第37話【 カークスギルドのマスターは 】
澄んだ青空が大地を覆い、鬱蒼と生い茂る木々がそそり立つ。
その木々達に命を送る様に小川が流れ、心地良く歌う様にせせらぎが聞こえてくる………。
━━━━━大自然。
しかし魔力濃度が高い未開の地であり、見知らぬ魔物が徘徊する場所。
そう、ここは開拓の進まない危険な地……………、
”エレティコス秘境“
そんな場所で、3人の子供達が無邪気にはしゃいでたのだ。
⇄「やっぱりハンターだったね!」⇄
⇄【 しかも、結構強い奴もいるな 】⇄
エルとモサミスケールは、だいぶ前から近づいてくる彼等の事を察知していたのだ。
カークスギルドのメンバーが子供達の方へと近づいていく。
「おーい君達、こんな危険な地域でどうしたんだ?」
クラウディーは子供達の身なりを見てハンターだろうと勘づいたが、違和感を捨て切れず探りを入れる為に、先に自分達の事を告げた。
「俺達は、バルコリンから来たカークスギルドだ」
「カ、カークスギルド!?」
そのギルド名を聞いてアルガロスが驚いている。
勇猛果敢で有名なギルドだからだ。
そんなアルガロスの反応を見たエルは、キョトン顔。
「どした? アルガロス」
「カークスギルドって、バルコリンで 一・二を争うギルドだぜ!! スッゲー!!!」
軽くうなずき、腕を組みながら茶髪の少年の話を自慢気に聞いているクラウディー。
「そうなんだ!?」
エルは、そういう事に無関心と言うか、興味が無いみたいだ。
小川から上がってきたエルは、足を拭きながら素直に答えた。
「訓練だよ!」
「く、訓練!?」
「うん! ハンターとしてやってける様に!」
クラウディーは、ハンタークラスの上下は本来年齢で判断出来ないが、大多数はそれに比例する事は分かっている。
しかし、秘境迄来ていると言う事はそれが当てはまらない可能性がある為、上位クラスなのかと思い子供達に聞いてみた。
「君達のクラスは?」
子供達は手を上げながら、カルディア、アルガロス、エルの順番で満面の笑顔で答えた。
「E」「F」「Gでーっす!」
「え━━━━━━━━━━━━━━っ???」
驚き叫び声を上げるカークスギルドのメンバー達。
ここエレティコス秘境は危険なので、クラスC以下だけで来る所では無いからだ。しかも、低クラスの3階級だけで来る事は超絶死活問題。
「ほ、本当にEFGか?」
クラウディーは、この場に来る迄に沢山危険があったはずだと考えていて、半信半疑……。
「ほらっ」
と、エルは元気よくハンターカードを見せた。
つられてアルガロス、カルディアも見せている。
「ま…まじか………!?」
ハンターカードを確認しているクラウディーの手が震えている。事実を突きつけられているからだ。
しかも、エルのハンターカードの発行元はバルコリン……。疑う余地は無かった。
「………」
『こ、ここに来る迄に魔物に会わなかったのが幸いしたんだな……。なんて幸運な子供達だ!!!』
クラウディーは、勝手にそう解釈して顔に手を当てた後、両手を空に上げ涙を流し天を仰いだ。
『神様、この子達を守ってくれて有難う御座います!!』
そんなマスターの姿を見ながら、頭が『……』なメンバー達。” また何かが始まった “ と顔を揃えて眉を落としていた。
クラウディーは、感動すると涙もろくなるのだ。
しかも思い込みが激しいと来てる……。
セカンドマスターのナイーサが、そんなクラウディーに話しかける。
「ど…どうする? このまま放置したら魔物に殺されるわよ………」
両手を腰に当てた後、ずっと天を仰いでるクラウディー。とても……難しい表情で固まっていた。
そっと彼等に目をやる。
屈託の無い満面の笑顔がキラキラ輝いてる………。
クラウディーは眉間を指で擦り、ため息をついた。
「はぁ……」
「仕方ない。これもギルドとしての使命だ」
キリッとした表情になり、<ビシッ>とエル達を指差した。
「君達をカークスギルドの保護下に置く事にする」
<ヒュオオォォォ………>
少しの時間、指差しキメポーズをとるクラウディーと、その他大勢の間に無言の時間が流れる………。
「ええ〜??……」
「俺達自由がいいのになぁ〜」
エルの本心が、悶える様に口から漏れる。
それに呼応する様に、アルガロス、カルディアも大きくうなずいていた。
「駄目だダメだ!! こんな危険な秘境に置いていくわけにはいかない」
「訓練なら、もっと安全な場所でしないと!!」
クラウディーはギルドマスター。
しかも、真面目で正義感溢れる生粋のリーダーだ。
一度決めたら貫き通す意志はハンパない……。
変な所で涙もろいが。
「あぁ〜あっ……。楽しい訓練終わりかぁ……」
エルは、半ば諦めモードで顔を振る。
そんな彼等の前で、仁王立ちのクラウディー。
「安全な地域まで保護するからな! 安心したまえ!! ア~ハッハッハー」
子供達に胸を張りながら自慢げに答えるクラウディー。
そんな自分達のマスターの姿を、痛々しい目で見ているメンバー達がいた……。
そして、皆同じ疑問が頭をよぎる。
『ギルドの仕事は?……』と。
セカンドマスターのナイーサが、ぼそり頭の中でつぶやく。
『仕事の事…頭から飛んでるわね……』
ナイーサは指を頭に軽く当て、首を振りながら口は真一文字。
そして、クラウディーの腕を<ポン>と叩いた。
「じゃあ、依頼を一時中断して戻るって事でいいのね!?」
「あっ………」
クラウディーの焦った顔に、沈黙のメンバー。
やはり依頼を忘れていたのだ……。
『良い人なんだけど、猪突猛進、一方通行、頑固な子供………なのよね』
このカークスギルドは、ナイーサが居ないとまとまらないのが現状だ。その事は他のメンバーも分かっているし、クラウディー本人も自覚している。
「ヤブロス。クラスEFGの安全な地域ってどの辺りだと思う?」
「せめて街近郊だな………」
ヤブロスはそう的確に答えた。
クラウディーが決めた事をナイーサがまとめていく。
そんな話の後で、白目をむくクラウディーの姿が………霞んでいく……。
<ヒュオオォォ………━━━━━━━>
そんな空気の中、エルがぼそりと一変する言葉をこぼす。
「じゃあ……そこにあるイエローダンジョンはお預けかぁ………」
「えっ???」
「なに!!!!!?」
「ウソッ??!」
「ギャアアアア━━━━━━━ッ」