動いていいものかどうか……」


「相手は貴族だ。下手すりゃあ、こちらが罪人扱いされる危険性があるからな……」


やはり、貴族が絡むと動きづらいのが現状だ。猪突猛進なクラウディーでも、そこは細心の注意を払わなくてはと考えているのだ。


しかし……、一刻も早くリッサ達を見つけたいクラウディーは、鋭い目つきで歯を食いしばり、焦っているかの様に見える。


腕を組みながら悩むヤブロスの目と、自身の腕を

<トントン>と叩く指が止まる。

ヤブロスはクラウディーの心を読み取り、視線が険しくなる。


そして………。


「……貴族には貴族」


と、ポツリとつぶやくヤブロスのその言葉に、他の3人の顔が小さく反応する。


「そうか! この街で貴族の味方が必要って訳だな。ドラントスにはグスタム家より位が高いロードル家があると言ってた」


「そのロードル家が鉱山絡みで沈黙しているのは気になるが、悪い噂は出てきてないからな……」


貴族を使った駆け引きをする……、その危うさに不安な気持ちはあるが、貴族としての地位が無いクラウディー達にはそれしか無いのかもしれない。


バジールが、腑に落ちないと言う様な表情を作っている。何か引っかかる点があるのか…、重い口がユルリと動く。


「ウドクローヌ家は何故、グスタム家より位の高いロードル家に鉱山の話をしなかったんだ?」


バジールの言葉にピクリと反応するヤブロス。

敏捷術戦士としての感覚が研ぎ澄まされ、血の巡りが速くなる。


「……もしかしたら、しなかったんじゃ無くて…、出来なかったか、断られたんじゃないのか?」


あくまでこれはヤブロスの推測だが、礼儀として位の高い側から話を持っていくのが貴族だ。

違う街の貴族だが、出来るだけ波風立てない様に注意を払っているはずなのだ。


テリアーノは自身の緊張を和らげているのか、あごに人差し指を当て、小さく顔を傾けて考えることに集中している。


「グスタム子爵と確執があるかもしれないロードル伯爵に、直接面会出来ればいいんだけど……」


「俺達がアポ無く直接行くと、怪しまれて門前払いされるだろうから、管理局からの紹介と言う形を取り付ける事が出来ないだろうか?」


事を出来るだけスムーズに怪しまれず行うにはと、クラウディーは色々考えているのだ。


「それなら俺が動いてみるよ。それらしく理由をつけて、頼んでみる」


ヤブロスは、一度依頼を受けた時に親切にしてくれた管理局職員の事を思い出していた。

クラウディーは、コーヒーを<グイッ>と飲み干し、ちいさなコーヒーカップを握りしめた。


「よし、まずはロードル家からだ! 後は、町長を兼任するルイス司祭がどちら側かも調べないとな」


彼等は立ち上がり、ギルド・ハンター管理局を後にする……………が、その後をつける怪しい男が。


ヤブロスだけは、ハンター管理局の職員に話を通してもらう為、カウンターの方に歩いて行った。


クラウディー、バジール、テリアーノは、管理局を出て、町長を兼任するルイス司祭がどちら側なのか探りを入れようと、ハンター達が大勢集まる飲み屋へ向かう……その時、


<トンッ>


クラウディー、バジールと交差するように歩いていたフードを被った男と身体が軽くぶつかってしまう。


「おっと…」


フードの男は彼等が言葉を発する前に、すかさず両手を軽く上げ、敵意が無い事を示し笑顔を見せる。

が、直ぐ真顔になり、目が鋭く、縦長の瞳(• • • •)に変化する。


それを見て<ドクッ>と鼓動が波打つ彼等に対して……、


「左目に傷がある男に尾行されてるぞ」


クラウディー達はフードを被った男に一瞬警戒し戸惑ったが、分からない様に横目で後ろを確認すると、確かに怪しい男が後ろからつけて来ている。


すぐさま教えてくれたフードを被った男に話し掛けようと前を向いたが……、


そこには……誰もいなかった。



「え?……、今の男は……」



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