第145話【 モノセロス 】
エルの反応に対して不敵に笑うマレフィキウムは、意味ありげに言葉を置いていく。
【 ただの防具……ならな 】
「えっ?……」
エル達はマレフィキウムの言葉に足を止め、口から戸惑いの音が漏れてしまう。
それに同調しマレフィキウムも足を止め、古の刻を思い出しながら間違いがない様に話を進めていく。
【 余がまだ罪深き人間として生きていた頃…… 】
【 当時のドワーフの性格は頑固そのものでの。特にモノセロス的存在と言われる “ 創の匠 ” との称号を得た者は、自分の納得のいく相手にしかモノを作らん 】
「 創の匠って……?」
エル達は初めて聞くその称号に、頭をひねりながら聞き返す。
【 彼等は集めた素材で武器や防具をただ単に作るのではなく、そこに頂き(神の領域)を刻み込む創造と創製の魔力を練り込む事が出来る者の事じゃ 】
【 そうやって出来た物を、パノプリア・マゲイアと呼ぶ 】
「パノプリア・マゲイア………」
神秘的な作業方法やその名称の響に、エル達は驚きを隠せず、 <ポカン> と口を開けたままだ。
【 それだけじゃない…… 】
続くマレフィキウムの意味深な言葉が、さらに彼等の心を高ぶらせ揺さぶっていく。
【 千年に一度あるかないか……。パノプリア・マゲイアと、それをまとう者の相性が適合し、親和性が生まれし時…極稀に……、とある現象が起こるそうじゃ 】
「とある現象?」
含みを持たせた話し方に吸い込まれていくエル達は、
固唾をのんでマレフィキウムの言葉に聞き入っている。
まだまだ成長途中の幼い少年少女からすれば、新しい言葉や見たものは全て新鮮で興味深く感じるのだろうが、この話は……、想像を遥かに超えていく。
【 それは、パノプリア・マゲイアを手にした時、主の魔力が具現化した武器、防具へと……………変化するのじゃ 】
>>「へ……、変化??」<<
声を上げ驚くエル達。
武器や防具類が変化するとはどう言う事なのか……。
当然彼等は理解が出来ず、また、そんな現象に似た話を見た事も聞いた事も無く、ただただ驚く事しか出来ない。
古の刻より生きているマレフィキウムの知識は、今生きる誰よりも遥かに膨大な量を有しているのは明白。
そんなマレフィキウムの言葉に息を呑むエル達は、ジッと彼女を見つめている。
次はどんな言葉が出てくるのか。どんな驚きがそこにあるのか。
マレフィキウムがわざとらしく <ニタッ> っと笑う口元からは、悪戯な魔力が流れ出ていた。
【 その現象を……… 】
【 アクロス・ソーマと言うそうじゃ 】
その響にざわつく森の木々。
神秘的な現象がある事を理解している様に……、大気も微かに共鳴する。
「アクロス・ソーマ……」
エルの口から漏れ出る音にも、大気が同じ様に共鳴していく。
話した内容はマレフィキウムが見聞きしたものだが、だいぶ大げさな表現をしてしまったと言う感じで <ペロッ> っと舌を出す。
そして自身の言葉を打ち消す様にいたずらっぽく <ニコッ> と笑い、少し申し訳なさそうに眉を下げ髪の毛を拭った。
【 信憑性の無い、神話的言い伝えらしいがな 】
「ええ〜!?何だよそれぇ〜」
っと、必要以上に上げてから落とされた感覚に、身体をよじりながら悶えるエル達。
「言い伝えかぁ〜。信用しちゃう所だったじゃん。ビックリしたなぁ〜」
彼等はマレフィキウムにベロを出しながらしかめっ面攻撃をしている。
古の刻、世を混沌の世界へと追いやった魔女の女王を相手に……。
心変わりが早いのか、今までのやり取りが無かったかのように歩き出し、また <ワチャワチャ> と喋りだす世間知らずなエル達。
そんな彼等をよそに、しかめっ面なモサミスケールが <フラフラ> とマレフィキウムに近づいてきた。
【 可変型魔武具………。 アクロス・ソーマか……。そんなモノがあるとはな 】
モサミスケールはマレフィキウムの前に回り、無い腕で、とある所を指差しながら……。
【 パノプリア・マゲイア、その魔宝具の事じゃな 】
指差す先には首飾りが。
【 勘が鋭いのぅモサミ……。お主本当に精霊か? 】
その言葉を聞いて威厳を最大限放出する様に、無い胸を目一杯張るモサミスケールを見て、呆れて軽く手を上げるマレフィキウム。
しかし直ぐ重々しく神妙な表情となり、マレフィキウムの艷やかな唇がゆっくりと開いていく。
【 そう。これは “ 不老 ” の魔宝具……… 】
【 なんじゃと!? その魔宝具がお主を不老へと!??…… 】
モサミスケールが驚くのも無理はない。
マレフィキウムがどの様にして歳をとらないのか。
ある程度想像していたが、魔宝具の力だったとは……。
しかし……、いくら創の匠でも、命を操る代物を作る事は出来ないはず……。
と、モサミスケールが無い首をひねっていると、マレフィキウムの表情が徐々に深く……、深く…曇りだした。
そんな希少な道具を持つマレフィキウムは、何故か罪深そうな表情で遠くの森を見つめる。
この後……、恐ろしく……驚愕な事実がその口から <ボソリ> と発せられる事になる………。