第158話【 博士の苦悩 】
とある空間に<ゆるり>と現れるエル達。
そこは──────────。
みんなを招き入れる様に輝く空間───────。
優しさに溢れた細かな淡い光が、心へと語りかける様に身体をすり抜けていく───────。
そして心地良い振動が耳へと伝わってくる。
それは…、岩の振動なのか音なのか…。それとも何かの声なのか……。
淡い光が落ち着きを取り戻したかの様に、徐々に消えていく。
それと同時に、淡く輝く壁の様なものが至る所に浮き上がる。
ヨウン博士も、シグルズ、エル達も驚き、辺りを不思議そうに見回している。
目を見開き、その目に焼き付ける様に空間を凝視しながら、震える身体を抑える様に抱きしめるヨウン博士。
そして、小さく口から音が漏れる。
「ワシには……、ワシの力では届く事が出来なかった聖地…」
「古文書に書かれていた……、記憶の間………」
「記憶の間!?」
エルは辺りを見回しながらも、頭を傾げる。
” 記憶の間 “ とはどう言う事なのか…。
淡く輝く壁が <チラチラ> と現れては消える幻想的な空間が見えているだけ……。
「……ワシにも分からんのじゃよ……」
「本来は創の匠しか踏み入る事が出来ない場所じゃ。しかし今回はお主等に共鳴した岩達がココに招き入れる様にワシに力を与えた……」
「……ワシにはこの聖地をどう読み取ればいいか分からんのじゃ……」
「……いや、その資格がワシには無いと言う事じゃ」
エル達はヨウン博士の持つ不思議で底しれぬ魔力を感じとっていたが、それでも ” 資格が無い “ との発言に驚きを隠せない。
「資格!?」
「そうじゃ。ワシは創の匠じゃないからの…」
その言葉に、エル達は創の匠とはどの様な力を宿しているのか。理解し難い不可思議な魔力で何をしてきたのかと思いを巡らせるが、当然分かるはずがない。
シグルズもまた同じ様な思いで、少し博士の方へと歩み寄る。
「ヨウン博士の魔力でも創の匠には近づけないと…?」
ゆっくり深く頷き、そして顔を振る。
「創の匠の力は、魔力と言うよりスキルみたいなものじゃ。ワシ等には理解し難い選ばれた特殊な能力を宿しているみたいなんじゃ」
そう言いながらヨウン博士は首を振りながら言葉を続けた。
「何故…、仮定の話しか出来ないのか……」
「それは古文書に記載されとる創の匠の存在が……、約1400年前に途切れとるからなんじゃよ……」
「1400年前!!?」
皆は一様に驚き、その現状に愕然としている。
深く、項垂れる様に頷くヨウン博士。
「人々の記憶と言うモノは、5、6年経つと薄れ行き、2、30年経つと消え行くものじゃ…。それが1400年と…、途方もない年月が経ってしまうとのぅ……」
「シグルズも薄々気付いとるかもしれんが、我らが生きとるここ数十年、魔物の襲来や悪人の所業が増え続けとると思わんか?」
「…、た、確かに…。緩やかに、しかし確実に件数は増え続けています……」
シグルズは険しい表情でそう言葉を漏らす。
彼にとっては、その事象は仕事柄強く付随する事柄だからだ。
「ワシは昔、とある事を仮定して、改めて創の匠について調べたんじゃが」
「ひょっとしたら……」
「……今のドヴェルグは………、弱り続けとるんじゃなかろうかと……」
悲しそうな小さな目で遠くを見つめるヨウン博士は、自身の未熟な力を悔やんでいる様に見えた。
「弱り続けてる!?」
軽く頷き、エル達の方へと視線を送る。
「長い年月をかけて調べて得た内容……。しかしそれは薄っぺらいうわべだけの事柄だけじゃが…。」
「亡くなってもその力は少なからず継続されるみたいでの…。しかしこれ程長い年月ともなると過去の創の匠の力が消えつつあるんじゃなかろうかと……」
「ワシが動かしていた小さな石。あれはドヴェルグを守る為の結界の役目をしとると言うたが、本来は自動的に機能するモノらしいしな…」
「じ、自動で??」
「そうじゃ…。それに、魔力濃度の濃く高いこの大地に、何故ドヴェルグが繁栄出来たのか……。それは創の匠の力があったからじゃと考えとる」
ヨウン博士は、何かを探す様に、すがる様に改めてエル達を見つめた。
「石達がざわつき、導かれる様に君達がココに呼ばれたのは何か意味がある筈じゃ。何か感じんか? 小さな事でも違和感でもいい。」
「何か……、普段とは違う何かを………」