第152話【 寸劇宣言 】
バルダーはシグルズが出て行ったのを目で追い確認すると、エル達の方に向き <にこり> と笑顔を作る。
「すまなかったな。疲れてる所を」
「大丈夫だよ! あの人が損な役目を背負ってるのは分かってるから!」
エルも笑顔を作りバルダーの言葉に応えながら、彼がもらした含みのある言葉の意図をくんで、こちらから核心を突いていく。
「それより、俺達に話があるんでしょ!?」
「何故、あの柱の位置から罪人にぶつかったのかの!」
「………!!!」
疑う気持ちを隠しながら遠回しに疑問に思っていた事に対して話を持っていこうと考えていたが、突然エルの方から直球が飛んで来てバルダーは驚いている。
「な、何故それを……」
「顔に書いてるもん!」
「えっ?!!」
とバルダーは、そんなはずはないと思いながらも自分の顔を擦りだす。
そんなバルダーを見て、エル達はまたおどけ笑いながら身体を揺する。
「俺達は魔力は低いけど、回復力と洞察力の天才みたいなんだ〜」
「狙って飛んだよ! バルダーさんの見立て通り」
ズバリ核心を突いた言葉。
クラスEFGの少年達がクラスAの炎を喰らえばどうなるのか分かっている筈。
と考えると、理解出来ない何らかの意図があるのか。
「えっ……。そんな事をしたら命が……」
「だって俺達はハンターだもん。だからドヴェルグの強靭な防具が必要なんだよ!」
<ハッ> とするバルダーは、ハンターとしての心得である ” 民衆の自由と安全を守る役目も担う “ を改めて思い出していた。
「……そうか。魔力に合わない回復力と洞察力が備わっているだけに……、民衆を守らなきゃいけないと言うハンターとしての定めに……、苦労してるんだな」
と言いながら、バルダーはエル達に背を向ける。
そして、指で目頭を押さえ小さく頭を振る。
込み上げる思いを必死に抑えているのだ。
この感情豊か過ぎるギルドマスターの背中…。
そんな背中越しに、エル達は今迄出会ってきた一味違うマスター達の事を思い出していた。
同じ様に猪突猛進で突っ走る、風変わりなマスター達を………。
突然 <バッ> と振り向くギルドマスターのバルダーが、目をキラキラさせながら唐突に言葉を飛ばしてきた。
「気に入った!! 飯だ飯!! 一緒に肉を食いにいくぞ!!!」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
日が落ちても、鍛冶屋の火と街の明かりで比較的明るいドヴェルグの街。
まだまだ行き交うドワーフや人間も多く、夜でも花が咲いた様に賑やかな街が浮かび上がる。
エル達は、ダーフギルドマスターのバルダー達との食事後、ドヴェルグ宮廷内の病室へと帰ってきていた。
身体は既に回復していたが、念の為、今日1日だけ養生する様にと言われたからだ。
「あ〜、腹いっぱいだぁ〜!」
ざっくりした簡易的な病衣姿のエルとアルガロスは、そう言いながらお腹を出し、笑顔で <ポンポン> と叩いている。
「こらぁ〜……、はしたない…」
無作法で品がない彼等の仕草をチラ見しながら、カルディアは諦めモードでポツリ言葉を漏らす。
そんないつも通りの彼等だが、防具調達の件では進展が無く行き詰まったままだ。
エルはベッドに腰掛け、足を <ブラブラ> させながら悩ましい表情をしている。
「バルダーさん達も創の匠の事、知らないし聞いた事も無いって言ってたね…」
「だよなぁ…。宮廷のギルドだぜ? ほんと手詰まり状態だよなぁ…」
アルガロスはベッドに横になりながら、足は外に出してエルと同じく <ブ〜ラブラ> 揺らしていた。
【 余が力を誇示していた頃は皆が知っていたし、存在しておったのじゃがな…… 】
カルディアの首に巻き付いてるマレフィキウムがそう嘆く。
情報が全く得られないままでは、行動のしようがない。
もう “ 匠 ” に防具を作ってもらうしか無いのかもしれないと、重い空気が立ち込めた……。
それでもかなり贅沢な選択なのだが……。
そんな時、思いを巡らしていたエルの表情がにわかに変化する。
「ん〜…、あの人に聞いてみるかぁ」
「あの人って?」
「丸い眼鏡を掛けた、調査・情報収集活動専門家のシグルズさん!」
「え〜? 何でだよ。あの人感じ悪かったじゃんか!」
アルガロスはビックリし、変顔しながらそう聞いた。
威圧感をたっぷり出していた人に聞いてみるっていう事に少し戸惑っているのだ。
しかしエルは、シグルズの心の本質を見ていた。
「仕事柄仕方ないよ。あの人は誠実に自分の仕事を全うしてただけなんだから」
「そうかなぁ…。」
「でも何で丸メガネに聞くんだ? 」
とアルガロスは目に手を当ててメガネ風に丸める。
それを見て笑うエルも、同じ様に真似をしながら手で丸メガネを型どる
「ちょっと考えがあるんだ!」
と病室にはエル達しか居ないが、皆で集まりひそひそ話を始めた。
肩が揺れるアルガロスとカルディア。
笑いを堪えるのに必死なのだ。
モサミスケールとマレフィキウムは、また変な寸劇が始まる事に諦めモード。
「よし! 今から俺達はお散歩迷子になるぞ!!」