第42話【 傷つく仲間 】
<ゴオオオォォォ………>
土煙が舞い上がる中、剣を握るアルガロスの姿が浮かび上がってきた。
その後ろにはエルをかばい、しゃがみ込み抱きかかえるカルディアの姿が。
アルガロスが、豪速で飛んでくる魔光石を……剣で打ち落としていたのだ。
「カルディア…エルも…大丈夫か?」
その声でカルディアはアルガロスの方へと目線を向けると………。
<ポタッ…> ・ ・ ・
<ポタッ……> ・ ・ ・
<ポタッ…> ・ ・ ・
滴り落ちる赤い血………。
それを見たカルディアの目から涙がこぼれ落ち、弱々しく言葉が漏れる。
「アル……ガロス………」
アルガロスは……エルとカルディアに当たりそうな魔光石を自身より優先に打ち落とし、払い除けていた為……、身体中に魔光石が突き刺さっていたのだ。
「ゴフッ」
膝から崩れ落ちるアルガロス。
<ガキンッ>
膝は着いたが剣を地面に突き刺し、それを支えに上体は辛うじて倒れるのを防いでいた。
“ 助けなきゃいけない仲間 ” その思いと意地がアルガロスをそうさせていたのだ。
「カルディ…ア、早く…アルガ…ロスの回復を」
モサミスケールに全身包まれたエルが、意識を取り戻した様だ。しかしまだ身体は痺れ、辛そうにしたまま。
「エ、エル! 大丈夫なの?」
「俺は大丈…夫! 早くア…ルガロス…を」
詰まる声だがエルははにかんだ笑顔でそう言って、アルガロスの方へとカルディアを優しく押し出した。
「くうっ」
カルディアは涙を堪えならアルガロスに手をかざし、今の自分の持つ最大の治癒魔法を《杖を使わず》詠唱する。
「パーフェクトヒール」
<パァーン>
暖かく優しい光がアルガロスを包む。
瞬時に完全回復するアルガロス。
カルディアの治癒魔法は訓練の成果か、既に高域に達している様な効果が出ていたのだ。
「カ、カルディア……す、凄い回復力だ……」
深い傷が完全に消えたアルガロスは、自身の身体から力が湧き出てくる感覚に驚いていた。
<ガギガギガーン>
<ボフウッ>
「み、みんな大丈夫か?? マイケル? ナイーサ? ヤブロス?」
「くそっ……、ダンブール、ヘルン、リース??」
「子供達は……?」
土煙がまだ残っており、後ろの状況が分からない。
激しい傷を負ったクラウディーが声を上げながら、トロールカレットに小さな力で独り抵抗している。
返事の無いメンバーの所に今直ぐ飛んで行きたかったが、目の前の魔物をどうにかしないと今度こそ終わりだと痛感していた。
クラウディーはこのダンジョンに入ると決めた自分の判断と、力が及ばない不甲斐なさにさいなまれながら……。
「アルガロス、先ずクラウディーさんに団子を渡してそのままフォローを頼む!」
「アイツを何とか食い止めないと、さっきみたいな攻撃があったらみんなが危ない」
エルはカルディアに肩を借りながら立ち上り、アルガロスの腕を<ギュッ>と握り締めながら願う様にそう伝えた。
「カルディアは他のメンバーに団子を配ってから傷の回復後、距離を取りながら支援を!!」
と言いながら、アルガロス、カルディアからそっと手を放した。
ふらつくエルだが、自分の足でなんとか立っている。
「エル………、お前は大丈夫なのか?」
心配なアルガロスは小さく手を伸ばすが……、エルがあの ” ゼブロスポーズ “ を笑顔で決めた。
「うん! もう平気さ!!」
【 ワシの防御力は鉄壁じゃからな! 】
それを見たアルガロスとカルディアから笑顔がこぼれる。
「よっしゃ、行ってくる!!」
「分かったわ!」
走り去るアルガロスとカルディアの後ろ姿が、エルの瞳には頼もしく映っていた。
土煙が徐々に晴れてくるダンジョン内。
身体に刺さった幾つもの魔光石を……激痛を耐えながら抜き取るクラウディー。
そんな中でも、襲い来るトロールカレットに苦戦しながら後ろを確認すると……。
ゴブリンデフォームの死体の間に、見覚えのある姿が横たわっている……そんな悲惨な状況が脳裏に焼き付いていく……。
眉間に深いシワを寄せ、歯を食いしばり考えるが策が出てこない………。
『……どうすれば助けられる……。どうすれば……』
そんな時………、
<ガクンッ>
クラウディーの想いとは逆に、身体から力が抜けていく。
体力、魔力の限界が襲って来たのだ。
ゆっくり振り上げられる、トロールカレットの鈍く輝く太い腕。
その腕が、今のクラウディーには避けることが出来ない大きな山の様に見えていた。
逃げられず、動かない身体……。
その身体でただ…見上げる事しか出来なかった…。
『みんなの命が無くなる………。俺の道は間違っていたのか?………』
<ブオンッ>
勢いよく振り下ろされるトロールカレットの腕。
クラウディーは……歯を食いしばり、睨む事しか出来なかった。
<シュンッ … … ザザッ … … >
<ガキーンッ>
<バリバリバリバリガキンッバリバリバリバリガガッバリバリバリバリキンガキンッバリバリバリ>
割れ弾ける轟音、裂ける響き、斬り刻まれる魔光石の………腕……。
何故か粉々になった魔光石の屑が、キラキラと輝きながらクラウディーを包んでいく。
淡い光がチラチラと反射し、クラウディーの視線を優しく遮る。
手をかざし、反射してくる光をそっと避けながら
目を凝らす。
すると……光る魔光石の向こう側に浮かび上がってきたのは………、
茶褐色の髪を持つ少年………保護下のアルガロスだった。