第169話【 変わりゆく力 】
「えっ?」
女性ドワーフから戸惑いの声が漏れる。
崩れ行く盗賊団と、その後ろに佇む赤黒い瞳を揺らす人間の茶髪少年……。
「大丈夫か!?」
唐突なその言葉に不安は払拭出来ないが、何故か小さな安心感が沸いてくる……、が、涙を流しながら火の手が上がる建物を指差した。
「あっ、あの中にお爺さんがっ」
「助けるのは1人だな!」
「えっ? うん。でも大怪我してて動けないのっ」
<バッッッ>
女性ドワーフの言葉が終わるのと同時に、素早く建物へと飛び込む茶髪の少年。
しかし不運にも、突然建物が崩れだした……。
「きゃあ━━━━━━━━━━━っっっ」
女性ドワーフの悲鳴が響く。
<……トッ……>
目の前に現れる…、崩れ行く建物に入って行った茶髪の少年……。
今……、今さっき飛び込んで行ったばかりなのに。
これはアルガロスのスキル、” 祝福された空間認識 “ が既に発動している事を意味する。
その腕には……、アルヴィースのお爺さんのガージルが抱えられていた。
女性ドワーフの潤んだ瞳から再び涙が流れ落ちる。
茶髪の少年は、そのお爺さんを <ふわり> 目の前に優しく立たせた。
「な……、何で?……」
女性ドワーフの心の声が漏れ出ていく。
あれだけ酷い暴行を受けていたのに……。
お爺さんの姿が…、状態が……、元気な時以上に元気に………!?
「アルヴィース、心配かけたのぅ。もう大丈夫じゃ!」
「この兄〜ちゃんに無理やり変なもん食わされたら元気になってしもうた!!」
「へっ??」
にっこり笑顔の茶髪の少年が、葉っぱに包まれたドス黒い丸い物を持っておどけてみせる。
そして、アルヴィースと呼ばれる女性ドワーフに渡した。
「大怪我した時それ食ったらいいから! 賞味期限の無い万能薬だぜ!」
「それとこっから向こうはもう安全!」
「その東側に ” カルディア “ って言う女の子がいるから何か手伝ってやって!! 」
そう言い終わると、アルヴィースが感謝する間もなく消える様に素早く何処かへ走り跳んで行った。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が暮れた小高い丘の中腹。
整備されてない林が茂っているので見える範囲は限られているが、それでも薄らと見渡せる。
歪な乗り物に乗る、カラフルで重厚感ある服を着た大柄なドワーフ(頭と呼ばれる男)が仲間達の魔力の不自然さに目を細める。
『消える…、動かず……』
そう心で呟いた後、急に立ち上がり怒鳴り声で髭の長い小さなドワーフに指示を出した。
「おい! 撤退音だ!!」
その時──────────。
<バホウッ………>
突然髭の長い小さなドワーフの身体が黒く染まり、風に流され消えていく…。
しかし、即再生し痙攣しながら倒れていく。
何が起こったのか分からない頭は、素早く魔力の検嗅遮探知を強めていく……が……、何の変化も感じない。
しかし、今迄に感じた事の無い懐疑や不審感が込み上げてくる。
『はぁ? 何だこの静寂は……』
<フォゥン………>
『なあっ!??』
突然目の前に人間の赤毛の少年が現れ、目をつむりながら <ユラリ> 佇んでいる。
頭は検嗅遮 “ 探知の魔法を目の前の赤毛に集中させるが……。
『……反応が無い!?』
「……どんな力を持ってるか知らんが、クラスSに近い魔力を持つ俺様の前に安易に出て来るとはバカな奴だ!」
今迄に負ける、屈服するという経験をしたことが無いこの男。
頭がそう言い見下す様にニタッと笑うと、それに同調した様に赤毛の少年も薄ら笑いを浮かべる。
その口には小さな牙がうごめいていた。
赤毛の少年がユックリ目を開くと……。
猟奇的な表情をするその目は、瞳が赤黒く輝いていた。
頭の表情が驚愕する様に歪んでいく。
赤毛の少年は魔力は上げていないが、頭に与えたものは……、恐怖、脅威、そんな次元じゃなく、今迄に感じた事の無い戦慄が身体を貫いたのだ。
それは、魔力操作に携わるスキルを持ち、かつ高度なクラスになればなる程感じてしまう魔力の質とその差……。
それを、初めて感じたのだ。
痙攣する頭の瞳から何故か血が流れていく……。
『逃げっっ!!!!!!!!!!』
と思った瞬間─────────。
<ガシッ>
顎を掴まれる頭……。
赤毛の少年とは少し距離が空いていたにも関わらず、一瞬で目の前に……。
少年は……、その赤黒い瞳で頭と呼ばれる男を笑いながら睨んでいた。




