第164話【 パノプリア・マゲイア(魔武具) 】
【 パノプリア・マゲイア……と言えば分かるであろう 】
その言葉にヨウン博士は一瞬目を見開くが、また直ぐ背を丸めうつむいていく。
パノプリア・マゲイア……。
それは、創の匠の不思議な力、魔力によって、武器や防具に頂き(神の領域)を刻み込む創造と創製の魔力を練り込み創った魔法具の事。
「そうか……。やはりな………」
圧倒的で膨大な魔力を持つ魔女……。
その魔女が欲するのは分かるが、何故今なのかと不安と疑問がヨウン博士の頭を過っていく。
マレフィキウムは、ヨウン博士の心の揺れを感じ取り、少しでも解消されればと自身の呟きに言葉を足していく。
【 勘違いしておる様じゃが、余が求めているのでは無く、こ奴等の為じゃ! 】
唐突に向けられたマレフィキウムの目は、エル達を見つめている。
そんな予想外な視線と発言に、ヨウン博士から声が漏れた。
「えっ??」
【 ……詳細は言えぬが、こ奴等の身体を悪意のある魔力から守る為じゃ 】
【 そこの眼鏡から報告を聞けば分かる事じゃがな 】
マレフィキウムの冷たい視線が、今度はシグルズに向けられる。
元はと言えば、何の報告も無しにヨウン博士の元に彼等を連れて来てしまったのが事の始まり。
それはエルに混迷魔法を掛けられていたのが原因だが、本人はその事を知らない。
それに、早くにその魔法は解呪されていたにも関わらず、何の報告もしなかったシグルズにその役目を果たせと言う事の様だ。
突然大舞台へと担ぎ上げられたシグルズは、緊張感からか、しどろもどろになりながら身振り手振りでヨウン博士にその経緯を説明しだした。
「あっ、か、彼等は……」
急に振られたシグルズは、焦る様に言葉を吐き出していく。
「彼等の魔力は小さい…はずなんですが、回復力がズバ抜けていて。それを分かった上で非常に無茶をする様なんです。今回も彼等のお陰でクラスAの悪党を逃がすことなく確保出来たんですが、その代わり彼等は生死を彷徨う悲惨な状態になってしまいまして……」
と冷や汗を流しながら必死に、それでいて簡素に説明したのだ。
緊張からか胸を手で押さえ、肩で息をしながら自身を落ち着かせ様とするシグルズ。
<ピコッ>
ヨウン博士のピコピコハンマーがシグルズの頭を軽く打つ。
彼の緊張感を <ピコッ> という軽やかな音が和らげているのだ。
「成る程。無茶するが故、上位魔力にも耐えうる装備が必要と考えた訳じゃな。それに非常に複雑な魔力を持ち合わせているみたいじゃしな……」
「それでパノプリア・マゲイアか」
ヨウン博士は短い腕を組み、大きく頷いているが、マレフィキウムは一度軽く頷いた後、再度6代目の墓石の方を見て目を細めた。
【 そうじゃが…… 】
【 今思えば、そう余に考えさせたのは創の匠だったのかもしれん… 】
マレフィキウムの不確定な言葉に、ヨウン博士のヒゲや髪の毛に覆われた口が <モゴモゴ> と動く。
「どう言う事じゃ?」
【 上位魔力に耐えうる装備なら、ここの “ 匠 ” でも充分作れるはず 】
【 では何故…、創の匠の事が頭を過ったのか 】
【 色々あり…、名を取り戻す事が出来…、余の魔力が以前のモノと変わった事に気付いた今は亡き6代目創の匠の魔力が、余を呼んだ気がするのじゃ……。今度はドヴェルグの為に力を使え……と 】
【 余の魔力を岩山達は見抜いていたはず。じゃが何故岩山達は余を引き入れたのか。それは弱りつつあるドヴェルグの地の為に創の匠を探せと言う事じゃろう…… 】
【 パノプリア・マゲイアを作る為には、創の匠の力が必然じゃからな 】
【 創の匠が見つかれば、この街の薄れ行く力も保たれる事になるからの 】
ヨウン博士の目が大きくなる。
不思議な力を持つ創の匠の残存する魔力、能力が、あの魔女であるマレフィキウムをも動かしてしまうのかと驚いているのだ。
「成る程!! 創の匠の魔力を唯一知るお主、マレフィキウムに探して貰おうって事か!」
「命を捨て、新たな命を創造する。数千年前にドヴェルグの現状を見透かした様な……」
「何とも罪深きプシュケー じゃのう……」
ヨウン博士のその言葉に、モサミスケールとマレフィキウムは目を合わせ、回りに分からない様に小さく笑顔を作った。
「そっか!!」
と、突然カルディアの目が輝き出す。
「それに、覚醒していない魔力や力だから私達にも手伝えと! 」
エルもアルガロスも、拳を作りながらカルディアの発言の意図を知る。
「成る程! そう言う事か!! 」
「だからデタラメな俺達も岩山に引き入れたのか!!」
「じゃあマレフィキウムとカルディアで魔力の同期をしてマギア・ディテクションの魔法でそれらしい魔力を探してみてくれよ!」
【 そうじゃな。それらしい魔力をな! 】