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第60話【 魔導師の影 】


 「オヤジッ、喋り過ぎだぞ!」


 みんなの中に少し緊張が走る。

貴族の名前が出て来たとたん、息子のヤニスから話を遮る様に横槍が飛んできたからだ。


そんな緊張感を瞬時に破ったのは……、親父のイリアスだった。


「う(フゥ)っせー、黙っとけ!!」


「わしゃーム(フゥ)シャク(フゥ)シャしとる(フゥ)んじゃぃ」


イリアスの一喝に、眉を下げ押し黙るヤニス。

エル達とヤブロスは、そんな彼等には何か複雑な事情があるんだろうと容易に見てとれた。


「どいつ(フゥ)もこいつ(フゥ)も権力に流されやがって………」


「お前達は最近この街へ来たと言っとったの。ここは……やめたほう(フゥ)がいいぞ」


と言うと、イリアスは悔しそうに空を仰いだ。



 ドラントスの街近くには鉱山が有り、採石場として民衆は自由に岩石を採掘していた。

しかし2年ほど前、このドラントスの街のグスタム子爵が、ブルーモン領の城下街スパータルに住むウドクローヌ子爵の入れ知恵で、鉱山を安値で買い取ったらしいのだ。

仕事を取り上げられた石工職人達は、町長を兼任するルイス司祭に嘆願したが、受け入れられなかった。

採掘を続けたければ、採掘料を払えと言われた為、

仕方なく彼等は、採掘権と言う名目でお金を払い、仕事を続けているが、取り分がかなり減ってしまったらしい。

だから、運搬も兼任してお金を稼がなければならない状況になったのだ。



一通り喋ったイリアスは、気が落ち着いたのだろうか、その後押し黙り腕を組みながら寝入ってしまった。



 爽やかな風が野原をかすめ、大型馬の立髪をさらりと揺らし流れてゆく。

のどかな風景は、地平線へと吸い込まれる様に果てしなく続き、車輪と地面が奏でる荷馬車の音が、<ゴトゴト>と心地良く響いていた。


「ねぇねぇ、グスタム子爵とウドクローヌ子爵って悪い人なんですか?」


いつの間にか息子のヤニスの近くで歩いていたカルディアが、疑問に思った事を問い掛ける。


『そ、その質問は、直球じゃないか!……』


ヤブロスが馬の上で焦り気味だ。

デリケートで危うさが滲み出る内容なので、聞き出すなら果てし無く遠回しに話を持っていきたい所なのだが、子供達は直球を投げて……。


ヤニスの表情は、やはり聞かれたくない内容なのか、眉間にシワを寄せながら子供達の方を見た。


「お前等なぁ……、あんま貴族の事について首を突っ込まない方がいいぞ。」


「目をつけられたら終わりだからな」


この話題から子供達を遠ざける様に、言葉を投げ捨てるヤニスだが、その視線は……何故か思い詰めた様に遠くを見つめていた。


そんなヤニスの反応なんかお構いなしに、エルはガツガツ、グイグイ言葉をねじ込んでいく。


「悪い貴族ならやっつけちゃうもんねー」


「ねー!!」


アルガロスもカルディアも、エルと目を合わせながら白々しく身体を横に折り曲げ相槌を打つ。

そんな彼等の身振りや無垢な発言に、ヤニスもヤブロスも呆れ顔だ。


「そう言ゃぁお前達は、何処から来たんだ?」


「バルコリンだよ!」


エルは隠さずそう答えた。何故なら、この親子は人を騙す事が出来ない真面目な職人に見えたからだ。


「バルコリン!? 1週間くらい前に護衛してくれたのもバルコリンの奴だったなぁ」


<ドクンッ>


エル達とヤブロスの鼓動が波打ち、緊張が走る。


この街へ来て、初めて得られる重要な証言になるかもしれないからだ。


「へぇ~。知ってる人かなぁ。何て名前?」


「名前は忘れたけど、結構特徴のある奴だったぜ。髪の毛が上に長くて、剣闘士だって言ってた様な気がするなぁ」


『ペトラオス兄ちゃんだ!!!』


エル達は確信する。そんな分かり易い特徴で、しかも剣闘士と言うなら間違いない。


エルは、目でアルガロスにサインを送る。

するとアルガロスはジリジリと後ろへ下がり、ヤブロスへと近付いていった。


「髪の毛が上に長くて、剣闘士ってのは、エインセルギルドのペトラオス兄ちゃんだ。」


「なにっ!!?」


ヤブロスが騎乗する馬が、少しづつ荷馬車へと近付いて行く。話し声を聞き取りやすくする為だ。

エルは続けて喋る。


「そうなんだ。1人だけで?」


「ああ。いつも護衛の依頼は1人しか出さねぇからな。でもそん時きゃあ管理局じゃ無くグスタム家から直で来たって言ってたぞ」


「……へぇ~。誰だが分かんないや」


「無口な奴だったなぁ。ずっと眉間にシワを寄せてたし」


『……やっぱり何かあったんだ。わざわざ違う街で単独依頼を受けるとは思えない……』


エルが抱く違和感は、みんな同じ様に感じていた。


「ばっくしゅんっ」


イリアスのくしゃみが響く。

ヤニスが振り向くと、寝ている為か少し寒そうに身体を擦っていた。


「そこの赤毛の! 親父寒そうにしてっから、上がって毛布を掛けてやってくれ! その荷物ワインが入ってるから後ろの馬の男に預けろよ。慎重にな!」


「わかった!」


そう言われたエルはヤブロスに荷物を預け、荷馬車の荷台に乗り込んだ。

ヤニスは、背中越しにエルに言葉を掛ける。


「石を沢山積んでるから、気を付けろよ」


「はーい!」


と返事したその時、微弱な違和感が……。


「!!? 魔力?」


何故魔力を感じるのか……。石だらけの荷馬車なのに。

みんなの魔力は把握してる。エルはヤニスに感づかれない様に辺りを見回した。


すると、石の間に留め具が付いた硬そうな箱があるのが目に映る。

そこからかすかに魔力が感じ取れるのだ。


モサミスケールの視線が箱に集中し、何かを思い出したのか、エルの頭にだけ響く様にポツリとつぶやいた。


⇄【……スフラギダ・オラ………】⇄


⇄「こ、これに!?」⇄


“ スフラギダ・オラ ” とは、全てを封印すると言う意味があり、強い魔力を伴う国宝級財宝等を運搬する時に箱にこの魔法を掛けると、関係者以外、他者から感知されにくくなるのだ。


しかしこれは、魔法を研究するクラスB以上の魔力を持つ魔導師(• • •)しか扱えない術……。

イリアス、ヤニスはクラスDの重戦士だから当然扱えない……。


では誰が……。


イリアス倉庫周辺ではそんな魔力は感じなかった。

と言う事は、別の場所でこの箱に“ スフラギダ・オラ ” の魔法を誰かが掛けた事になる。



『クラスB以上の魔導師……。いったい誰だ……』



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