第59話【 巧みな誘導? 】
林に面した古びた倉庫を眺め、回りを注意深く観察している。
『やっぱココだな…』
ヤブロスが契約書を片手に入って行くと、白髭を生やした老爺と40代位のおじさんが、滑車の付いた手動ウインチを使い、大型馬4頭立ての荷馬車に岩を積み込んでいる所だった。
この大型馬はペルシュロン種で、大きなものでは2メートルを超える。体重は1トンにもなり、サラブレッドの倍ほどになる。
性格はおとなしく鈍重だが、非常に力が強いので、重い荷物を運ぶのに適した馬なのだ。
それ以外に、1頭の普通の馬が倉庫手前の馬槽で水を飲みくつろいでいる。
ヤブロスは、回りを注意深く観察しながら男2人に声を掛けた。
「あのう、依頼を受けて来たんですが」
そう声を掛けると、白髭を生やした老爺が振り向き、睨みながら空気の抜ける口調で話し出した。
「ああ、管理局 (フゥ)からだな。俺はイリアス(フゥ)、こっちがヤニス(フゥ)だ」
前歯が無いので息が抜けて聞き取りにくい……。
「ヤブロスです。宜しくお願いします…」
イリアスと言うその老爺は、倉庫の方を指差して眉間にシワを寄せながら早速指示を出す。
「ありゃーお前が乗る(フゥ)(フゥ)馬だ。餌でもやっとけ!」
「それと倉 (フゥ)庫内にエール(フゥ)やワインの荷物 (フゥ)持ちが居る(フゥ)から、もう(フゥ)す(フゥ)ぐ(フゥ)出 (フゥ)発 (フゥ)だと伝 (フゥ)えてこい」
息が抜けまくる言葉遣いに戸惑いや笑いが込み上げてくるも、ヤブロスは敏捷術戦士だ。顔に出すわけにはいかない。
「ハイ……」
『意味が……、多分超ぶっきらぼうだよな……』
ヤブロスがブツブツ言いながら、倉庫へ歩いて行くと、ちょうど中から人が出て来た。
『えっ!?』
一瞬自分の目を疑う。
こちらを見て笑顔で手を振っている見慣れた子供達が3人………。
エル、アルガロス、カルディアだ。
『ハアッ?????』
「き、君たっ…」
とヤブロスが言いかけると、エルはすぐさま元気よく言葉を被せてきた。
「初めまして、宜しくお願いします!」
『?……!!!』
もしかしたら彼等は……、“ 極秘 ” の内容を知っているのか!?……。と、ヤブロスは戸惑い悩んでいる。
何故……。“ 極秘 ” だからこそ理解しがたく確認したかったが、近くには花壇に水を撒く老婆がいるので聞かれたらまずい。
そう考えてるうちに、子供達はその老婆に近付き談笑している。
その話の流だろうか、老婆が腕を痛そうにしていたので、エルが様子を見、カルディアに治癒魔法をサラッと掛けてもらっていた。
笑顔になった老婆に手を振りながら、彼等は荷馬車の方へと歩いて行く。
ヤブロスは馬に餌を与えながら、彼等の背中を見て少し戸惑い呆然としている。
『……、ん━━━━━………』
『どう判断する…。どう行動するか……』
さすがのヤブロスでも、余りにも意表を突いた突然の出来事に、驚きと戸惑いが止まらない。
餌をやる馬が頭を<ゴツンッ>と当ててきて、ヤブロスは反動で仰け反りながらも…無言のままだ。
「おい、にーちゃん。まだか? 出発するぞ」
息子のヤニスから飛んできた言葉で気を取り戻し、いそいそと馬にまたがり、荷馬車の方へと近付いていった。
野原をユックリ歩く大型馬の荷馬車。
重い岩を積んでいるので、人が歩くより少し速い位のスピードだ。
パタラエ村まで片道2時間程の道のりを、荷馬車、エル達、ヤブロスの順に進んでゆく。
『あの発言……。この子達も、エインセルギルドの情報を探しているのか?……』
馬にまたがるヤブロスは、荷物を背負うエル達の後ろ姿を眺めながら、やはり頭が回らない。
荷馬車の後ろに乗るイリアスと言う老爺は、暇なのだろうか、そんなエル達に向けて話し掛けてきた。
「お前達のク(フゥ)ラス(フゥ)は何だ?」
話すきっかけを向こうから作ってきたので、エル達はニコニコ顔だ。
カルディア、アルガロス、エルの順番で手を挙げながら答えていく。
「E、F、Gでーっす!」
「がファファファファッ。男どもは最弱 (フゥ)ク(フゥ)ラス(フゥ)じゃないか!」
息が抜けまくる笑い方としゃべり方で、エル達を煽るイリアス。
「もっと、(フゥ)訓練しなきゃ魔物に喰 (フゥ)われっちまう(フゥ)ぞ!」
「今、訓練中だもんねー!!」
と、エル達は顔を見合わせて白々しく頭を傾ける。
そんな彼等の姿を見ているヤブロスは、” エレティコス秘境 “ のイエローダンジョンの事を思い出しながら、超〜疑いモードだ。
『……多分…。いや、確実に俺より強いのに……』
エルは少し荷馬車に近付きながら、また言葉を交わしていく。
「イリアスさんはクラス何?」
「わしゃー、ク(フゥ)ラス(フゥ)Dのもと重 (フゥ)戦士じゃい。息子のヤニス(フゥ)もな!」
「へっえー、強いんだね! 魔物なんかもやっつけちゃったり!?」
「当たり前じゃ。これでも(フゥ)昔ゃーギル(フゥ)ドに所属 (フゥ)しとったんじゃぞ!」
イリアスはご機嫌なのか、腕をブンブン回している。そんなイリアスを見て、カルディアがさらにご機嫌になる様な話を振っていく。
「すっご〜い!! ね、ね! 力こぶ見せて!!」
「フンッ」
袖を捲り、力を入れるとこんもり盛り上がる力こぶ。イリアスはそれを見せびらかす様に、荷馬車から乗り出している。
そこにカルディアが近付いて、指でツンツンしている。
「うわあ! カッチカチ!! 凄い筋肉ですね! ハンター辞めたって言ってたけど、どうやって筋肉保ってるんですか? この運搬業で? 」
カルディアの言葉に少し詰まるイリアス。
急に真顔になったが、口は動いていく。
「…わしゃー採石屋じゃ……。今じゃあこんなやりたくない運搬業もせな生活していけんがのぅ……」
「やりたくない? なんで??」
とエルが何気なく問い掛けると……。
「グスタムのせいじゃ……」
顔を歪めながらそう答えるイリアスの言葉に、エル達やヤブロスが<ピクリ>と反応する。
しかし、御者をしている息子のヤニスから話を遮る様に言葉が飛んできた。
「オヤジッ、喋り過ぎだぞ!」