第155話【 あの方 】
ドヴェルグ宮廷にどんな力が宿っているのか、それとも岩山単体の力なのか……。
宙に浮く岩山は全部で27個。
互い違いに浮かぶそれらは大きさもまちまちで、統一性が有るのか無いのかが分からない造りをしている。
その内の1つにシグルズに連れられたエル達は向っている。
シグルズの言う ” あの方 “ に会いに行く為に。
何の変哲もない通路の途中で突然立ち止まるシグルズ。
浮かぶ岩山に気を取られていたエルとアルガロスは、その背中にぶつかってしまう。
「イテッ」
「なんだよもう…。突然止まんないでくれる?」
としかめっ面でシグルズに言うも、当のシグルズは壁に手を当て目をつむっていた。
そして何やら呟き出した。
「アノイゲ テーン ヘクテーン テューラン」
その言葉に、エル達は一瞬戸惑う表情を見せる。
” 六番目の扉よ開け “
彼等が理解出来たその言葉は、“ この世のモノ ” ではないからだ。
古の刻、神と対立していた原初の巨人、ユミル。
(第144話参照)
その身体から生み出されたとされるドワーフ達が、この世のモノではない言葉を知っていても不思議では無いが、その不自然さは拭いきれないでいた。
シグルズがそう呟いた後、手を当てた部分から赤い光が淡く漏れ出てくる。
その光が壁を走りながら渦を巻きだした。
まるで…魔物へと繋がるレッドゲートの様に………。
「入るぞ!」
そう言い、シグルズはレッドゲートの様な光の中へと入っていく。
続いてエル達もドキドキしながら入って行くが、光の渦を通るのは一瞬だった。
目の前に現れたのは薄暗い洞窟の様な空間。
その壁面にはあらゆる生き物を象った様な模様や不思議な文字が描かれている。
その先に薄明かりが。
薄明かりに足を踏み入れると、そこは整理された古家みたいな部屋となっていた。
シグルズがキョロキョロと部屋の中を見回している。
「あれ? 居ない?」
「博士〜!? ヨウン博士〜!??」
と呼ぶが、姿が見えない。
眼鏡に指をやり、整えながら見渡すもやはりどこにも見当たらない。
「お出かけかなぁ…」
と頭を捻っていると、楕円形で白い毛に覆われた5、60センチ位の物体が <スウーッ> と浮かんできた。
「わあっ」
とシグルズが驚いていると、その毛むくじゃらな楕円形から腕の様なものが飛び出し、キラリ光る怪しい道具で毛をかき分けて持ち上げ、<ピッ> ととめた。
全身毛むくじゃらの小さなドワーフ。
しかも浮かんでる……。
「し、師匠!!」
「ま、また小さ…」
と口から音が漏れ出た時、ピコピコハンマーみたいなモノで <ピコッ> と頭を叩かれるシグルズ。
焦り顔のシグルズは、叩かれた事も忘れた様に固まっていた。
毛むくじゃらのドワーフの毛が、<ゴソゴソ> と動いている。
どうやら口を動かしているみたいだ。
「久しいのうシグルズ。部の長となって忙しいみたいじゃな」
そう言いながら部屋の模様替えをする様にとある石を 触り、その向きを <スッ> と変える。
その声のトーンから年老いた女性だと分かる。
エル達は、シグルズの師匠と言う言葉に先入観で男性と思っていたが、そうでは無かった。
それにその姿…、宙に浮く毛むくじゃらが師匠なのかと不思議な感覚に包まれていた。
シグルズは緊張した面持ちで返答する。
「は、はい。師匠。まだまだ未熟者なので…」
その言葉に、師匠と呼ばれる毛むくじゃらな物体が <スッ> と謎の石の向きを触りながら、言葉でシグルズをたしなめる様に呟く。
「確かに未熟者じゃわい。客人をココに招き入れる前に承認を得んとのう」
「あっ!」
「ワシへの相談や連絡が迷子になっとるようじゃな」
「す、すみません!!」
素早く腰を90度曲げ、頭を下げながらそう言葉を漏らす。
当然である。ここは神聖なドヴェルグ宮廷内。
致命的で重大なミスを犯してしまった事に、今更ながら気付いたのだ。
ヨウン博士は部屋を歩き回りながら <スッ> 石を触る。
基本的な事が頭から飛んでいた…、と言うより、エル達と関わってから全てにおいて普段とは違う行動に出ていた事に気付いたシグルズは、緊張した面持ちで <ギュッ> と目をつむりながら冷や汗を流している。
「しょ、処分は…」
とシグルズが言いかけた時、師匠と呼ばれるヨウン博士が彼を優しく包み込む様に声を発した。
「お主のせいではないわ。客人の不思議な力に惑わされとるだけじゃ」
と、エル達の力を見抜いてる様な発言をするが、エル達は <キョトン> と平静を保っている。
「で、そちらの…」
とヨウン博士が言いかけた時、とんでもない言葉が飛んで来る。
「ちゃ━━━━━━━━っす!バッちゃん!!」
一瞬にして凍る空間と固まるシグルズは、突然飛んできた無礼な言葉に青ざめた表情をしていた。