第149話【 愚策作戦!? 】
あまりにも広大過ぎるドヴェルグの街。
街も多くの防壁毎に分かれており、複雑過ぎるその造りはまるで迷宮だ。
中央防壁の中にやはり城があり、その回りを囲む様に複雑な防壁が乱立している。
大まかには、中央防壁、東西南北を別ける防壁。
その東西南北の防壁の中には、其々およそ第一防壁から第二十防壁と分けられている。
東西南北を数日かけて回り、今は城のある中央防壁近くの出入り口付近で情報収集しているのだが……。
” 匠 “ と呼ばれる鍛冶職人は沢山いて、それに比例する様に大きな工房から個人の工房まで幅広く展開されている。
しかし情報収集すればする程、腑に落ちない事に、“ 創の匠 ” と言われる言葉を知らないし聞いた事もないという人達ばかりなのだ。
カルディアの首飾りと化しているマレフィキウムの表情は分からないが、その発する言葉から困惑しているようだった。
【 ………、変じゃの……。あれからどれ程経ったかは分からんが、その間に変化があったのか?…… 】
【 かもしれんの。時の流れは複雑じゃからな… 】
モサミスケールもエルの頭の上で戸惑っている。
どう探していいのか……、手詰まり状態なのだ。
「居ないなら仕方ないんじゃねーの!? 何処でもいいからパパッと調達しちまおーぜ! 」
気の早いアルガロスはそう言うが、また魔力を高めた時に服や防具が崩れ去ってしまうのは出来るだけ避けたい。
「防壁の中の偉いドワーフなら知ってるかもよ? それでも分からなければいっその事、裸でいっか!!」
とさらにエルはおとぼけモードだ。
アルガロスもそれに乗り気で、二人してがさつに突き合っていた。
そんな2人に力が抜けていくカルディアは、顔を振りため息をつく。
しかし、お手上げ状態には変わりない。
【 仕方ない…。” 匠 “ がおる工房!?……で調達するしか!?……手は!!…無いのう…… 】
何かを感じながらそう言葉を刻むモサミスケールは、不自然に中央防壁に視線を送る。
エル達も、マレフィキウムも同じ様に中央防壁付近で違和感を感じ視線を向けた。
その時、突然中央防壁付近で強い魔力が放出される。
そして──────────。
<ドゴーン>
地響きと共に、中央防壁からエル達がいる街中へと爆炎が噴き出していく。
炎と黒い煙が猛々と立ち昇る中から、人影が数名飛び出してきた。
目隠しされ手首を施錠されたガラの悪い、いかにも罪人らしいドワーフの輩が。
目隠しを引きちぎりながら辺りを見回し、施錠を外しながら防壁を見上げる輩達。
筋肉が盛り上がり威圧感を漂わせる者の中に、比較的スマートな銀髪ドワーフが防壁を見上げる。
「チッッ。中央防壁か…」
「外まで遠いじゃねーか」
そんな罪人風の輩を取り囲む様に、煙の中から飛び出してきたのは、城のドワーフの衛兵達。
「くそっ。護送中に隙を突かれたか…」
「クラスAが離れるのを待っていやがったんだ」
その様子を崩れかけた高い建物の柱にぶら下がるエルとアルガロスが見下ろしている。
カルディアは石壁の後ろへと素早く避難したみたいだ。
「何か始まったね…」
「罪人だな!悪意のある魔力を出しちゃってるから」
衛兵の目に、崩れた柱に危なげにぶら下がる赤毛と茶髪の人間の少年の姿が映る。
みすぼらしい布を被ったその姿から、魔力を持たない非力な人間と目に映っているのだ。
『くそっ、爆風で建物が…。早く助けないと落ちたら……』
しかし、罪人達はそんな時間を与えてくれない。
しかも、その人間の少年達の事を把握済みらしく、チラ見しながら<ニタッ>と笑った。
そして親指でその少年達を指差している。
「助けなくていいのかぁ?」
「ありゃあ直ぐ落ちるぜ!!」
銀髪のドワーフがそう言いながらニヤつき、手には炎の塊が浮き出てくる。
ローブをまとうドワーフが銀髪ドワーフへと言葉を飛ばす。
「時間が無い。クラスAが数名戻って来てるぞ」
それを聞いた銀髪ドワーフは、手の炎を一気に拡大させる。
衛兵に投げつけて爆発させる気なのだ。
その様子を見ていたエルは、アルガロスへと合図を送る。
「目立ちたくないから落ちるふりしてドカンと体当たり作戦だ!」
「俺はあのクラスAの銀髪に」
「じゃあ俺はローブの奴だな。あいつはクラスBだから」
笑顔で頷くエルは何故か満足気。
アルガロスの見立てが的中してるからだ。
「後はクラスCくらいだから衛兵で対処出来る」
「銀髪の奴の火炎を喰らう事になるけど、とにかく魔力は最大限抑えていこう」
その後も下では緊迫した状況が続いていたが、上では2人してワチャワチャ楽しそうに話している。
カルディアは2人の様子を心配せず見ていたが、ニヤついてる彼等を見てそれに超〜心配していた。
『何かやらかしそう……』
銀髪ドワーフが炎をまとう手を後ろへと振りかざす。
「お前達は幼い命を粗末にするのかぁ?」
今直ぐ助けに行かないと少年達が落ちてしまう。
かと言って、助けにいけば逃がしてしまう……。
衛兵達の心をかき乱し、わざと動揺させながら <ニタリ> と笑い、炎をまとう手を素早く前へと押し出していく。
その時。
「わああああ━━━━━━━っ」
突如銀髪ドワーフの直ぐ近くで叫び声がしたので、咄嗟に見上げると、さっきの少年達が既に頭上に落ちてきていて………。
しかも何故か…、超絶笑顔なのだ。
「えっ?」
<ドガア━━━━━━ッッン>
少年達が罪人ドワーフにぶつかった衝撃で、銀髪ドワーフの炎が爆炎となってその場で暴発する。
<バフォウゴウオオオ━━━━ッ>