第160話【 それっぽい… 】
エルはカルディアが感じたという岩の叫びに対して、最大限考え…思いを巡らせていた。
そして、ふと何かを拾い上げる様な表情をする。
「探せ、呼べ、連れてこい………」
「もしかして……、シグルズさんみたいに能力がまだ覚醒してないか、自分でもそのスキルを知らないのかも知れない…」
「それを探して欲しいって事なんじゃないかな……」
それを聞いたシグルズは、理解が出来ず困惑した顔で聞き返す。
「ど、どう言う事だ?」
エルは自分の意見を分かりやすく伝えたい為、頭の中で整理整頓しているが、その方法が身体をくねらせ悶えている様にも見える。
そんなエルを見て、皆から冷や汗が流れ出す。
この場の緊張感にはそぐわなく、唐突で、滑稽で…、情緒不安定なエルを皆は一歩引いて見ていた。
何かがまとまったのか、突然ゼブロスポーズを見せるエル……。
「バッちゃんが言った……、創の匠はスキルの様なものって言葉。もしそうだとしたら……」
「祝福を受けた者の中には、意味不明なスキルを稀に授かる事がある」
「あぁ、たまにそう言う話は聞くが…」
シグルズは腕を組み半信半疑で聞いているが、冷たい目つきながら少なからず頷いている。
エルは回りの反応そっちのけで、続けてある考えを口に出していく。
「それは平凡なモノから希有なモノまで。しかし意味が分からないから何をどうすればいいか分からない。だから自身の頭から忘れ去られて、とても覚醒しずらいスキルとなっているのかもしれない」
と言いながらエルはシグルズの方を見た。
視線を感じて、何とも言えない不安感を抱いたシグルズは、自然と一歩引いていく…。
「シグルズさんの隠密みたいに……」
それを聞いたヨウン博士がビックリしている。
自身の毛で見え隠れするつぶらな瞳が際立って大きくなり、短い手足をジタバタと……。
「えっ? シグルズ。お主隠密スキルがあるのか?」
「みたいです…。洞察力が優れたこの子達に言われたんです。今はまだ闇隠れスキルの手前らしいんですが、魔力を上げれば自ずと覚醒すると」
と、何故か照れ笑いしながら頭を掻いている。
とてもドヴェルグ宮廷の秘密諜報部室長とは思えない仕草だ。
ヨウン博士は一度顔を擦り、ヒゲ下に手をやりながら眉毛を下げた。
「隠密とはまた………、えらい希有なスキルじゃの……」
「それに…、意味が分からないスキルじゃからこそ、忘れ去られ…発動には至らんとか……。何と罪深いスキルなんじゃ……」
「しかも分からんスキルを探せ、呼べ、連れてこいとはどうやって……。ワシも昔、悪足掻きで魔力を使って散々探したんじゃがなぁ………」
どうやらヨウン博士は、創の匠がとある事情で声を上げていないだけで、存在していると考えていたみたいだ。
「発動しとらんし呼び方も分からんスキル……。それに君達は気付けると? どうやって探すんじゃ?」
エルは口を真一文字にし、瞳だけ上へ上げた。
変顔……、と言う事は分からないのだ。
「考え無しかい!!」
と皆から総ツッコミくらうエルは身体をくねらせながらヘラヘラ顔だ……。
心当たりがない、思い当たらない、見当がつかないの無い無い3連発が頭を掻き回す……。
「あっ!!」
またまたエルは、何かを思い付いたかの様に声を上げる。
「カルディア、アルガロスと魔力を同期して、マギア・ディテクションでそれっぽい魔力を探してくれよ!」
と、何も思いつかないから2人に任せる様な発言を
すると、アルガロスもカルディアも負けてはいられない。
唐突に他人任せな発言を飛ばしてくるエルに対して……。
「はぁ?? それっぽいってなんだよ…」
「そうよ! 具体的に言ってくれなきゃ」
「んー……………」
と、エルはまた口を真一文字にし、変顔しながら目を上に上げた。
「分からんのかぃ!!」
とまた皆から総ツッコミくらうエルは、苦し紛れに口走る。
「…、バッちゃん、創の匠の魔力ってどんな感じか知ってる?? ここの石や岩達と友達なんだろ!?」
<ピコッ>
ヨウン博士にピコピコハンマーの様なモノで頭を叩かれるエル。
「友達とは何じゃ! 偉人達に向って!! 」
「それに逢った事も無いのに分かるわけなかろうが!」
そんなヨウン博士の言葉に静まり返るエル達…。
少し <ワチャワチャ> したが、八方塞がり感半端ない状況に皆は項垂れていく。
そんな状況に突然─────────。
<フォウン………>
と微かに空間の魔力が上がり、何かが姿を現した。
それは───────。
艷やかな唇に妖艶な瞳。
綺羅びやかで鮮やかな出で立ちでそっと佇む女性……。
その瞳からは怪しい魔力が漏れ出ている。
それはまるで……、涙を流しているかの様に………。




