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第163話【 無惨な時の流れ 】


 蠢く黒い守護者達。


<ジワリ> と近付くが、その女性に手を伸ばそうとはしない……。

彼女の心を……、本心を探る様にゆらゆらと蠢くだけ………。


艷やかな唇が、魔力を漂わせながらみんなを引きつける様に動いていく。


【 余なら(そう)(たくみ)の魔力を感じ取れるかもしれん 】


その言葉に皆は驚き目を見開く。

その後に発せられた言葉が…、さらにみんなを拭えない過去の惨事へと引きずり込む。


【 唯一殺された(そう)(たくみ)……。それは…… 】


無惨な時の流れ…。

モサミスケールは目を閉じ、マレフィキウムの言葉が流れるのを静かに待っていた。


【 余が殺した者の事じゃ…… 】

*第146話参照


<ガサガサガサッ>


黒い守護者達が何かに抵抗している様に激しく揺れ動く。

張り詰める空気と、守護者達が発する魔力が強くピリつきながら空間を彷徨っていく。


みんなの身体にもその緊迫感が伝わっていく。

そこには…、守護者達の複雑な感情が充満しているのだ。


しかし、ヨウン博士は身を乗り出しながらその女性に矛盾を問いかける。


「な、何を言っとる。古文書では数千年前の出来事じゃぞ!?」


小さく頷くマレフィキウム。


【 余は不死(• •)じゃからな…… 】


「不死……!?」


そう言葉を漏らし、困惑しながらヨウン博士がエル達に視線を送ると、少なからず頷いた様に見えた。

と言う事は、彼等はこの女性の事を知っていたと言う事になる。


「き…、君達はいったい何者なんじゃ……」


ヨウン博士の問いかけに反応出来ないエル達は沈黙するしかなかった。

自分達の置かれた状態を説明しようにも…、あまりにも複雑で危険で……。


しかし、今は目の前に立つ……、自らを魔女と名乗る危険な古の存在から目を背ける事は出来ない。


マレフィキウムと名乗る女性は墓石を見つめ、遥か過去の記憶を辿っていく。


【 6代目の(そう)(たくみ)……。こやつの名はローラン(• • • •)と言ったか…… 】


ヨウン博士はその名に驚愕すると同時に、彼女が…古の魔女、マレフィキウムだと言う事を強制的に受け入れるしかなかった。


墓石には名前など刻まれていない……。

刻まれているのは古の文字で ” 何代目 “ かと、簡易的な匠の容姿が描かれているだけだ。


(そう)(たくみ)及びその関係者だけが知る古文書に名前は記されているが、それを知るのは今となってはヨウン博士だけ。

匠の名はドヴェルグの民にも知らせていない。


それなのに……、目の前の女性が……。


「……そうか…。そなたじゃったのか……」


「えっ? どう言う事?」


エル達はマレフィキウムのその過去の事は知らされていない。知っているのはモサミスケールだけだ。


今を生きるヨウン博士の、“ 彼女の話を受け入れた ” と取れる発言と、壮絶であったであろう過去の記憶が残っていたと取れる言葉に、少なからず驚いていた。


ヨウン博士は、古文書の記憶を呼び覚ます様に言葉を繋いでいく。


「…遥か過去、(そう)(たくみ)が現れれば、街を上げて大々的に世界へ向けて宣伝しておったみたいじゃ」


「力ある者が降臨した事実を世に知らしめ、攻めて来ぬ様にと…、防衛と力の象徴としてな」


「しかし古の刻、それが仇となってしまう出来事が起こる。(そう)(たくみ)の力を利用しようとした者が現れ、命を奪われた……とな」


「詳しい内容やその者の名などは記されておらんが、それ以来、(そう)(たくみ)と言う称号は表に出ない様にしておったみたいじゃ」


「強大で不思議な力を持つが故、利用されてしまう。それを逃れる為に隠しておったのじゃ……」


ドヴェルグの壮絶な歴史……。

多くを語らないマレフィキウムだが、彼女がその壮絶な過去に関わっていたと言う事は分かる。


しかも……、命を奪っていたとは………。


「だからみんなは知らないんだ……」


エルはそう言いながら辛辣な顔を作る。

しかし直ぐ決意とも取れる表情を作り、そっとマレフィキウムを背にして佇んだ。


それは……、今は自分達の仲間だと言う事の表れ。

過去は拭えない。だけど…、だから必要な存在である事には変わりない。


しかし…、マレフィキウムはエルの肩にそっと手を触れながら顔を小さく振る。


処遇はドヴェルグの民に任せろ……、という事だ。


ヨウン博士も同じ様に首を振る。

猟奇的な古の魔女である者のその仕草…。

他者に身を…、命を委ねる筈はないのだが……。

その真意は分からないが、彼等の純粋な心は分かっているつもりだ。


何より守護者達が……。


ヨウン博士は、緩やかに <ニコリ> と微笑んだ。


「どうこうせんし、出来る訳が無い…。岩山がお主達を引き入れた事実があるのに、それに反する行動は出来ん」


そう言い、ヨウン博士はただの小さな石に<チョコン>と腰を降ろした。

そして複雑すぎる一連の流れを、頭を整理する様に大きくため息をつく。


「しかし…、お主は何故再びこの地に現れたんじゃ?」


その問い掛けに、素直に…包み隠さずマレフィキウムは口を動かす。



パノプ()リア・マ()ゲイア()……と言えば分かるであろう 】




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