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第52話【 残虐な魔力 】


 <ゴリゴリッ>


 力を入れたエルの指から異音がする。


「 お前は誰だ 」


醜い魔物(• • • •)を睨みなら、言葉を発するエル。

そのエルの瞳は………縦長に赤く(• •)強烈に光っていた。



<ゴフオォォォー>


エルから残虐な魔力がダンジョン一帯に放たれる。

また一瞬だが、今度は黒い光(• • •)で翼の様な物がエルの背中から放たれた。


残虐な魔力の影響で、皮膚が裂ける魔物達。目を細め、退き、怯え……、逃げる事が出来ないその魔力に戦意を失っていく。


カークスギルドのメンバー達は、その残虐な魔力に耐えきれず皆気絶してしまう。そんな中だが、カルディアと怪我を治してもらったアルガロスは……耐えていた。


しかし、エルの放つ残虐な魔力があまりにも強すぎて、2人の皮膚が裂け始め小さく血しぶきが上がる。


<プシュン、ブシュッ>


『エル……お前はいったい………』


顔を歪めながら耐えるアルガロス。


それを見たモサミスケールが、2人とカークスギルドのメンバーに対して、防御魔法を唱える。


【 トイコス 】


<パァーン>


霊力の光の輪がみんなを包む。

複雑な思いのモサミスケールは……、エルを見つめて悲しそうな表情をしていた。


全てを切り裂く残虐な魔力。

無情にも、放ってしまったエルに変化が起きる。


徐々に黒くくすみながら爪が伸び………、口からは小さな牙が生え…、髪は解き放たれる魔力で逆立っていく………。

その逆立つ髪の合間から……小さな角の様な物が。


その得体の知れない残虐な魔力に、怯えるダンジョン内の魔物達。


ビリビリと醜い魔物の身体からも裂けた肉が飛び散り顔が歪む。


【 な、何だ……この感じたことの無い残虐な魔力は………。それに何だ?黒い光が…… 】


【 あやつは罪深き人間……では無いのか? 】


醜い魔物の表情が険しくなっていくと同時に、下へダラリと伸ばした両手に光が灯る。


冷たい視線を醜い魔物へ向けながらユラリと揺れるエルは、また同じ質問をする。


「お前は誰だと聞いている」


その言葉に反応したのかそうで無いのか、醜い魔物は小さくニタッと笑いながらぎこちなく両手を上げる。

そして、手のひらを全ての魔物達へと向けた。


【 エレンホス・エンケパロス 】


<パパァーン>


怯える魔物達へ向け、大小の赤い魔法陣が飛んでいく。

すると、目が赤くなってざわつきが収まり………。

そして徐々に洗脳された様に高揚して威嚇が始まり、狂った様に雄叫びを上げながらエルを襲いだした。



<グオーオオゥ、グオゥッ、ギギッギギッ、バフウフウ、ギャオウ、ギギギッ、ゴリゴリジャリッ、グオゥ、グオゥッ、グルルルルー、ブシュッブシュッ、バフガグウ、ギャウッギギャウッ、グオゥグオゥッ、バホウッバホウッ、ブフーブガフー、ギャルルルル、ダホゥッホゥ、ギャギャギャブフー、ヴァググー、グオゥッ、ギギッギギッ、バフウフウ、ギャオウ、ギギギッ、ゴリゴリジャリッ、グオゥ、グオゥッ、グルルルルー、ブシュッブシュッ、バフガグウ、ギャウッギギャウッ、グオゥグオゥッ、バホウッバホウッ、ブフーブガフー、ギャルルルル、ダホゥッホゥ、ダギャブフー、ヴァルルー……>


覆いかぶさる様に襲い来る魔物の群れ。

しかし、魔物の爪が届きそうになった時、その場からエルの姿が突然消えた。



<ゴフォウッ>


魔物達の足元から黒い(• •)炎の渦が立ち上がる。

そして………、


<ブババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババッ>


黒い炎が、生きた様に荒れ狂う。


その黒い炎に魔物の群れが裂かれ、引きちぎられ、押し潰され……、原型が無くなっていき………、また黒い煙がもうもうと立ち上がった。


生きた魔物の群れは全て黒い煙へと………。


醜い魔物が辺りを見回すが、黒い煙に視界を遮られエルの姿は見つからない。


【 ……罪深き人間では無い………。あの魔力は、力は……、同族種か? 】


【 !? 】


醜い魔物が残虐な魔力を感じ、上を見上げた瞬間、身体に強い痛みと衝撃が走る。


<ドゴォン>


戦う事も出来ずに地面にめり込む醜い魔物。

そして……、身体から黒い炎が立ち上がる。


【 グオオオオー 】


肉体が裂かれ、引きちぎられ、押し潰され……………叫び、苦しむ醜い魔物。

その上には醜い魔物を踏みつける様に、エルがたたずみ見下ろしていた。


<ズボッ>


肉を刺す鈍い音が響く。


【 ブウグッ 】


醜い魔物の、声にならない叫びが口から漏れる。顔が苦痛に歪み、逃げ出せない地獄の苦しみが押し寄せる。


エルが素手で醜い魔物の心臓を貫き、体内でコルディスコアを掴んでいたのだ。


「お前は誰だと聞いてるんだが」


赤い瞳を輝かせるエルの表情は……、笑っている様にも見えた。



<スポンッ>


突然、エルの頭にモサミスケールが帰って来る。

徐々にエルの表情から厳しさが消え、赤い瞳が元に戻り、いつもの幼さが残る顔へと。


⇄【 エル、情報を聞き出すまでは…… 】⇄


⇄「うん、分かってる」⇄


心臓と密接に繋がるコルディスコア。

魔力の塊であり原動力となるこのコアは、あらゆる神経線維に包まれており、非常に刺激に敏感な部位である。


エルは、それを握る手に力を入れていく。


【 グオオッ 】


身体全体に行き渡る極度の激痛が醜い魔物を襲い、声にならないうめき声が力無く漏れる。


エルは少しづつ手の力を抜き、睨みつけながらしばらく様子を見ていた。


徐々に身体から力が抜けていく醜い魔物。

エルを睨みながら……醜い口が歪んでいく。



【 ………………………… 】



【 ………よ……余は堕天使(• • •)ワームウッド に仕えるプロトス(第1)系譜の悪魔(• •)だ 】




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