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第51話【 侵食する祝福 】


 <ガボンッ>


 聞き慣れない響きと衝撃が走る……。


振りかざしたトロゴコングの指が………アルガロスの身体を貫いていたのだ………。


トロゴコングの指に突き刺さった状態で、上へと高く持ち上げられるアルガロスの身体。

貫かれたショックで既に意識を失い、ぐにゃりと曲った身体がカルディアの目に映る。


近付く事が出来ない、回復魔法が掛けられない状況………カルディアの目から……大粒の涙が溢れ出す。




「いやあああああああああああああ━━━━━━」




カルディアの悲痛な叫びがメンバーの胸を打つ。

クラウディー含めたメンバーの誰もが、恐怖で動けない精神状態の中、カルディアの張り裂けるような悲鳴が……彼等の胸を締め付けていく。


カルディアは……やりきれない、叶わない思い……届かない願いと分かっていたが………、身体がアルガロスの方へと引き寄せられる様に、トロゴコングの方へと走っていた。


ダンブールに背負われた赤い髪の少年の耳に、カルディアの叫び声が突き刺さる。

眉がかすかに動き、力無く目を開くと……。


かすれた視界に、揺れる背景。

その先には………恐怖に満ちた表情の………、

“ スパラグモスゴリラ ” に持ち上げられたカサトス(• • • •)の姿と、うずくまるラミラ(• • •)の姿が……。



<ドックンッ>


一度大きく、心臓の波打つ鼓動が身体を駆ける。

白い……黒い……赤い……黄い……、翼の様な光が脳裏を身体を激しく揺さぶる。


<………………ドクンッ…>


   <………………ドクンッ…>


      <………………ドクンッ…>



<ドクドクドクドクドクドクドクドクンッ……>



激しく波打ちだすエルの鼓動。一年前の三段石の悪夢が蘇る。

14年間一緒に歩んできた幼馴染のカサトスとラミラ。

目の前でスパラグモスゴリラに惨殺され、心に深い傷が刻まれた……あの惨状が………。


かすれ、揺れる視界がエルの心を……深く、深くえぐっていく。



<ドクドクドクドクドクドクンッ…>


<ドクンッ………………………………………>


<……………………………………………………>



荒れた身体の中が、突然静寂に包まれる。

今まで強く打ち付けていた心臓の音が……遠く流れて消えていく。

それはまるで……何か(• •)の力に侵食された様に………。



かすれた視界が徐々にまとまり、

揺れる背景が次第に収まっていく………。


カサトスの姿が………、


太く長い指に突き刺さり、口から血を流し、既に意識が無く、ぐにゃりと曲ったアルガロスの姿に変わっていく。


そこに走っていくラミラの姿が……カルディアの姿へと。


エルの目が、瞳が……激しく痙攣している。

と同時にモサミスケールも…大きく目を見開いていた。



<シュンッ………>



カルディアの髪が激しく揺れ、何かの風圧に押されてふわりと倒れ込む。


その瞬間………。



<バチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバチバズンッ>



稲妻の弾ける様な轟音が響いたのと同時に、血しぶきが上がり、引き裂かれた肉片が散乱する。

トロゴコングが居たその場から……原型無く黒い煙だけが立ち上がっている。


支える物が無くなって、落ちて来るアルガロスの身体。


それをフワリと抱きかかえたのは………、

エルだった。



『…… エ …… ル ……』



震えるカルディアは、ポツリと心でそうつぶやく。

エルはカルディアに歩み寄り、そっと地面にアルガロスを寝かす。


「ごめんね、アルガロス……」


「カルディア、ごめんね……遅くなって。怖かったよね………アルガロスを頼むよ」


声を掛けられたカルディアは、言葉が出て来なかった。

エルの澄んだ目が……淡く白く(• •)光っていたからだ。


エルはそのまま、モサミ(• • •)スケール(• • • •)をカルディアへ被せた。


「モサミ、()からみんなを守ってくれ」


モサミスケールは、一瞬目を大きく見開くが、諦めた様に視線を下に向ける。


エルはそう一言残して、魔物の方へと振り向き立ち上がった。



玉座の様な物に座る崩れた身体の醜い魔物が、ズルリと立ち上がる。


『【 また……不自然な力……。 肉体の消滅? いったい…あの小さな魔力は……何だ? 】』


醜い魔物が、また長い指をクルリと回す。


すると、彼等の近くにいた魔物達の目が赤く光り、雄叫びを上げなら襲って来た。


カークスギルドのメンバーは、皆身構えるが勝算は全く無い。それどころか……身震いが止まらないのだ。

襲って来る魔物全てが、彼等より遥かに強い事が分かっているからだ。


その時、



<バリバリバリバリバリバリバフンッ>



また稲妻の弾ける様な轟音が響いた後、無数の雄叫びが突然消えた。血しぶきが上がり、細かな肉片が宙を舞う。

そして、その場一帯からまた黒い煙が立ち上がる。


一瞬にして、彼等の回りにいた魔物達の姿が消えてしまったのだ。

何が起こったのか分からないカークスギルドのメンバー達が、棒立ち状態で立ちすくんでいた。


その様子に目を細めた醜い魔物が、玉座からぎこち無く<ズルリ>と身体を引きずりながら下りて来る。


『【 ……あの黒い煙は、()へと遷移されているのか!? いや…有り得ん!! 】』


()へと遷移されると言う事は、魔力が強い霊力によって打ち消しが始まっていると言う事だ。

霊力を操れる存在は、この地、下界には精霊しかいない。人間は、魔力しか扱えないのだから。


そんな中、ゆらり佇むエルの背中。

一瞬だが、その背中には……薄っすらと輝く翼の様な白い光(• • •)が、左右に一つずつ見えた……。


<ゴリゴリッ>


力を入れたエルの指から異音がする。


「 お前は誰だ 」


醜い魔物を睨みなら、言葉を発するエル。



そのエルの瞳は………縦長に赤く(• •)強烈に光っていた。




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