第156話【 古の一片の記憶 】
カルディアも同じ様に青ざめた表情で、超〜焦った口調でエル達に言葉を飛ばす。
「コラッ!!偉いお婆さんなんだから丁寧に挨拶しなくちゃいけないでしょ!!」
カルディアは、だんだん雑になっていく言葉遣いに、彼等の内に秘めるあの力が影響してるんではと心配になってきた。
「ほっほっほっ!元気がいいのう。如何にもワシは偉いお婆さんじゃ!」
<スッ> 石を触る音
「あっ…」
カルディアは自身も失言した事に気付き、背を丸めて<ペコリ>と恐縮している。
それより固まり青ざめた顔をしているのがシグルズだ。
承認を得ないまま自分が連れてきた責任を再度痛感しており、取り返しのつかない失言に、顔が引き攣っている。
「ヨ、ヨウン博士。た、大変失礼致しました。まだまだ世間知らずな若者達なもので…」
と、少年達の無礼極まりない失言に <ドキドキ> しながら深々と頭を垂れている。
そんなシグルズの心をよそに、ヨウン博士は笑顔でまたピコピコハンマーみたいなモノを取り出した。
「お主もな!」
<ピコッ>
と、またまたシグルズは頭を叩かれる。
<スッ> 石を触る音
それに追い打ちをかける様に、エルとアルガロスのいつもの寸劇が始まった。
腰をくねらせ手を挙げながら……。
「世間知らず1号、2号〜」
と言い、2人は目を見開き笑顔?でカルディアの方を見た。
その奇妙な笑顔の威圧に押される様に、超絶恐縮しながらカルディアも……。
「3号です……」
と押し切られ呟いてしまう。
そんな光景に──────────。
「お〜っほっほっほっ!」
毛むくじゃらの毛を揺らしながら大爆笑するヨウン博士だったが、その目は少年達を見極め光っている様にもみえた。
<スッ>
「成る程。大地が緊張しとったのは君達の影響じゃったのか」
「大地が緊張!?」
エル達は自分達の行く先々で、大地や大気が微かに震えている事には気付いていた。
その原因にも、自分達の置かれた特殊な立場にあると分かっていたが、魔力を高めていないにも関わらずそれに気付く人が存在する事に、少なからず驚いていた。
「かなり……色々と複雑な様じゃが……。悪意のある者は扉に弾かれるから、そうではない者達と言う事は分かるぞ」
「扉とは、先程君達が通って来た赤いゲートの様なモノの事じゃ」
やはり何かを感じ取っている様なヨウン博士の発言。
今迄出会ってきた人達の中で、この様な反応を見せる人は居なかった。
そんな博士の反応に少し緊張感を持つエル達だったが、ヨウン博士は終始笑顔だ。
「あまりシグルズをいじめないでくれよ!」
その言葉に、エルはとある魔法を人知れず解呪する。
その魔法とは、混迷魔法。
悪魔であり、今ではその命をカルディアが吸収した混迷の魔術師リーゾックが得意としていた魔法だ。
*第53話参照
<スッ>
見慣れぬ模様が描かれた石の向きを触り、宙に浮かぶヨウン博士は再度エル達に視線を送る。
「この石はな、ドヴェルグそのものなんじゃ。民を守り、街の繁栄を司る。本来はワシが手を加えんでも機能するんじゃが、ここ数百年、衰えがきてるみたいでの……」
「で、君達の用件は何じゃな?」
侮れないヨウン博士の感覚に少しためらいはあったが、エルは素直に例の事について聞いてみた。
「創の匠ってしってる?」
< キュィ━━━━━━━━ン >
張り詰めた様に、ヨウン博士の回りの空気や時が一瞬止まる。
そして浮かぶ岩山から微かに漏れ出る一片の記憶が、目を見開くヨウン博士の頭になだれ込み、走馬灯の様に駆け巡る。
<ォォォ………>
と同時に、エル達がいる岩山が微振動し、空間の大気も穏やかに揺れ動く。
「……………」
ヨウン博士は目を細めながらゆっくりと顔を上げ、辺りを不自然に見回している。
「………、創の匠か……」
重々しく言葉を漏らすヨウン博士は、やはり何かを知ってる様に顔を窓の外へ向けて遠くを見つめた。
その言動に、エル達の心が動く。
求めていたモノへと少しだが近付く事が出来るかもしれないと。
遠くやってきたドヴェルグの街で、それが動き始める可能性が見えた気がした。
「久しく聞かなんだ称号じゃな……。ワシはその名称の記憶しか持たんが……」
そう言いながら壁に手を当て、数歩歩きながら何かを感じ取ろうとしていた。
「…確か……、この辺りに……」
ヨウン博士はそっと目を閉じ、壁に手を当てたまま詠唱する様に心の祈りを説いていく。
「ὁδήγησον με」
「 我 を 導 き 給 え 」
ヨウン博士が動かしていた小さな石が、古の言葉に導かれる様に緑色に輝く。
と同時に、壁全体が蠢く様に波打ちだした。
<ゴオゥ…>




