第148話【 心の変化 】
今日泊まる “ 温泉付き ” 宿屋。
受付で其々がハンターカードを提示して手続きしながら、色々説明を聞いている。
エルとアルガロスで1部屋。
カルディアとマレフィキウムで1部屋借りる事にした。
どうやら他の街と違って、ここはセキュリティ強化の為、敷地内の色んな場所でハンターカードを使うらしい。
あてがわれた個々の部屋に入る為には、ドアにハンターカードを当てないと魔力により入れない仕組みになっている。
また、男女別の施設に入る時もハンターカードが必要だ。
手続きを終え、部屋に荷物を置いて施設内の簡易的な服装へと着替えたカルディアは、早速マレフィキウムの手を引き温泉へ!
中へ入ると男女別だが半分露天作りになっている温泉が目の前に。
「わあ〜、広〜い!!」
と走っていくカルディアを気にして、マレフィキウムが声を掛ける。
【 走ったら危ないぞ! 】
そんな気遣いに、カルディアは <クスッ> と笑う。
「お姉ちゃんが出来たみたいで楽しいな〜!」
<カコ〜〜〜ン>
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
小高い丘に佇む “ 温泉付き ” 宿屋。
おちゃらけバカ男子達は既に寝入っている。
カルディアも既に寝ているが、同部屋のマレフィキウムはまだ眠れないでいた。
自身が新たに背負わされた重大な使命に、心配や悩みが山積みとなっていて気が気でないのだ。
堕天使、悪魔と悪魔……。
その力を呑み込み、今はコントロール出来ているとは言え、古の世を……、混沌の世界へと追いやった元凶が近くに……、目の前に存在している事への不安がどうしても頭をよぎってしまう。
それと同時に、街中での行動も頭をよぎる。
エル達のマレフィキウムに対する態度が普通過ぎて……。それ以上にカルディアの自身に対する接し方が余りにも……、近すぎるのだ。
まるで家族の様に………。
マレフィキウムは寝入っているカルディアを <チラッ> と見て、見守る様に眉を下げた。
その時。
「うっ……」
寝入るカルディアから音が漏れる。
【 寝言か? 】
と近付いて横に座り様子をみていると………。
【 !? 身体が震えとる…… 】
心配になったマレフィキウムが、カルディアの状態を魔法で調べてみると……。
【 そうか…… 】
マレフィキウムは窓の外を眺めながら溜息をつく。
そして、窓際にある机に座り、淡く光る指を回しながら見慣れぬ道具を魔法で出しては机に <コトン> と置いていく。
『【 膨大な魔力による身体の軋み、歪み、苦痛……。
悪魔が宿った未知の力への不安や恐怖……… 】』
<コトン>
『【 純粋な人間で無い事への深い悲しみ……… 】』
<コトン>
『【 こんな幼い身体で…… 】』
<コトン>
何かを調合する為の簡易的な道具。
マレフィキウムはその道具を見つめながら、徐々に険しい表情になっていく。
『【 いや……。こんなモノに頼っておったら成長を遅らせるだけじゃ…… 】』
『【 余の……浅はかさが…… 】』
『【 この……… 】』
自身の手を見つめ、血塗られたその手を <ギュッ> と握る。
そして出した道具に手をかざすと、<フッ> と消えていった。
『【 しかし、今夜だけはゆっくり寝かせてあげたいのう…… 】』
そう思いながら、弱い麻酔魔法をカルディアへと掛ける。
すると、寝息が <すうーっ> っと落ち着いていく。
その状態を確認したマレフィキウムは……、また窓から夜空を眺めていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝、エル達は既に街中を歩いている。
【 今からは集中して防具屋を探さにゃならんぞ 】
そんなモサミスケールの教育的指導に対して、眠気まなこの目を擦り、空返事をするエルとアルガロス。
方や、朝から回りの視線を集めてしまうマレフィキウムは、頭をひねっている。
【 こう続くとさすがにうっとおしいのう…。《《非道》》な魔力を出してやってもいいのじゃが… 】
マレフィキウムの言葉は冗談だと分かっているが、それに突っ込む様にカルディアは焦りながら手を振った。
” 非道な魔力 “ が飛散すれば、街中の人達は皆、魔力濃度によって腐食し死に至ってしまう可能性が高いからだ。
「駄目よ。大混乱になっちゃうじゃない」
【 この美貌が……。余は罪作りじやのう 】
と頬に手を当て笑みを浮かべながら顔を振る。
その後ろでズッコケるエル達。
【 そうじゃ!! 】
と言いながらマレフィキウムは皆を人目の無い路地へと引き込み、変異魔法で自身を帯状のカラフルな首飾りにして、カルディアの首に巻き付いた。
【 これでゆっくり出来るわい。楽じゃしな!! 】