第62話【 其々の情報 】
目つきの鋭いヤブロスの姿が、灰色に染まるドラントスの街にある。
彼の足は、仲間が待つギルド・ハンター管理局へと向かっていた。
職員がいるカウンターへ行き報酬を貰い終えると、近くに座っていたクラウディーと合流する。
「どうだった?」
「それが…どうやら1週間程前に、ペトラオスが単独で同じ依頼を受けてたらしいんだ」
「なにい!!?」
クラウディーは、初めてエインセルギルドに関する情報が得られた事に驚いている。
馴れない “ 極秘行動 ” だが、少しは前進していると感じる事が出来たからだ。
「しかも管理局経由じゃなく、グスタム家から直で」
「グスタム家から直!? ……あり得ないだろ」
ギルドに属する彼等からすると、管理局経由でない依頼を受ける事はまず無い。
個人のハンターでも、親族でない限り管理局経由でない仕事はそうそう受けない。
何故なら管理局は、ハンターの命を管理する為の保守的機関でもあり、お互いに頼り、頼られる関係だからだ。
「だろ! 何かから指示されたとしか……」
「……何らかの理由があると見たほうが自然だな。強制的にやらされたと……」
クラウディーの表情が険しさを増す。
先の見えない複雑な迷路に迷い込んだかの様に、進む道が歪んで見える。
「それとそのグスタム家、鉱山絡みでウドクローヌ家とガッツリ関係が有りそうだぞ」
「エインセルギルドに依頼したウドクローヌ家……。それも調べる価値はあるが、まずはこの街を優先しないとな」
小さな断片……。だが、少しずつ積み重ねて行けば複雑な迷路でも、目指す姿にたどり着く筈だと2人共考えていた。
「後、これだ」
と、エルから受け取った紙の内容を、事前に書き直していた紙をクラウディーに見せた。
「老舗の店らしいから、何か手掛かりが出て来るかもしれない」
「これは、バジール達と手分けした方が良さそうだな」
紙を握りしめ、自身の拳を見つめるクラウディー。
その目には、強い光が宿っていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
断崖絶壁の下、渓谷沿いにある細長い小さなパタラエ村。
風の通り道なのか、時折<ゴオオオオー>と強い風が唸り声をあげている。
エル達はその音を逆手に取り、隠れながらパタラエ村周辺や内部を別々に調査していた。
この村の人達は非常にのんびりしており、とても観察しやすい。
辺境の地にあるからか、それとも出入りが関係者だけだからか……。ここの作業人は警戒心無くみんな酒を酌み交わし、饒舌で色んな事を喋り散らしているので非常に情報が取りやすいのだ。
エル達は一通り探りを入れて、また崖の上へと集まり情報を共有した。
彼等の話をまとめると、周辺地域の街や村から、護衛をつけた荷馬車の出入りだけがある様なのだ。
どうやら各地域で防腐保存液に漬けたコルディスコアを集め、パタラエ村へと集約しているみたいだ。したがってこの村の人達は……みな作業人。民衆は1人もいない。
この村は……、コルディスコアを集める中継地点として作られている様で、村を長く大きくする為に、石も運び入れているのだ。
そして……、集めたコルディスコアの行き先は、城下街スパータル。
その先は、やはりグスタム家と繋がりのあるエインセルギルドに依頼したウドクローヌ家の様だ。
「……あの漬物の事も気になるけど、それよりもエインセルギルドの行方を優先しなきゃ」
「そうだな。グスタム家の洗い出しか!」
アルガロスはやる気の現れなのか、腕をブンブンブン回しているが、その横でカルディアは不安気な表情だ。
「…貴族だよね……、大丈夫かな」
「大丈夫だって!イザとなりゃあガツンと」
と、またもやアルガロスが粋がっている。
エルはそんなアルガロスに慎重になってほしくて、言葉を選び促した。
「……いや、俺達の街との絡みやその他、色んな不安要素があるから、グレインカブース局長が ” 極秘 “ としたんだと思うんだ」
「グスタム家に探りを入れなきゃいけないけど、細心の注意を払わなきゃ」
エルは、そう言いながらアルガロスの肩を<ポンッ>と叩いた。
うなずくカルディアも、アルガロスに手を触れる。
「そうよね。今回は対魔物じゃないもんね……」
「そっか……、対人間なんだよなぁ……」
アルガロスだけでは無く、彼等はみなハンターだ。魔物に対しては経験を積み重ねているが、相手が同じ人間となるとど素人そのもの。
それに、今まで対人間への対処法なんて経験が無いから、慎重にならざるおえない事はみな分かっていた。
エルは空を眺めながら、何かを考えている。
「やっぱり、ヤブロスさんだけに極秘相談かな!」
そんなエルの言葉を聞いた2人はキョトン顔だ。
「何で? クラウディーさんやバジールさんは?」
アルガロスの疑問は当然だろう。
クラウディー、ヤブロス、バジール、テリアーノと4人で捜索しているにも関わらず、ヤブロスだけとは……。
エルはうなずき、人差し指を上に向けながら爽やか笑顔。
「あの2人……、色んな意味で目立つだろ!」
「あっ……」
その意味を察する2人。
テリアーノの事は分からないが、クラウディーとバジールは性格が似ていて、猪突猛進型のクラスA。
ヤブロスだけでは彼等を抑えきれないと考えたのだ。
まだまだニヤケ顔が暴走中のエル。
「よしっ決めた!!」
と立ち上がりながら握りこぶしを作った。
「俺達は、バルコリンやエインセルギルド、カークスギルドやブノーガギルドなんかこれっぽっちも知らないし、無関係だ!!」
「ん?」
アルガロスとカルディアはチンプンカンプン……。
暴走族と化したエルの思考は、もはや理解不能。
そして……、その暴走が嵐の様に加速する。
<ゴゥオオオー>
「俺達は……、今から盗賊だ!!」
「はあっ???」