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第151話【 珍妙な攻防 】


 <カンッ カンカンッ>


 夕陽が差し込むドヴェルグの街に、崩れた防壁を修復する音が響く。


その中にそびえる壮大なドヴェルグ宮廷。

沢山の衛兵達が行き交い、それに混じって商業人達が色んな物資を納品している。


そんな宮廷内の長い通路を歩く、背の高いドワーフと丸い眼鏡を掛けた背の低いドワーフの姿がある。


<コツッコツッ>


医務室と書かれた扉を横切り、病室と書かれた扉に手が伸びる。


<コンコンッ>


「入るぞ」


そう言いながら、2人のドワーフが入っていく。

病室内には、エル、アルガロスがベッドの上に座り、カルディアは椅子に腰掛けている。

それと女性のドワーフで、回復魔法士のシグリドと再生魔法技師のブリエットの2人がいた。


「あっバルダー」


と部屋の中にいた回復魔法士の薄い赤毛のシグリドが声を掛ける。

バルダーと呼ばれる背の高いドワーフは、挨拶代わりに軽く手を上げそれに応えた。


「シグリド、状態はどうた?」


「信じられないけどもう大丈夫みたい。回復力が半端ないわ」


「えっ? 本当か? あの大怪我だぞ? 」


と少年達の方に視線を送るが、確かに包帯が解かれ元気そうだ。

バルダーは自身の目と耳を疑い、再生魔法技師のブリエットの方へと振り向いたが、返ってきた言葉も同じ様な内容だった。


「えぇ、私もビックリよ。特に再生は即効性が無くて数日間かかるんだけどね…」


とブリエットも驚いている。

その言葉を聞いた2人はにんまり笑顔。


「魔力は小さいけど回復力だけは有るからね〜」


と上半身裸で短パン姿のエルとアルガロスは、2人してベッドの上でおどけて見せる。


「……そうか、良かった」


バルダーはそう言いながら、エル、アルガロスと握手を交わす。


「俺はドヴェルグ宮廷専属のダーフギルドマスターのバルダーだ」


不可抗力(• • • •)偶然(• •)とは言え、君達のお陰で罪人達を逃がすこと無く取り押さえる事が出来た。ありがとな!」


少し含みのある言い方をするバルダーだが、エルとアルガロスはお構い無しに両手を上げてまたおどけ顔。


「不可抗力バンザーイ!!」


そんな姿を前に、カルディアは顔に手をやり半分背を背ける。彼等のおちゃらけた行動が恥ずかしいのだ。


そんな時、小さな緊張感をもたらす音が鳴る。


「コホンッ」


丸い眼鏡を掛けた背の低いドワーフが咳払いをしたのだ。

そして、眼鏡を指で整えながら彼等の前に小さく歩み寄ってきた。


「私はドヴェルグ宮廷に仕える調査・情報収集専門のシグルズです」


<キラリ> と光る丸い眼鏡の奥には鋭い目が隠れている。


「少々質問を」


冷たい声を発する丸い眼鏡を掛けた背の低いシグルズは、慣れた手つきで手に持つ小さな手帳を <サラリ> と開けた。


その時、ダーフギルドマスターのバルダーは、椅子に座りながら不機嫌そうに横槍を入れる。


「手短にな!」


自身の仕事に干渉されたくないシグルズは、その言葉に背を向け手帳を見つめながらペンを取り出した。


「エルさん。ドヴェルグにはどの様なご要件でお越しになったのですか?」


「そちらのお嬢様、カルディアさんにも同じ質問をしましたが、改めて教えて頂きたいのです」


流石は調査・情報収集専門家。

答えが同じかどうかと言うプレッシャーを先に与え、動揺させた上で質問をする。


しかし、エル達はモサミスケールと頭の中で会話出来るので問題無しだ。それに嘘ではないから動揺のしようがない。


しかし敢えて動揺した素振りを見せる様に、エルは深く悩んだふりをする。

困った顔から………。


「強〜い防具の調達だよ!」


と、ニヤつきながら軽〜い口調で返答するエルに、シグルズは何故かやりにくそうに顔を歪める。


「……、そうですか。では次の質問をアルガロスさんに」


「貴方達のハンターカードは確認済みです。クラスEFGの魔力なら、防具の調達は他の街で十分なのでは?」


との質問に、アルガロスは少し間を置き考える仕草をする。エルの思考に合わせたやり方を……。

そんな仕草に、シグルズの目が眼鏡の奥で鋭く光る。


「んー………」


「シグルズさんの言う通り俺達はクラスEFGだからだよ。出来るだけ強い防具で身を守らなきゃぁ。だからこの有様になっちゃっただろ!」


辻褄は合ってる……が、何故か透かされた様な感覚に陥るその返答に、シグルズはまた顔を歪めた。


「………」


「ではまたエルさんに質問します」


「此処までの道中、貴方方の魔力より遥かに強い魔物に遭遇した筈ですが、何故無事に来れたのですか?」


と、一呼吸置いて心を落ち着かせ、鋭い目つきで丸メガネに指を当てながら質問した。


しかし、エルも負けてはいない。

メガネは掛けていないがシグルズの真似をしながら目の近くに指を当て不敵に笑う…。


「俺達は……」


と、意味有りげにためてからちょっぴりおちゃらけモード…。


「洞察力がピカイチだからかなぁ〜。怖い魔力を避けながら歩いてきたから。それに俺達、魔力が低いから見つかりにくいし逃げ足もピカイチみたい!!」


と、変な攻防が続く……。


「……、では次の質…」


と言いかけた時、バルダーが割って入ってきた。


「もういいだろシグルズ。嘘をついていないのは明白だろ!それに病み上がりだぞ!」


「お前の役目は分かっているが、罪人を確保出来たのは彼等のお陰だ」


「礼を持って丁寧に接してくれないと」


バルダーのそんな言葉に意気消沈ぎみなシグルズは、口を真一文字にしながら <パタン> と手帳を閉じた。


「……、失礼しました。では私はこれで」


と言い、何故かうまくいかない調査に頭をひねりながら部屋を出て行った。




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