第144話【 伝説の民 】
古の刻、しばしば神に対立する巨人がいた。
原初の巨人、ユミル────────────。
その身体(大地)から生まれたとされる生き物、黒小人とも呼ばれた、” ドヴェルグ “ 。
地中を好み岩穴で暮らす彼等は、その容姿からかけ離れた優れた知性を持ち、様々な分野にわたって商いを行う多彩な才能を発揮していた。
その中でも特に鍛冶職人としての地位は絶大で、誇り高きドヴェルグを象徴する職種となっている。
特筆すべきは、対価に応じて神々に対抗出来うる魔力を帯びた武器や防具、魔宝具等を制作する優れた職人も現れ、匠として名を馳せた者もいた。
時が流れた現在、今もなおその末裔は存在しており、稀に罪深き人間と取引する事もある。
そんな彼等は現在………、“ ドワーフ ” と呼ばれていた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
<フオォ……………>
天高く輝く太陽が、青く茂った草原と澄みきった小川を優しくキラキラ照らしている。
小さな虫や魚達が、生き生きと動き回る生命力の有る地域。
ここは “ 下界 ” のとある大地だ。
そんな大地を踏みしめる様に歩く沢山の足が、音を立てて進んでいる。
エル、モサミスケール、アルガロス、カルディア、それに魔女の女王マレフィキウムだ。
彼等は漂う大陸で10日間程 “ 経過観察 ” された後、この下界へと降りてきた。
エルとアルガロスは、ザックリとした大きな布を頭から被り、みんなと共に楽しそうに話しながら歩いていた。
同行するマレフィキウムは、とある理由でエル達と行動を共にしている。
漂う大陸の世界樹、ドラの召喚魔法で呼び出されているマレフィキウムは、その契約や任を解かれ、新たな契約を結ばされた。
今度は………、保護者代わりとしてモサミスケールと共に彼等を見守る任を《《強制的》》に背負わされたのだ。
彼等の………、” 最悪の事態 “ を回避する防波堤となる様にと………。
力、魔力では既にエルには敵わない。
だから、知識でそれらを回避する術を考えろと……。
マレフィキウムは、前を歩くエル達の背中を見ながら……、小さく溜息をつく。
『【 ……、魔女をやってる方が気楽じゃな… 】』
彼等が目指すはブルーモン領の城下街スパータルだが、その前に、エルとアルガロスの服、防具を調達する為にかなり遠回りになるが、エル達が活動しているカサフィン公国に隣接するダランダ公国近くへと向かっている。
両公国の境にある巨大、広大な人型の ” ユミル高地 “ 。
そこに、人間が踏み入れる事は稀なドワーフ達が住む街や村が点在しているらしい。
この地域は中立を保っており、どちらの公国にも属さない独立した国を作り上げていた。
その街の1つ、先人の名称から “ ドヴェルグ ” と名付けられた街へ向かっているのだ。
アテラス王国(アテラス国王)
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┣━カサフィン公国・領(カサフィン公王)
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┃ ┃ ┗━ノートス公国地域(ノートス公王)
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┃ ┃ ┗━ブルーモン公爵領
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┃ ┃ ┗━★城下街スパータル
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┃ ┃ ユミル高地 ┃
┃ ┃ ドワーフが住む地域 ┃
┃ ┃ ドヴェルグの街 ┃
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┣━ダランダ公国・領(ダランダ公王)
かなり遠回りと言っても、ダランダ公国領に近い所にスルトにゲートを作ってもらったので、歩く距離は1日程度。
見知らぬ人達にバレない様に、少し距離を置いて山中にゲートを作るのがスルト流らしい。
ドラから防具の調達を指示されたマレフィキウムが思考の末、彼等の魔力に耐えうる防具類をドワーフに作ってもらおうと考えたのだ。
「なぁマレフィキウム。ドワーフって怖くないのか? 襲ってこない?? 」
エル達はその存在を文献では習った事はあるが、実際に見たことがない。
「腕が4本あったりして! 」
「足じゃね? 響から考えると牛っぽいから! 」
エルとアルガロスはおどけて面白おかしく解釈していると、カルディアからダメ出しを食らってしまう。
「駄目よ、偏見なんて! そう言う所から争いが起きるんだから」
「は…はぃ……」
「見た目は私達と似てるって書いてたと思うよ! 」
カルディアの前で瞬殺される二人……。
さっきまでのおどけた勢いが何処かへ吹き飛んだ格好だ。
そんな様子を見ていたマレフィキウムが苦笑いしている。
【 モサミ…、いつもこんな感じなのかのお……? 】
と、近くで <プカプカ> と浮かびながら進んでるモサミスケールへと顔を向けた。
【 ………、あぁ。通常運転じゃわい 】
【 どう見ても知識が乏しく、幼くて弱々しい罪深き人間にしか見えんのじゃがな……… 】
両手を上げ溜息を漏らすマレフィキウムは、彼等にある程度の知識を持ってもらう為に、ドワーフについて説明しだした。
【 数千年前の知識しか無いがのぉ… 】
【 見た目は罪深き人間に似ておるが、背が低くて成人男性は皆、モッサリとヒゲを生やしておるわ 】
【 そのヒゲは彼等の誇り高き民族の象徴 】
【 ヒゲをバカにする奴は、最悪牢獄行きとなるから気を付けるのじゃよ 】
「ろ、牢獄行き!?」
目を丸め驚くエル達。
マレフィキウムは少し大袈裟に伝えているが、大筋同じ様な事が起こるので、注意を促している形だ。
【 それから男女共筋肉質での、罪深き人間より力は強く、繊細で緻密な工作が得意みたいじゃ。その特技を活かして鍛冶職を生業とする者が多くいておる 】
「へぇ~、そ〜んなんだ。でも防具を作ってもらうんなら、わざわざこんな遠く迄来なくても…」
そんな反応に対して不敵に笑うマレフィキウムは、意味ありげに言葉を置いていく。
【 ただの防具……ならな 】