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第57話【 溶け込む街 】


 エルは、アルガロスとカルディアから、ちょうど中間地点で2人の魔力の様子を観察している。

これでも、一応守っているのだ。


危険なイティメノス渓谷に放たれた2人……。

それはエルも分かっているが、漂う大陸のドラの言葉が頭をよぎっている。


【 生死を生き抜いてこそ、力が上がる 】


エルは、それを実践しているのだ。

自身が漂う大陸で経験した様に。



それと今回の出来事……。

エルは、モサミスケールと “ 器の強化 ” やそれ以外の事を何度も、何度も話し合っていた。


・霊力の事は禁句


と世界樹のシルから念を押されていたが、仲間からの節なる思いに負けて、全てでは無いが話してしまった事。

それをどう消化するべきか……。


そして、今回起こしてしまったエレティコス秘境での大失態である気絶(• •)………。


体調が悪い位なら動く事が出来るが、気絶(• •)となると話は別。

周りでどんな事が起ころうとも、対処出来ないからだ。


あの時、カルディアの悲鳴がエルを目覚めさせた。それが無ければ………、全滅していただろう。


アルガロス、カルディアからも聞かれたが、気絶(• •)した時の対処法は無いし、何故そうなるのかも分かっていない。


これ迄の経験で、強い魔力に左右されるのかと考えたが、下界以上に強烈な魔力が彷徨う ” 漂う大陸 “ では気絶は一度も無かった……。


では何故………、答えが出ないまま、今も悩み続けているのだ。


ただ、不安定な状態や気絶(• •)状態から抜け出せた時の事を考えると、最初の頃、アルガロスが肩に手を置いた時だったし、今回も、カルディアの声だった。


もしかすると仲間の存在(• • • • •)が、不安定な状態から抜け出るひとつの方法なのではと考える様になっていた。

それに関してはモサミスケールも半ば感じていたみたいなのだ。


それともう一つ重要な事……。


悪魔である混迷の魔術師リーゾックが言っていた、

無へと遷移(• • • • •)されずに殺された悪魔の魔力は、漂う(• •)と。

その間に他の魔力を吸収して、自身の様に形を想造する者もいる……と。


モサミスケールも知らなかったと言う事は、世界樹である、ユグ・ドラ・シル達も知らないのでは…。


そんな答えの出ない悩みが、頭の中をぐるぐるループしているのだ。


「はぁ………」


深い森の中を独り走りながら……、悩みや分からない事だらけで……、大きくため息をついていた。

そんな時、モサミスケールから言葉が飛んで来る。


【 エル、悩んどる場合じゃないぞ。カルディアの生命力(• • •)が消えかかっとるわ…… 】


「えっ!? やばっ!!!」


【 ん? おっ! 生命力が戻ったな!! 】


魔力同様に、生命力と密接に繋がるオーラ循環速度も感知出来る為、生死の判断も出来るのだ。


【 この森…ちゃんと感じ取ってやらんと、あ奴等死んじまうぞ! 】


「ご、ごめん。集中するよっ!!!」




◇◇◇◇◇


━━━ 約1週間後 ━━━


 <ゴトゴトゴトッ>


 入組んだ野原沿いの道を走る、VAL印の紋章が入った2頭立ての荷馬車。

既に日が暮れかけているので、行き交う民衆もまばらだ。


野原から少し先に、防壁に囲まれた灰色に霞んだ街が見える。ドラントスの街だ。


街に近付くにつれ、所々に警護らしき人が立っており、急かす様に行き交う民衆を街へと誘導している。

日が暮れると、魔物が活発になるからだろうか。


行き交う民衆をジロジロ見ながら、時には身分をチェックして道を通しているが、荷馬車が近付くと、護衛らしき人が止まれと指示している。


無論、VAL印の紋章が入った荷馬車も例外ではない。


「止まれー!! 何処の荷馬車だ?」


と剣を片手に、御者専用の荷台横に付けてある紋章を覗き込む護衛らしき人。


剣をチラつかせるので、御者が動揺してオドオドと返答しながら身分証を見せている。


「バ、バルコリンから来たんでさー」


「バルコリン! 荷台を調べるぞ!」


バルコリンと言う言葉にピクッと反応する護衛らしき人。そして、荒々しく荷台の後ろを覆う幌を<バサッ>と開けた。

彼の目に映ったのは、紐で結ばれた沢山の袋。

そして、袋の紐を解き中を確認している。


「なんだ、芋か……」


しかしその下には……光る目がいくつもある。荷物のその下に敷いている板のさらに下。板を隔てた所に光る目は、ひっそりと息を潜めていた。


荷物を軽く調べた後、剣で荷馬車を叩き御者に合図を送る。


「おい、行っていいぞ。もうすぐ閉門の時間だから急げよ!」


「へ、ヘイ。有難う御座います…」



 野原を越え防壁の門をくぐると、すぐさま<ズドン>と門が閉じられる。

日が暮れ、閉じる時間が迫っていた様だ。


街周辺だが魔物に対する厳重さに、チラチラと回りを見ながら御者が驚いている。

門は全部で5箇所有る様で、こちらは南東門。


“ 極秘 ” 任務に就く彼等は、やっとドラントスの街に着く事が出来た。

人気無く古びた家の横に荷馬車を付けると、御者が腰から短剣を出し、静かに3回<コココッ>と木の板を叩いて合図を送る。


すると素早く荷馬車から降りてきた彼等は、1人を残して音無く暗闇に消えていった。

残った1人、ヤブロスが御者に声を掛ける。


「ありがとな! 後は芋を売ってバルコリンに帰ってくれ」


「お気をつけて」


と返事する御者の目が鋭くキラリと光る。

どうやらこの御者は、この様な事に慣れた元ハンター出の商人だった様だ。





 <フォン……>


 夜風がユルリとドラントスの街をすり抜ける。


月夜に照らされた教会の屋根。

その屋根が作る濃くて深い影の中に、ひっそりたたずむ複数の人影がある。


赤い髪…、茶褐色の髪…、淡いピンク色の髪………。

それぞれの瞳が、濃度の濃い魔力を放ち煌めいている………。


その煌めく瞳が……、闇に溶け込む灰色の街を見下ろしていた。


<ゴウオオオウゥゥゥゥゥ………>



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