第162話【 血塗られた首飾り 】
カルディアはヨウン博士の肩に優しく触れて声をかけた。
「やらなきゃ助からないでしょ!!」
カルディアの瞳の奥に何故か力強さを感じたヨウン博士は、言葉を詰まらせる。
そんな様子を見ていたエルとアルガロスは、カルディアの決意を感じていた。
「…し、しかし……」
とヨウン博士がカルディアを見上げた時、エルとアルガロスが博士をそっと包む。
そして離れる様に促していく。
「カルディアなら大丈夫!」
そう笑顔でヨウン博士に優しく伝えた時、空間の魔力が徐々に上がりだす。
カルディアが魔力を上げ、回復系の魔法を使う準備に入ったのだ。
その魔力に反応した黒い守護者達が──────。
<ズオオオオッ>
地面から <のそり> と出て来て、今度はカルディアへと手を伸ばしていく……が、あろう事か、カルディアはそのグロテスクな黒い守護者達に……、喝を飛ばした。
「貴方達の子孫を助けようとしてるのよ!!! あっち行ってて!!!」
突然の叱咤と心を込めた叫び。
そして、空間の魔力が爆発的に上がっていく。
ヨウン博士はその魔力に衝撃を受けるが、それより……。
守護者達が <ピタッ> と止まったのだ。
「創の匠のお墓を守る者なら、同じ民達も守りなさい!!」
守護者達をキリッと睨むカルディア。
何とも……、表現し難い……。
カルディアは守護者達に……、教育的指導をしたのだ。
たじろぐ守護者達……。
みんな <ゴソゴソ> と蠢きながらカルディアの魔力に戸惑っている様子だ。
決して威圧的な魔力では無いが、守護者達はその魔力の種類や濃度に、やはり戸惑ってしまうみたいだ。
守護者達の変化に気付いたカルディアは、即強烈な再生魔法をシグルズにぶちかます。
強制的に身体を再生させ、さらに完全回復させるあの魔法を。
「パーフェクト・リジェネレーション」
<パパァ━━━━━━━━ンッ>
一瞬にして白い光に包まれるシグルズ。
凄まじい勢い…、生命力に満ちた力強くも優しさに溢れた魔力にたじろぐヨウン博士。
「グほっッっ」
カルディアの強烈な魔法に身体がついていかないシグルズは、詰まった息を吐き出してしまう。
失った手足が強制的に再生され、守護者の魔力に侵されていた身体も正常に機能しだしていく。
「うグッ……、ハァハァ……ァァ」
「………な…、何なんだこれは……?」
勢い良く<バッ>と立ち上がるシグルズ。
自身の身体からみなぎる力が溢れ出しているのが実感出来る。
「こんな魔法……。き……、君はいったい……」
こぼれ出る心の本音。シグルズは自身の身体を見回し完全に完璧に……、と言うより元の身体より力がみなぎっている事に驚いている。
「ジャジャーン! これがカルディアさ!!」
エルとアルガロスは、カルディアを挟むように位置取り、称える様に両手をフリフリしている。
そんな彼等の行動に恥ずかしい思いで立ち竦むカルディア…。
それよりも…、シグルズがこの様になってしまった原因が……、まだ墓石の前に佇んでいる。
回りの喧騒にも一切動じず、一時、空気や時間が止まった様に静まり返る。
ヨウン博士は何かに気付く。
「その墓石は…、長い歴史の中で唯一殺された創の匠の墓じゃが…」
その女性は墓石に置いた首飾りを再度握りしめ、また自分の首へと付けていく。
『【 持っておけ……か 】』
そして墓石を見つめながら立ち上がり、艷やかな唇が動いていく。
【 余はマレフィキウム…… 】
<ゴウッ>
その言葉の響きに対して、一気に黒い守護者達が空間を埋め尽くす様に出現する。
「なっ…」
ヨウン博士とシグルズは、数多く一気に現れた黒い守護者達に圧倒され、威圧感を感じたじろいでいく。
一方、エル達はその様子をただ…静観していた。
「ちょ、ちょと待て! マレフィキウムとは…、あの古文書に書かれとる魔女の事じゃないのか!?」
その言葉に、過去の記憶を辿るシグルズも身体の震えが止まらない……。
古の魔女───────。
ありとあらゆる無惨な大罪を平気で繰り返していたと言う古文書の記録は勉強した事がある。
そこには、” 逃れられない恐怖 “ そのものと記されているのだ。